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シャンバラプロ野球2020シーズン閉幕

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シャンバラプロ野球2020シーズン閉幕
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【接戦の構図】

 シャンバラプロ野球(SPB)2020シーズンは、後半戦に入ってからいよいよ混沌とし始めてきた。
 それまで快調に首位を走り続けてきたヴァイシャリーガルガンチュアに、失速の気配が見られるようになってきたのである。
 何といってもエースのサルバトーレ・ウェイクフィールドを含めた多くのベテラン選手達の離脱が大きい。彼らはチームの主力であると同時に、個別に任務を抱える契約者でもある。緊急を要する指令を受けた場合、SPBでの選手生活よりも、契約者としての使命を優先させなければならない。
 それは他のチームに在籍している選手にも同様のことがいえるが、ガルガンチュアの場合は受ける打撃が他チームの比ではなかった。
 その日、対蒼空ワルキューレ三連戦の三戦目を本拠地グレイテストリリィスタジアムで迎えた一塁側ダッグアウトは、いささか重い空気に支配されていた。
 先発マウンドに上がったミーラル・フォータムは緩急を上手く使い分け、際どいコースでも果敢に攻める投球で六回一失点とゲームを作った。
 バッテリーを組んだ捕手リズ・ロビィとは、肩車で入場したり、盗塁を刺した際にリズが肩を叩くパフォーマンスに拍手を贈るなど、ふたりで球場内を大いに盛り上げていた。
 ところが、七回以降に試合が暗転した。二軍から上がってきたばかりの中堅どころの投手が、ことごとくワルキューレ打線に捕まってしまったのである。
 七回からリズに代わって扇の要を務めているテレサ・ファルシエは、制球の定まらない中継ぎ陣のリードに四苦八苦していた。
「七回一死までの間だけで打者一巡の五失点かぁ……これは苦しい展開さぁー……」
 六回裏までは三点リードの優位な展開にほくほく顔だったリズも、流石にそれ以上の言葉が出ない。しかしリズは決して、テレサの配球を責めるつもりはなかった。否、テレサだからこそ五失点で済んでいるともいえるような状況だった。
 兎に角、ミーラルの後を受けた投手が悪過ぎた。既にこのイニングだけで三人目の中継ぎがマウンドに上がろうとしている。これでは如何にリード巧者のテレサといえども、お手上げといったところであろう。
「りずりずさん、今日はもう、駄目でしょうか?」
 六回の投球を終えるまではリズと共にノリノリで試合を楽しんでいたミーラルも、この展開には笑顔がすっかり消えてしまっていた。
 これが団体競技の難しさである。幾ら自分の調子だけが良くても、チーム全体が下降線を辿り始めると、最早どうにもならない。
 結局七回表のワルキューレの攻撃は、打者十二人、イニングの数字と同じ七得点で終了した。
 一塁側ダッグアウトに引き返してきたテレサは、相当に疲れた様子を見せていた。
 テレサと並んでファウルゾーンを歩いてきた天津恭子(天津 恭司)は、グラブでテレサの肩を軽く叩いた。
「何とかこの回で、一点でも多く取り返してみせましょう」
「そうですね……ワタシもこの回は打順が巡ってきますから、何とか頭を切り替えます」
 恭子はシーズン後半に入ってから、本職の二塁から三塁へと守備位置をコンバートされている。その為、三塁の守備には若干の不安も無くは無かったが、この七回表までの守備では無難に打球を捌いており、しっかりとチームに貢献している。
 だが問題は、次の打席である。長過ぎる守備が打撃に影響を与えたという話は、よく耳にする。この七回裏の打席で変に気張らないよう、自分自身を落ち着かせる必要があるだろう。

 逆に、三塁側ダッグアウトのワルキューレベンチは大いに活気立っていた。
 実はワルキューレもガルガンチュアと同様に、数名の主力選手を契約者としての任務の為に欠いている。その中でも最大の損失は矢張り何といっても四番一塁の馬場 正子(ばんば しょうこ)鉄人組組長の長期離脱だろう。
 だが、その馬場組長の不在を感じさせない爆発力が、今のワルキューレ打線には具わっている。その代表例が現在ルーキーながら本塁打王争いに名を連ねている小鳥遊 美羽の存在だった。
 実はこの七回表のビッグイニング中にも、美羽は23号二点本塁打を放っている。
「いやー、気持ち良かった~……やっぱり陽太が出てくれると、もう全然違うね」
「たまには犠打職人っていうイメージを払拭しておかないとね」
 いささか興奮気味の美羽に、影野 陽太は静かに笑い返した。
 七回表の攻撃は、先頭打者の陽太の二塁打から始まった。ここまで繋ぎの二番として毎試合何らかの形で得点に絡んできていた陽太だったが、この七回表の攻撃では美羽の本塁打を誘い込む為に、塁上で散々相手投手を苛々させた。
 その結果、相手中継ぎ投手の制球が甘くなり、直球が高めに浮いたところを美羽は一発で仕留めることが出来たのである。如何にガルガンチュアのテレサが優れた捕手であっても、結局投げるのはマウンド上の投手だ。その投手が精神的に未熟であれば、テレサといえども手の施しようがない。
 バッテリーは捕手だけが優秀でも意味を為さないということを、陽太が証明したようなものであった。
 と、そこへダッグアウトの奥から此華 咲耶がグラブを小脇に抱えて飛び出してきた。美羽が手渡したスポーツドリンクで軽く喉を潤わせてから、一塁側のネクストバッターズサークルへ視線を向ける。
 そこに、七回裏の先頭打者であるヤーコプ・レクターの姿があった。
 これまでに何度か対戦したことのある相手であったが、咲耶にとってはヤーコプは決して嫌なイメージのある打者ではない。今回も何とか討ち取ってみせようと腹の底で静かに気合を入れた。
「咲耶姉ちゃん、今日は三振狙い?」
「んー……どうしようかな。ガルガンチュア打線だしねぇ」
 ルーキーながら、外野のレギュラーとしてポジションを守り続けているヴィーリヤ・プラジュニャーに問われ、咲耶は神妙な声を返した。
 今や、咲耶はワルキューレの勝ちパターンには絶対に欠かせない、不動のセットアッパーとしての地位を確立している。だがその咲耶であっても、ガルガンチュア打線は強敵中の強敵だ。
 決め球のチェンジアップに加えて直球の急速にも磨きをかけてきた咲耶は、投球術という点に於いてはワルキューレのブルペンでも頭ひとつ抜け出した存在になりつつある。その日の試合展開によって、三振狙いで攻めるか、或いは打たせて取る投球を選ぶかという選択を、自分自身で考えることが出来るようになっていた。
 この日の内野は、陽太や美羽がしっかり締めてくれている。外野は、どうだろうか。
「絶対に、間を抜かせたりはしませんよ」
 ヴィーリヤと並んで、ベアトリーチェ・アイブリンガーが穏やかに笑う。このベアトリーチェも七回表の打席で適時打を放っていた。その直前の二度の打席まではミーラルとリズのバッテリーの前に完璧に封じ込められ、凡退に終わっていたのだが、七回表のビッグイニングでは他の打者の勢いにも乗せられ、中堅前に綺麗なヒットを放った。
 守備が打席に影響することが多いのは既定の事実だが、逆もまた然り。打撃結果が好守備に繋がることは珍しいことではなかった。
 ヴィーリヤもベアトリーチェも、打撃で結果を残している。ならば、守備も軽快に捌いてくれるだろう。
 咲耶の腹は決まった。
「今日は、打たせて取るよ。バックアップ宜しく」
 短くいい置いて、咲耶はマウンドへと駆けていった。
 その咲耶に後れを取らじと、ヴィーリヤとベアトリーチェが外野へと駆け出してゆく。美羽と陽太も、それぞれグラブを取ってダッグアウトを出た。
 見ると、ヤーコプがネクストバッターズサークルから一旦、ベンチに引き返そうとしている。よもや代打かと小首を捻った美羽と陽太だが、どうやらダッグアウト前で円陣を組むようだ。
 ガルガンチュア側も、再逆転を期して気合を入れようとしている様子だった。

 円陣を組んで、気合を入れ直したガルガンチュアナイン。
「よぉ~し……このままカッコ良く優勝を決める為にも、ちょいと天敵を打ち崩してみようかねぇ」
 打席へ向かうヤーコプはのんびりした口調ながら、内に秘めた闘志は相当に高ぶっているのが傍目に見ても、よく分かった。
 リズから飛んできた応援に対しても、一球入魂の気持ちで応じるヤーコプ。問題は、相手がワルキューレ不動のセットアッパーだというところであろう。
「さっき、ヤーコプさんには何とアドバイスされたんですか?」
 ダッグアウトから身を乗り出すように戦況を眺めながら、乙町 空が傍らのアードレア・クルセイドに問いかけた。
 ここまでアードレアはガルガンチュア打線のリードオフマンとして高い出塁率とチームトップの盗塁数で、何度も勝利に貢献してきた。一方の空も、ルーキーながら三割超えの打率を残し、切れ目の無い強力打線の一角を演出してきた。
 いうなれば、アードレアも空も巧打者として、一本芯の通った打撃理論を確立したスーパールーキーというところであろう。
 アードレアは、咲耶とは二度しか対戦しておらず、その投球術の全貌を把握している訳ではない。だが、その傾向はチーム全体にも情報として伝わっている。
 もし自分が打席に立つならば、と前置きしてから、アードレアは空からの問いかけに答えた。
「狙い球を速球かチェンジアップのいずれかに絞って、と」
 アードレア曰く、咲耶は緩急をつけた球を低めにコントロールしてくる。上から強く叩くイメージで、速球か遅球のいずれかに狙い球を絞るしか攻略法は無い、と考えていた。
「そうでもしないと、あのひとは打てません」
「やっぱり、そうですよねぇ」
 実は空も同じことを考えていた。狙い球以外の球種で厳しいところを突かれ、それで見逃し三振になってしまった場合はもう御免なさいと諦めるしかない。
「球種やコースが分かってても打てない相手、という程ではありませんが……」
「絞り込まないと確実に打ち返せない相手ですね」
 そこでアードレアと空は、口をつぐんだ。
 ヤーコプと咲耶の勝負が始まったのである。いつの間にか、リズとミーラルも同じように身を乗り出してヤーコプの打席にじっと意識を集中させていた。
 ネクストバッターズサークル付近では、恭子とテレサが打撃姿勢を取り、咲耶がヤーコプに投じる球に対してタイミングを取ろうとしている。
 この厄介な相手は、チーム全体で攻略する必要があった。
 終盤に来てのこの絶望的な点差ではあったが、しかしまだ誰ひとりとして匙を投げている者は居なかった。
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