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たまゆらの露 ~たそがれ夜祭り3~

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たまゆらの露 ~たそがれ夜祭り3~
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 たそがれ時は逢魔が時。
 昼と夜が混然となり、暮れなずんだ景色に、人と妖の端境がとても曖昧になる時。

 誘いかけるような笛や太鼓の音色が山から吹く秋風に乗って耳元をかすめる。
 それは、夜祭りの始まりを告げていた。




 赤焼けの空、夕日が山の稜線に触れるころ。屋台が立ち並ぶ道へ、待っていましたとばかりに大勢の客がなだれ込む。
 揺れる提灯に照らされながら歩くのは、多種多様な姿形をした、いわゆる魑魅魍魎と呼ばれる類いの者たちだ。人の世であるならば変化することで正体をごまかす者たちも、この場では真実の姿で堂々と歩く。道は3人が並んで歩ける幅があったが、まだ祭りは序盤だというのに早くもごった返して、熱気が強く立ち込めていた。
 そんな妖たちの頬を撫でるように、あるときひゅうと冷たい風が道なりに走った。
 秋風とは違う、冷気を伴った一陣の風は、何らかの作意を持っているかのように思われて。触れた者を立ち止まらせる。風の出所を探るように移ろわせた視線の先。そこには氷雪の風をまとった雪女が立っていた。
 妖たちの注目を受ける中、市川 冬香はほほ笑む。
 それは一片のぬくもりもない、それでいて雪山で出会った男を一目で釘付けにする雪女の蠱惑の微笑。
「いらっしゃいませ、お客さま。当店で、祭りの熱気を忘れて涼しいひとときをすごすのはいかがでしょうか。
 お代はお金か、冷たいものか……もしくは、あなたの強い体験。
 われこそはと思われる方は、ぜひこの入口をくぐって、中へおいでくださいませ。わたくしたち雪女が、心よりおもてなしをさせていただきます」
 思わせぶりな言葉、声。そして眼差し。
 大きく『雪女』と書かれた看板の下に開いた暗い入口に吸い込まれるように消えていった雪女を追うように、ふらふらと、あるいはわれ先にと、妖たちが殺到する。
 彼らの大多数は気付いていなかった。看板に書かれた『雪女』の文字の上には、『おばけ屋敷』の文字があったことに。


 小屋の中から時折聞こえる悲鳴や驚声に、空降 氷華はおやおやとあらぬ方へ視線を投げる。
(大方、冬香に魅了されて頭の働きを鈍くさせた者たちが、冷たい吐息をくろうておるのじゃろう)
 さもありなん。雪女とは惑わす性(さが)を持つ者だから。
 氷華は納得して、気にせず茶屋で客を接待していたが、客のほうは気にせずにはいられないようだった。
「あの……、あの悲鳴は……?」
 受け取った京茶を口に運ぶ手を止めて、おずおずと少女が尋ねてきた。
「ああ、あれか。そうおびえずともよい。あれは、楽しんでおる声じゃから」
「あれが……ですか……?」
 とてもそうは思えない、と思っているのは表情からも読みとれた。
「そうじゃ。あの小屋は『おばけ屋敷』じゃからな」
「おばけやしき……?」
「恐怖を楽しむ遊び場のことじゃ。
 ん? おぬし、『おばけ屋敷』知らぬのか?」
「怖いと、楽しいの?」
 ちょうどそのとき、ばたばたと出口から化けキツネの青年たちが走り出てきた。
 先ほどの悲鳴の主だろう。大急ぎで逃げ出した青年たちは、表に出られたことで一息つけたのか、脱力し、互いを見てわははと笑い合っている。
 それからも少しずつ間を開けて、何人かの妖が小屋から飛び出してきたが、全員、先の青年のようにすぐ笑いだした。中には髪先や着物の襟、袖などを凍らせている者もいたが、それのせいで怒ったり泣いたりしている者は1人もいなかった。
 彼らの姿に少女もほっとしてお茶を飲む。
 そうして安心すると、今度は小屋の中の様子に興味が出てきたらしい。
「おぬしも試してみるか?」
 氷華が表情を読んで提案すると、少女は一瞬表情を明るくしたものの、すぐにしゅんとなった。
「でもわたし、もう何も、ないの……。わたしがたった一つ、できたお話は、このお茶のお代にしちゃったし……」
 俯く付喪神の少女を、氷華は目を細めて見る。
 少女の身の上話は京茶を出す代金として受け取っていた。だから、それが真実ということも知っていた。
「ならば、こういうのはどうじゃ?
 おぬしの本体であるその香炉を、わらわに1度、自由にさせるのじゃ」
「えっ?」
「そうすれば、わらわ直々に最高級のもてなしをしてやるのじゃ」
 雪女の冷たい視線や冷たい吐息で、好きなだけ凍えさせてやろう。
「よいな?」
「えっ……え……?」
 とまどいがちの少女の言葉を、少々強引だったが「ええ」と解釈して。氷華はちゃぶ台の上の香炉にふうっと冷たい吐息を吹きつけて欠けた部位を凍らせた。
「ふむ。われながら良い出来じゃ。これならこの熱気の中を歩こうと、簡単には溶けぬであろう」
 満足げに呟いた氷華は、次に少女を見て。
「さあついてくるがよい。おばけ屋敷がどのようなものか、身をもって教えてやるのじゃ」
「えっ? あっ、……は、はいっ」
 そのとき、小屋から冬香が出てきた。傍らには頭や肩に雪を積もらせた妖たちがいて、がちがち歯の根が合わないながらも笑って話している。
「さあどうぞ、皆さま空いた席にお座りください。すぐに体を芯からあたためる京茶をお出しします。そうして一息ついたなら、お代のめずらしいお話、貴重な体験談を、どうぞわたくしにお聞かせくださいませ」
 にこやかに客に向かって話す冬香とすれ違いざま視線で会話をして、氷華は香炉を抱きかかえた少女を従えて小屋へ向かう。
「わらわが入った後、10数えて入るのじゃぞ」
 少女はまだよくわかっていない様子でびくびく、おどおどしていたが、覚悟を決めたように「いち、に……」と数を数え始めたのだった。
 
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