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運び屋の鑑とは

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運び屋の鑑とは
【!】このシナリオは同世界以外の装備が制限されたシナリオです。
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 アレイダ星系から外れた遙か辺境の宙域に、沈みゆく超巨大貨物船があった。
 救命シャトルを見送った船長は、救難ビーコンへ願いを託した。

 宇宙ゴミの直撃によって壊された貨物船は、緊急停止の減速行程も半ばに制御を失ってしまった。
 あと130日もすると、目的地である惑星ナヴィアⅦ(セヴン)の重力に捉えられて墜落してしまうだろう。

 出張宇宙船修理業を副業としていた船長が請け負ったのは、ロストテクノロジーを使用した環境維持装置を秘密裏に搬送することだった。縦、横、奥行きで600メートルを誇る巨大な格納庫と居住施設を兼ねたコンテナーさえあれば、それも可能だったからだ。

 この仕事を無事に済ませれば、総員321名が悠々と遊んで暮らせる報酬を得ることができる。しかし、極秘ゆえに護衛する船などは付けられない。リスクも充分に高い仕事であることは、乗組員みんなが承知の上だった。

 致命的な損害と言えば、船に電力を供給する発電施設が壊されたことだろう。これによってコンピュータも停止してしまい、制御不能に陥ったからだ。大量に放出されてしまった空気を補う術もない。生き残った乗員も脱出するほかなかった。

「さて、やれるだけのことはやってみようかのう」

 重い腰を上げた船長は、船橋の端にあるキャビネットから軽い宇宙服を取り出して身につけた。そして低電力稼働状態のコンピューターを操作して、主電力を回復するために必要な情報を探りはじめた。

* * * * * * * * *


救難シャトルより、船長へ(プロローグ)

 救命シャトルが貨物船を出発して数時間後。
 乗員たちの心にも余裕が生まれはじめていた。
「おい、みんな。これを聞いてくれ、船長のメッセージだ」
 船内スピーカーから流れた船長の声を聴いた皆は、心を強く打たれた。
 救命シャトルはかなり大振りのしっかりとした宇宙船だ。貨物船が惑星などへ降下できないため、ある程度の物はシャトルで降ろしていたからである。
 とはいえ、荷室で100人以上がのんびりと暮らしていられるような広さも資源も与えられてはいない。小さな子どもも居るし、けが人も横たわっている。

「ねぇみんな、船に引き返さない?」
 そう切り出したのはシーリーア・ミオンだった。
 船長の好意によって臨時雇いの電脳士――主にナヴィア・セヴンとの通信業務や操船の補助――として乗船していたのだが、よくしてくれた船長をどうしても見捨てることができなかった。
「賛成だ。運行規則だか船長の意地だかは知らねえが、くそっ喰らえだ。救援者として船長を保護するって名目なら連れて帰っても文句はねぇよな」
 賛同者は即座に乗員の半数ほどになった。
「ケガ人も居るし、子どもも居るからダメだ。救難ビーコンを聞きつけてやって来る賊共と鉢合わせたら目も当てられない。ナヴィア・セヴンから向かってる救助隊とのランデブーはどうするんだ? 燃料も食料も限られている。悪いが彼女の提案には賛同できない」
 意見はまっぷたつに割れた。いや、もはや疲れ果てて論外という者もたくさん居るので、3分割か。

 しかし、シーリーアの歯痒い状況は数時間後には報われることになる。

* * * * * * * * *


 宇宙をまたにかける運び屋「川上運送」の社長こと川上 一夫は、救難ビーコンの周波数帯へ重奏するように広域メッセージを発信した。
 発信元は同社保有のエクスポート級汎用宇宙船「第二白鳳丸」からだ。既に目的地へ向かって進路を取っている。
「私ども川上運送が先導する救出活動は【運び屋の鑑】と称して支援者を募っております。腕に覚えのある方や、志(こころざし)を高く持ちであるあなた様のご協力を、心よりお待ち申し上げております」
 【運び屋の鑑】の創設は、順不同で「川上 一夫」「ヨシュア・ハイランド」「クリオス・フィンクス」「デラバス・オーダイン」「リンダ・マリシタット」の5人によるものだ。

 第二白凰丸に救難シャトルから動画ファイルを使ったシリアル(単方向)通信が入ったのは、出発からしばらく経ってのことだった。一夫が艦橋でクルーと共に眺めている通信動画には、シーリーアの姿が映し出されている。動画はデータ量を抑えるために配慮され、あらかじめ言葉をよく選んでから発言されていると感じられた。
「我々の船を助けていただきありがとうございます。私たちも船長を助けに戻りたいのですが、どうしてもそれは適いません。ですので、貨物船についての情報をお送りします」
 シーリーアから得た情報によると、貨物船に外部から電力を供給するためのソケットの位置、船内に張り巡らされた通信ネットワークへ割り込む通信スロットの場所、手書きされた船内の概要図、セキュリティ・ロボットの情報、そして、メイン・コンピューターをはじめとした機能へアクセスするために必要なIDとパスフレーズが秘匿通信で届けられた。
 彼女は搭乗した宇宙港から操船の補助を行っていたため、機密の高い情報にも触れていたのである。ひょっとすると、船長はそのまま彼女を雇い続けるつもりだったのかも知れない。
「外部から電源や通信が確立できない場合、船橋にあるソケットなどを使用する必要があります。それでは、どうかお気を付けて。一同を代表してお礼を申し上げます。通信を終わります」

* * * * * * * * *


「船長にもメッセージを届けられるのか?」
 シーリーアの行動に触発されたクルーたちが、救難ビーコン宛に船長への思いを詰め込んだ電信メールを送信した。

「――私のベッドの下に、コッソリ隠したお菓子があります。食べて下さい」
「整備コンテナーの貯蔵ブースって完全密閉にもできます。そこへ溶接で使う酸素タンクを持ち込んで使うんですよ。供給チューブのソケットを宇宙服の酸素循環装置のヤツに付け替えることぐらい整備経験豊富な船長なら余裕なハズだ。金属のボンベ臭さは我慢する必要があるけど、窒息はかなり先延ばしにできる。徳用サイズが10本ぐらいあったけど……無事かな」
「調理施設にある電子調理器はバッテリー駆動もできるわ。保冷庫から軽食とセットで持ちだせば贅沢な食事が取れるわね。両手に抱えても無重力なら余裕でしょ?」
「ヴィーグル(車両)向けの冷却剤を薄める超純水が残っていたらラッキーですよ。適当な食材で濁せば飲み水になるでしょう。多少の腹痛は大目に見て下さい」
「娘がメッセージを送信する機械にヌイグルミを見せています。ご存知の通り、いつも手にして放さないアレですよ。思い出してあげて下さい」
「セキュリティ・ロボットぶっ壊して、そのバッテリーの電力をそのボディに流せば、即席の熱源に化けるかも知れない。破裂しても知らんけど、凍え死にそうなときはバクチを打っても良いかも知れないぜ。生きてるうちに1度ぐらいは賭け事に興じてもな」
「どうか諦めないで下さい。まだ何も恩を返していませんから、どうか生きて帰ってきて下さい」

 貨物船の船橋に設置されている救難ビーコンに、メッセージの受信を示すランプが灯った。

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