1. PM16:00 樹上の足場
イーグ・ヨルドの捜索依頼を受けた契約者達は、二段構造のエレベーターを抜け、下層の森へと足を踏み入れていた。
「普段は辿り着けない場所とはロマンがあるのう……! 何があるか分からぬが、色々見て回るのじゃ!」
……もしかしたら受けていないのかもしれない。
イオン・ノートは樹上の足場に飛び出すなり、楽しそうにそんな声を上げた。
「普段は訪れる事の出来ない下層の森……面白そうではありますが、それ以上に危険な場所ですね。主様の身を守らなくては」
人見 三美は周囲を慎重に見まわしながらそう呟く。
「へぇ、ザンスカールにはよく来るけど……下層にこんな森があったんだね」
小鳥遊 美羽も興味津々の様子で森の景色を眺めている。
「まさかザンスカールの『底』の街の下にこんな森が広がっているとはな。普段は入れない場所となれば――探索するしかないな! 『深淵探索隊』出~発っ!」
火屋守 壱星はそう言って、意気揚々と前進を開始する。
(深淵探索隊、壱星は気楽ですね……好奇心は分かりますけど、こういう森って安易に踏み込むと危険なんですよね。私も子供の頃はよく怒られたなぁ……ここに入ったら駄目でしょ!? って。なんだか嫌な予感がします、ヨルドさんを一刻も早く連れ戻しましょう)
晴海 志桜里はそう思いながらも、壱星に従って歩き始める。ハンドヘルドコンピュータ。歩きながら端末を弄り、マップを作成しつつ確認する。
(エレベーターが何故”このタイミングで”誤作動を起こしたのか気になるわね。先にこの場所を訪れているヨルドさんも気がかり――急いだ方が良いわね!)
エミーリア・ハイセルターも、壱星に追従しながらもそう考えていた。裏に漂う胡散臭さを察知しているように見える。(しっかし、魔道の正装にライブラマントと司書の眼鏡……まるで研究者ね)自嘲する。
遠く、声のようなものが聞こえた。犬の遠吠えのような――だが、人の声のようにも聞こえる。
「――来た!」
空賊王のブーツ。バーストフライ。美羽は翼と沓で一瞬にして直上へ飛び上がった。美羽がいた場所に大曲刀が叩きつけられる。「女の人――!?」反撃。ロイヤルサンクション。美羽の放った光輪が女の動きを止め、そこへ美羽が大剣《スレイブオブフォーチュンR》を振り下ろす。(で、でも――!)防御。動けない女は曲刀で美羽の斬撃を止めた。笑う。
「手加減のつもり?」
「殺したくないの、降参して! ――ていうか、なんで襲ってくるの?」
「敵――!?」
御者の心得。暗がりから何者かが飛び出し、三美は落ち着いたステップで回避した。泥に汚れた斧を手にした、ゴブリン。「一体なら……!」正義の鉄槌。三美が持つシャンバラ六法全書が巨大化し、振り下ろされたそれが泥喰を叩き潰す。
「化物までおるのか! 襲ってくるなら容赦せんぞ!」
イオンは魔法の砲機で飛翔し、上空から森を俯瞰する。「むむ――そこか!」こちらへ向かってくる泥食を見つけ、神威の矢を放つ。光矢が泥喰を撃ち抜き、泥喰は悲鳴を上げて倒れた。
「やっぱり! ほら来ましたよ壱星! 指示を!」
「分かってる! ∧《アロー》隊形だ! 志桜里が先頭、俺とリアで援護する!」
「任せなさい!」
志桜里はまずエンデュアで耐性を高め、そこへ泥喰が襲ってくる。高貴な構え。ファランクス。光刺剣《ラスターツインレイピア》から光のフィールドを放ち、泥喰の斧を弾き返す。体勢を崩した泥喰に剣を突き立て、抜き放つと同時に泥喰の身体からドス黒い血が噴き出した。
「次の奴は――そこか!」
野生の勘。インサイト。暗闇の中を走る泥喰を発見し、壱星は星輝銃を構えた。銃撃。放たれた光条が泥喰を射抜き、泥喰は唸りを上げて壱星に向かってきた。「仕留めきれないか……!」
「壱星!」
剣の結界。エミーリアが自分の周囲を浮遊する剣の一本を泥喰に放つ。命中。光の剣が泥喰に突き立ち、倒れる。
「まさか、貴女達みたいのが追ってくるとはね……でも、ダメよ。ここに目を付けたのは私が最初。そして、ただの宝探しのつもりじゃ、どうせ『あれ』には届かない」
「なんの話――!?」
敵が動く。ナガコが大曲刀を振り下ろした。命中。すんでのところで間に合わず、美羽は胴を袈裟に斬られる。一瞬身体の感覚が無くなり、傷口から異様な量の鮮血が噴きだした。
「毒――!?」
「ふふふ……この瞬間が堪らないわ。私のスペシャル・カクテル、たっぷり愉しんで?」
「くっ――!」
反撃。百合の嵐。美羽の剣から白百合が舞い散る。ナガコはバックステップでそれをかわし、毒が癒えた美羽は立ち上がって剣を構え直した。「……やるじゃない」
「来る――!」
三体の泥喰が三美に襲い掛かった。神の目。三美が読み上げた条文が強烈な光の爆発となり、泥喰達を吹き飛ばす。しかし一体が起き上がり、斧で三美に斬りつけた。命中。「あうっ!?」
「三美!」
上空からイオンが光矢を放ち、泥喰を撃ち抜く。「おおう、毒斧か。少し待っておれ」「すみません、主様……」「ふふん、たまにはわしが世話してやろう」キュアポイゾン。イオンが三美の毒を治癒する。
「そろそろ降参してくれないかな――!」
「冗談。まだこれからでしょ?」
美羽の剣とナガコの刀がぶつかる。ナガコは一回転して美羽の脚を狙い、美羽は跳躍してかわす。バーストフライで急降下して斬りつけるが、ナガコはバックステップでかわす。「そこ!」「何!?」ロイヤルサンクション。光輪がナガコを束縛し、美羽の連続剣が襲い掛かる。「くっ――!」ナガコは刀で防御するが、全ては防げない。やがてガードを崩され、美羽の剣がナガコを斬り裂いた。「この――!」「え!?」反撃。振り下ろされたナガコの刀が美羽を斬り裂く。罹患。美羽は一度距離を取り、百合の嵐で解毒する。
「ロイヤルサンクションを受けても反撃してくる……!?」
「準備は万端みたいね。じゃあ私も」
ナガコは懐から薬瓶を取り出し、呷った。回復薬。ナガコの傷も回復する。「さあ、続けましょうか」言って、刀を構え直す。美羽も同じく構え直した。