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【アルカナ】The roseate fullmoon~薔薇色満月~

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【アルカナ】The roseate fullmoon~薔薇色満月~
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 西村 瑠莉の信条は、いかなるときも常に優雅で華麗に美しくあれ。それこそが砕け得ぬメイドの心得。
 つまりはメイド。人に奉仕することを喜びとする者だ。
 だからツアーガイドのソラスリュクス兄弟と対面したとき、瑠莉はさっそく申し出た。
「メイドとして雇ってはもらえないでしょうか」
 ソラスは面くらい。
「ええと……。それって、助手としてってこと?」
「私はメイドですが、ええ、そうとも言えるかと思います」
 ……見る限り、冗談ではなく、本気で言っているようだ。
「でも、あなたはお客さまで――」
「兄さん」
 つんつん、とリュクスが服の裾を引っ張った。
「あと一人二人人手がほしいって言ってたじゃん。今は稼ぎ時だからって。
 この際手伝ってもらったほうがいいかもよ?」
「それはガイドで――」
 リュクスが親指でクイッと後ろを指す。そこにいる、出発を待つ大勢のツアー客を見て、ソラスも言葉を続けられなくなった。
 完全に二人では手に余る数だった。つい欲を出して、請け負ってしまったのは自分の過失だ。
 ソラスは一度茜に染まった空を仰ぎ。
「ええと……。じゃあ、お願いします。無理のない範囲で」
 瑠莉は微笑し、「はい」と答えた。


 アース・フェインに着いたのは、日が沈む前だった。休憩所に到着する頃にちょうどいい時間帯になるからということらしい。
「皆さーん、はぐれないようについて来てくださーーい!」
 ソラスが先頭に立ち、リュクスが殿を務める。
 瑠莉の役目は、その中間で壁に沿って皆を歩かせることだった。岩壁をくり抜いた通路は一方通行で、二人が立つ程度しかない。崖側にはロープが張られているけれど、そこから身を乗り出して谷底や谷の風景を見ようとする者たちが後を絶たなかった。
「皆さんがお立ちになっている位置からも、十分月は見えます。それにこの先には休憩所が幾つも設けられています。そちらではごゆっくりと風景をご堪能することができますので、もうしばらくお待ちください」
 休憩所に着くまで、少なくとも50回は口にしたように思う。
 しかし大抵の人が苦痛に感じるその行為も、瑠莉は終始にこやかな笑みを絶やさず、星華一天の誘導術で、石に爪先を取られたり階段の段差で躓いたりしないよう気を配った。
「皆さま、お疲れさまでした。お飲み物や軽い食事はいかがですか?」
 休憩所ではメイドの本領を発揮して、用意していた紅茶や軽食の入ったランチボックスを手に人々の間を縫って歩く。そうしているうち、ユンの姿を人の間に見かけて立ち止まった。
 遠目からも鬱々とした表情で、他の人のように月を見上げる気配もない。
 思わず傍に駆け寄りそうになったが、彼女を必要とする手があちこちからたくさん伸びてきて、それは叶わなかった。
「はい、はい。ただいま」
 飲み物や軽食を欲しがる者たちを相手に忙しく立ち働きながら、瑠莉は遠目に祈った。
(ユン様、心に決めたことであれば、どこまでも頑張れます。どうか決して折れぬように、今この時だけは。これからの為に、心安らかな時を過ごせますように……)
 
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