クリエイティブRPG

シャンバラプロ野球再び

リアクション公開中!

シャンバラプロ野球再び
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8  Next Last

【オーナー達】

 紅白戦は結局、紅組6点、白組6点のイーブンで終了となった。
 各選手候補に対する評価もこの時点でほぼ完了しており、合否の発表は各希望入団チームの臨時事務所で行われる運びとなった。
 入団希望者が最多となったヴァイシャリーガルガンチュアは、スカイランドスタジアム内に設置されている会議室を臨時事務所として使用することになっていた。
「はぁー、いよいよ発表さー」
 緊張と期待感がないまぜになった様子で、リズが何度も深呼吸を繰り返している。アードレアやタバサも、室内を行ったり来たりして、妙に落ち着かない。
 他の面々もなるようになるしかないと腹を括ってはいるが、矢張り気持ちが浮ついてしまうのは仕方の無いところであろう。
 その時、不意に会議室の扉が勢い良く開け放たれた。それこそ、誰もが一瞬びくっと肩を震わせてしまう程の大きな音で。
「いらっしゃぁい」
 妙な声が響いた。否、声というよりは、台詞であろうか。
 その場に居た全員が目にしたのは、奇妙な人物の容姿であった。
 何故か燕尾服に蝶ネクタイ。しかも黒髪はびっちりと七三分けで綺麗に揃えられている。五十代半ばの中年男性だが、不意に右の掌(というよりは手刀に近い)で、特徴的な七三分けの頭をさっと払い上げる様な仕草を見せた。
「全国65億のご婦人の皆様、こんばんは。窓辺のマーガレット、サニー・ヅラーでございます」
 誰もが、思いっきり不審げな表情を見せた。
 ただひとり、ミューレリアだけは、
(何なんだ、この既視感は……)
 と、変な頭痛を感じている。
 だが間違いなく、この人物こそはヴァイシャリーガルガンチュアの敏腕オーナー、サニー・ヅラーそのひとであった。
 SPB参入初年度からガルガンチュアを集客数一位へと導き、ウェーバー方式ドラフトを導入させるなど、様々な実績を残している。
 知識としては理解しているものの、いざこうして顔を合わせると、本当にこのサニーさんが敏腕オーナーなのかと疑いを抱いてしまうのは、至極当然の話ではないだろうか。
「さぁッ、今日もやって参りましたオープニングクイズの時間でございます。一万円百万円運命の分かれ道。果たしてヤーコプさんは、見事この難関を打ち破ることが出来るのでしょぉっか~~~!」
「えぇッ!? ぼ、僕ですかぁッ!?」
 いきなりご指名を喰らって、ヤーコプは動揺した。
 そんなヤーコプを置き去りにして、不自然な程にキレのある動作と派手なジェスチャーを交えつつ、いきなりクイズの出題様式に関する説明を加えるサニーさん。異様な程にテンションが高い。
 その場の全員が、恐怖に駆られた。こんな意味不明なおっさんがオーナーとは、果たしてガルガンチュアは大丈夫なのか。
 そして彼ら彼女らの恐怖は絶頂に達する。突然どこからともなくマンボのメロディーが大音量で流れ出し、サニーさんはひとり意味不明な踊りを披露し始めたのである。
 踊っているサニーさんは至極上機嫌であったが、見せられた方は堪ったものではない。
 やがて、マンボのメロディーは終了。バックコーラスが締めの『ゥゥウッ!』というお決まりの唸り声を放つと同時に、サニーさんは右手刀で七三分けを払い上げる例のキメポーズをビシっと決めた。
 何ともいえない微妙な空気が、会議室内に充満した。
「さぁッ! お答え頂きましょうッ! わたくしがここに来たのは、トライアウトの合否を発表する為でしょうかッ!? 或いは否やッ!?」
「え、違うんですか?」
 するとサニーさんは手近のパイプ椅子に腰を下ろし、そこから盛大にずっこけるような調子で椅子から転がり落ちた。そのままむくりと起き上がったサニーさんはげひゃひゃひゃひゃひゃと恐ろしく下品な笑い声を高らかに放った。
「自分、滅茶苦茶アホやなぁ。そんなもん、全員合格に決まっとるやないかぁ」
 全員合格──それは良いのだが、感動も嬉しさも何ひとつ感じられない合格発表。未だかつてない、あり得ない程の不気味な感情がガルガンチュア合格者全員の胸中に襲い掛かってきた。
「さぁ本日の、新人さんいらっしゃいのお時間はここまででございます。皆様この後も、良い一日を」
 己がいいたいことだけを一方的にいい散らかして、サニーさんは会議室を暴風の如き勢いで飛び出していってしまった。
 まさに呆然。そう呼んで差し支えない空気が、室内を支配していた。
「えぇっと……合格、なんですよね?」
 恭子がミーラルに訊いた。ミーラルは分からないといった様子で、不安と恐怖の入り混じった顔色を見せて曖昧に頷く。
 空と捷子はパイプ椅子に腰を下ろしたまま、凝り固まってしまっていた。いや、空と捷子だけではない。リズもアードレアもタバサも、そしてテレサも、身動きもままならない様子ですっかり硬直してしまっている。
 ひとりだけ、例外が居た。ミューレリアである。
 彼女の意識の中で、サニーさんのあの狂態が忌まわしき記憶としてまざまざと蘇ってきた、ような気がしていた。
「そうだ……絶対そうだ。それは、紛れも無く、奴さ」
 ヴァイシャリーガルガンチュアに晴れて入団を果たした新人選手達の試練が今、始まろうとしている。


     * * *


 ヴァイシャリーガルガンチュアの新人選手たちは波乱の幕開けならぬ、波乱の顔合わせを果たした。
 一方、次に希望入団者数の多かった蒼空ワルキューレの選手希望者達は、球団事務所専用のカンファレンスルームへと通されていた。
 室内前方の大型スクリーン前に立っていたのはワルキューレのオーナー、ナベツネの異名で親しまれている田辺 恒世(たなべ つねよ)であった。
 田辺オーナーの左右には、この日ワルキューレの広報担当として採用されたばかりの宵一とリイムがアシスタントとして静かに控えている。
 最初に田辺オーナーが全員合格の旨を告げると、選手候補者達の間から素直に喜色を帯びた声が上がった。晴れてワルキューレの新人選手としての地位を得た彼ら彼女らの喜びの肥がひと通り鎮まったところで、田辺オーナーは宵一とリイムに命じて、各新人選手らに契約書や誓約書、ロッカー使用申請書、ユニフォームの採寸日程表等を次々と配布させていった。
「背番号は概ね、皆さんのご希望通りになるかとは思いますが、ポジションに関しては現場の采配次第となりますので、私の口からはお約束は出来ません。そこはご承知おき下さいね」
 その田辺オーナーと入れ替わる格好で、室内最後方に席を陣取っていた福本監督が立ち上がり、大型スクリーン前へと歩を進めてきた。
「ほな、ポジション発表な。投手は鳴神、此華、このふたりは決定」
 裁と咲耶は、互いに顔を見合わせて小さく微笑み合う。基本的に投手は何人居ても良いといわれるポジションだから、当然といえば当然の結果であろう。
 次いで保守は、正義。こちらも順当だ。トライアウトを受けたワルキューレ入団希望者として、捕手を希望していた者は正義の他には居なかったのだ。
「マッケンジーが抜けたから、新人からいきなり正捕手争いに加わることも出来るよ。頑張ってな」
「はい……全力を尽くします」
 途端に、正義の面が緊張に引き締まった。新人としてではなく、いきなり正捕手争いを演じる競争の渦中に投げ込まれることになるのだ。今、この瞬間から戦いは始まったといって良い。
 結果によっては裁と咲耶の女房役として不動の地位を得るかも知れないのである。ふたりが正義に、頑張ってねと小声でエールを贈ってきた。
 内野は二塁手に陽太がほぼ確定したが、美羽に関してはまだ適性が分からないということで、保留となった。但し打撃に専念して貰うことになる予定だから、恐らく三塁になるだろうとの由。
 外野はヴィーリヤが右翼手、クロノスが中堅手で確定した。それぞれ、福本監督が自身の目で適性を確認した上での結果であった。
 クロノスはほっと安心した様子だったが、ヴィーリヤは両手で拳を握り締め、何度も何度も、兄貴やったぜと小さく呟き続けていた。
 逆にアサリルとベアトリーチェは同じ外野でも守備位置は確定していない。今後は競争で、それぞれの守備位置を勝ち取って貰いたいと福本監督は最後に締めた。
 ひと通りの説明が終わったところで、解散となった。
 福本監督と同じく室内最後方に陣取っていた馬場組長も、新人選手達の顔をしっかりと記憶に焼き付けてからゆっくりと席を立とうとしていた。
「はぁー、結局ポジション固まらなかったなぁ」
 美羽が幾分残念そうに、馬場組長に声をかけた。馬場組長は、今からでも遅くないから希望する守備位置の練習を重ねた方が良いとのアドバイスを美羽に送った。
「これから、一二塁間でコンビを組ませて頂くことになりますね……どうぞ、宜しくお願いします」
 美羽の隣りに立った陽太が、何の物怖じも無く馬場組長に手を差し出した。馬場組長は静かに握手を返しつつも、陽太と美羽の顔を見比べる。
「……どうか、しましたか?」
「いや、或いはうぬらがポジション争いをすることになるのでは、と思っていたものでな」
 結局美羽は三塁が濃厚ということで話は収まったが、今後のキャンプやオープン戦次第では、それもどうなるか分からないだろう。


     * * *


 ツァンダワイヴァーンズの臨時事務所はこじんまりした一室だった。
 通されたのは焔子と菊のふたりだけであったが、応対したスタインブレナー氏と誠也は、入団希望者が少なかったからといって決して腐った様子は見せなかった。寧ろ、人数が少ないからこそ、じっくり見ることが出来たと満足げな様子だった。
 更に、来季から正捕手として移籍してきたマッケンジーが遅れて入室してきた。
 焔子も菊も、現役の一級線捕手が同席するということで、多少の緊張は禁じ得なかった。
「合格おめでとう。これで君達も、俺と同じ釜の飯を食う同僚って訳だ」
「はい……ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます」
 まず焔子が丁寧に頭を下げた。文字通り焔子は投手として、マッケンジーに弟子入りする格好になるのかも知れない。
 一方の菊はというと、先日まで馬場組長と同僚だったというマッケンジーに対して複雑な感情が胸中にちらついていた。
「ぶっちゃけ、あたしは正子と勝負したいって気分が強いんだけど、実際、正子はどんな選手なんだい?」
「手堅いよ。ああ見えて」
 その外観から大砲というイメージの強い馬場組長だが、意外と器用な打撃と堅実な守備を誇るということらしい。菊もその点は或る程度予測はしていたが、こうしてマッケンジーの口から直接聞かされると、何となく身の引き締まる思いだった。
「今のところ投手はまだまだ数が足りないぐらいですし、外野も、特に右翼手は競争が激しいということですから、弁天屋選手にもチャンスは大いにあると思いますよ」
 誠也が外野の布陣を記した守備表をテーブル上に差し出すと、菊は食い入るようにじっと見つめた。
 戦力が整っているワイヴァーンズというのは今季までの話だ。四番とエースが流出した以上、競争が激化するのは他のチームと変わらない。
 ところで、とスタインブレナー氏が不意に話題を変えてきた。
「ワルキューレでひとり、職員採用試験に落ちた人物が居るらしくてね。出来ればうちで採用試験を受けさせようかと思うんだが」
 スタインブレナー氏が誠也に目線で問いかけたが、誠也も今日職員に採用されたばかりであり、どう答えて良いものか分からない。
 尤も、スタインブレナー氏は誠也に訊いているというよりは、己の考えを纏める為に、敢えて口にしたという色合いの方が強いだろう。
「良いんじゃないですか? 確か、マスコットガール希望で落とされたんでしたっけ。ナベツネさんはそういうのにはあんまり興味無いひとですが、オーナーは大いに興味ありなんでしょ?」
 マッケンジーにいわれて、スタインブレナー氏はにやりと笑った。
 あぁ、こういうひとなんだな──焔子と菊は何ともいえない顔つきで、互いに視線を交わした。
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8  Next Last