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シャンバラプロ野球再び

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シャンバラプロ野球再び
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【紅白戦開始】

 紅白戦は、7イニングの練習試合という形式で実施される。
 選手候補全員が何らかの形で出場し、実戦の中での適性を見極められることとなる。
 紅組は一塁側ダッグアウトに、白組は三塁側ダッグアウトにそれぞれ呼び集められ、先発オーダーが発表された。
 紅組の先発投手は、此華 咲耶。本来咲耶はリリーフを希望していたのだが、福本監督が適性を見たいからとの理由で、咲耶を先発に起用した。
 外野は左翼手ベアトリーチェ・アイブリンガー、中堅手クロノス・リシリア、右翼手ヴィーリヤ・プラジュニャーの布陣で臨む。
 内野は一塁手に馬場組長、二塁手に陽太、三塁手に小鳥遊 美羽、そして遊撃手は凛。捕手は正義が務める。
「私ね、去年の正子達の試合を見てたら、自分も野球やりたくなったんだッ!」
 守備位置に就こうとしてダッグアウトを出たところで、美羽が瞳を輝かせて馬場組長の強面に笑いかけた。馬場組長も、まんざらではない様子でにやりと不敵な笑みを返す。
「わしの見たところ、うぬもベアトリーチェも基礎体力、シート打撃共に及第点だった。ここでしっかり結果を出せば、今季は同じユニフォームを着ることになろうぞ」
「わぁ……それは嬉しいですね」
 ベアトリーチェは馬場組長からの思わぬ高評価に、思わず頬を緩めた。ベアトリーチェ自身、野球に関しては技術もルールも頭では理解している。だが実際にやってみると中々難しいものであると実感しており、それだけに、馬場組長からこれだけの評価を貰えたことが素直に嬉しかった。
 一方、外野へ向かうクロノスは、気合を入れようと何度も自身の頬を軽く叩いているヴィーリヤに、凄い気迫だねと感嘆の吐息を漏らした。
「さっきのシート打撃でも粘りに粘って、センター越えの良い打球飛ばしてたし……もしかして、今日のトライアウトを物凄く楽しみにしてたんじゃ?」
「まぁな……日頃の成果を遂に試す時が来たってなところだ」
 クロノスに応じながら、ヴィーリヤは右翼側外野スタンドに視線を彷徨わせた。そこに、小太郎の柔和な笑顔があった。
(見ていてくれ、兄貴……オレの全力、思いっきりぶつけてくるぜッ!)
 どこまでも野球を愛する心と、小太郎への想い──今のヴィーリヤは、ただ成功だけを手中に収めるイメージしか出来ていない。あらゆるネガティブな発想は思考の彼方へと押しやっていた。
 尤も、心は熱くても実際のプレーは冷静沈着に臨む必要がある。中堅手クロノスの指示には的確に従い、守備では絶対にミスを犯さぬよう、細心の注意を払わなければならなかった。
 少し遅れて、ベアトリーチェが左翼の守備へと就く。
 マウンド上の咲耶は内野陣がボールを廻している間にマウンドの堅さを入念にチェックしており、駆け寄ってきた正義と軽く打ち合わせをした。
 やがて、ボールが咲耶のグラブに戻ってきた。いよいよ、プレーボールのコールがかかる。
 白組の先頭打者は、ヤーコプ・レクター。左投左打の外野手だ。右対左という形ではあるが、まだまだ左右相性を語れる程の実績は、今の咲耶には無い。ただ兎に角、与えられた場面で最高の投球を見せるしかないだろう。
 咲耶はセットポジションから入る投球スタイルだ。ワインドアップは不要だと考えており、独特のテイクバックからしっかり体重移動し、体全体を使って投げる下半身重視型の投手だった。
 捕手の正義はヤーコプに関する情報を何ひとつ持っていない為、まずは咲耶の投球スタイルに重点を置き、様子見で外角への直球を要求してきた。
(うん……まずは妥当なところだね)
 分かっていても打てないような、鋭い切れのある球種を持っていれば、いきなり内角を突くというのもひとつの手ではあろうが、咲耶は力で捻じ伏せるタイプの投手ではない。どちらかといえば、打たせて取るタイプである。
 その為、慎重に相手のタイミングの取り方を狙い球を見極めながら探りを入れてゆくというリードが、一番性に合っている。正義は、咲耶のそんな思考にしっかりリードを合わせてくれていた。
 初球と二球目はいずれも外。直球で相手のタイミングの取り方を見てみる。三球目で、内角へのチェンジアップを投げ込んだ。ヤーコプは狙いが外されたと同時に、タイミングも崩されている。恐らく、この三球目に投げ込まれたブレーキの利いたチェンジアップは全く頭に無かったのであろう。
 そして四球目は再び外角。内角への遅球が残像として残っているうちに、再びタイミングを揺さぶる為の直球を低めに集めた。だがこの直球にはヤーコプは反応しない。外角が見せ球だということに気づいたらしい。
(なら、お望み通り内角で)
 咲耶が五球目に投じたのはやや内角寄りのフォーク。ほとんど直球と同じ軌道で投げ込まれてきた為、ヤーコプは再びタイミングを崩されがちだったが、今度は確実に喰らい付いた。
 尤も、打球に力が無い。チェンジアップのイメージが強かった為か、若干振り遅れていた。
 掬い上げた打球はふらふらと右翼方向へと上がる。
「ライトッ!」
 クロノスが指示を出すが、それよりも早くヴィーリヤがしっかり目測を取って落下地点に入っていた。
「オーライ、オーラーイッ!」
 大きく声を出して、確実に飛球をグラブに収める。決して球際に強いとはいえないが、基本には忠実に、がヴィーリヤの守備である。堅実といって良い。
 ヤーコプは苦笑いを浮かべながら、ネクストバッターズサークルでバットを振っている選手とひと言ふた言交わしてから、ダッグアウトに消えていった。


     * * *


 少しだけ、時間を遡る。

 紅白戦開始直前、三塁ダッグアウト側の白組は、リズ・ロビィの呼びかけで円陣を組んだ。
「トライアウトでも、あたしらの初試合ッ! さぁ一球入魂さーッ!」
 気合を入れて拳を振り上げるリズ。その胸元が妙に硬く強張っているのには理由があるのだが、事情を知っているヤーコプはただ苦笑するばかりで、何もいおうとはしない。
 このトライアウトでは、リズは男性として選手候補に臨んでいる。だがSPBではもともと性別にはほとんど関心が払われておらず、リズが男性だろうが女性だろうが、機構としては大した問題ではなかった。
 だが個人レベルでは性別というものは非常に大きな意味を持つ。例えば、リズとは真逆の立場で今回のトライアウトに臨んでいる天津 恭司ならぬ天津 恭子(あまつ きょうこ)等は、まさにその筆頭株であろう。
 現在の恭子は誰がどう見ても、年若い少女である。しかし少女であろうがむさ苦しいおっさんであろうが、選手として成績を残すことが出来れば、何でも良い。それがSPBのスタンスであった。
「白組先発は不肖このわたくしめが務めさせて頂きますわ……どうぞ宜しくお願いしますわ」
 ぺこりと頭を下げたミーラル・フォータムに対し、バッテリーを組むリズは大丈夫だよと優しい笑みを返した。
 ヴァイシャリーガルガンチュアへの入団を希望し、そこで正捕手を目指すリズにしてみれば、同じくガルガンチュアの投手陣入りを目指すミーラルは近い将来のチームメイトだ。ここでしっかりコミュニケーションを取っておくのは、リズにとっても悪い話ではなかった。
「それにしても、ヴァイシャリーガルガンチュアの入団希望者って意外と多いんですねぇ」
 恭子が妙に感心した様子で、白組メンバーをぐるりと見渡す。
 選手候補のエントリーが始まった時点では蒼空ワルキューレが断トツに多いように思われたのだが、最終的ににはガルガンチュア入団希望者が最多数となっていたのである。
「そりゃあやっぱり、ネーミングが格好良いからに違いないさー」
 リズの呑気なひと言に、恭子もミーラルも、ははぁそんなものですかと、何ともいえない表情を返す。逆に入団希望者がブルトレインズは一体何が悪かったのだろうかと、球団関係者はひたすら頭を抱えていたという話であった。
「さて……皆、挨拶は済んだかい?」
 ダッグアウトから幾分間延びした声が響いた。今季からワイヴァーンズの一員として扇の要を担うことになったジョージ・マッケンジーが、ゆったりとした足取りで円陣の外側に歩を運んできた。
 今回のトライアウトでは紅白戦の補欠要員として参戦しているマッケンジーだが、同時に馬場組長と同じく試験官として選手候補達をグラウンドレベルで細かくチェックする仕事も請け負っていた。
 マッケンジーの本職は捕手であったが、リズやテレサの適性を見る為に、今回は敢えて一塁手としてチームに加わっていた。
 リズとテレサは、マッケンジーの姿を見た瞬間に僅かな緊張を見せた。プロの捕手としては、マッケンジーはまさに雲の上の存在ともいえる。それ程の人物が、こうして間近で接してくれているというのは、リズにとってもテレサにとっても非常に有難い話であったが、同時に恐ろしい程の緊張感を強いられる瞬間でもあった。
「まぁ俺は皆の足を引っ張る為に居るようなもんだから、適当に流しててくれて良いよ」
 はははと軽く笑うマッケンジー。
 ここで気後れてはならじと、リズはもう一度声を張り上げて、全員に気合を入れた。
「よーし、それじゃあ僕も一球入魂で、ちょいと攻めてこようかな」
 小器用さをアピールする一番打者として、ヤーコプはバットを手に取り打席へと向かう。この紅白戦では、白組が先攻だった。
 早速リズがヤーコプにひと言、耳打ちする。実は円陣を組む前から、リズは投球練習を始めている咲耶のモーションをしっかり観察していたのだ。
 このような細やかで、且つ抜け目のない気遣いが捕手には求められる。リズには、その適性が大いにあるといって良いだろう。
「あちらの先発さんは、元々はリリーフ志望のようですわね」
 長いイニングを投げることを前提に肩のスタミナを鍛えているミーラルとは、少しばかりタイプが異なる。先発には先発の、リリーフにはリリーフの投球術があり、咲耶はともすれば、その両方を兼ね備えているようにも思えたのだ。
 白組のオーダーは一番がヤーコプ、二番がマッケンジー、そして三番に恭子が入っている。最初のイニングで対戦する恭子も、リズがヤーコプに与えたアドバイスは非常に気になるところであった。
「どんなアドバイスを?」
「相手はまず探りを入れてくるタイプだから、外角は捨てて良い、っていったさー」
 しかし逆をいえば、内角で揺さぶりをかけてくる可能性も高い。その点をどう対処するかが、先頭イニングの課題であろう。
 恭子とミーラルは、マウンド上の咲耶の投球モーションを食い入るようにじっと見つめた。
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