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シャンバラプロ野球再び

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シャンバラプロ野球再び
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【挑戦の幕開け】

 蒼空学園の第二グラウンドに、幾つもの元気な声が響き渡る。
 この日、SPB(シャンバラプロ野球)に所属するプロ野球チーム蒼空ワルキューレの本拠地として使われているスカイランドスタジアムでは、今秋から開幕するSPB2020シーズンに向けた合同トライアウトが開催されようとしていた。
 ネット裏の観客用ベンチには蒼空ワルキューレの他、ツァンダワイヴァーンズヴァイシャリーガルガンチュア葦原ホーネッツヒラニプラブルトレインズイルミンスールネイチャーボーイズの各採用担当が手元に分厚い資料を携え、グラウンド上で駆け廻る多くの選手候補達に鋭い視線を送っている。
 一塁側ダッグアウトには、料理研究同好会『鉄人組』の組長馬場 正子(ばんば しょうこ)の巨躯があった。
 馬場組長は、蒼空ワルキューレに於いて5番ファーストのレギュラーを張る実力の持ち主である。その馬場組長は今回、トライアウトに参加する選手候補達に諸々の課題を与える試験官として、このスカイランドスタジアムに足を運んでいた。
「正やんのお眼鏡にかないそうな逸材は、おるやろか?」
 同じく一塁側ダッグアウトのベンチ内にゆったりと腰を下ろしている、二十代後半の女性が妙にとぼけた笑みを馬場組長に向けた。
 蒼空ワルキューレの監督、福本由香奈(ふくもと ゆかな)であった。地球では日本女子プロ野球のとあるチームでエースとして最多勝を獲得し続けてきた、実力派である。
 その福本監督は現在、コントラクターとしてパラミタ大陸に上り、ここツァンダで蒼空ワルキューレの指揮を執っている。
 馬場組長の野球選手としての適性を見抜いたのも、この福本監督であった。
「見知った顔も何人かおるようだが、手加減無しで臨むつもりだ。その上で監督もこれは、と思う人物が居たら気にかけてやって貰いたい」
「……そらつまり、有望株が大勢おる思うて良さそうってこっちゃな」
 福本監督は上体を起こして身を乗り出す格好で、グラウンド上の選手候補達をぐるりと見渡した。

 合同トライアウト最初のメニューは、基礎体力測定である。
 選手希望者達は50メートル走のタイムや遠投距離測定、持久力走等で汗をかき、SPBに所属する選手として必要最低限の身体能力やスタミナを有しているかどうかを見極められることとなる。
「いや~、ついに始まりましたねぇ~」
 一連の基礎体力測定を終えたビーシャ・ウォルコットが、透き通るような晴天に向けて気持ち良さそうな笑みを向けた。
 三塁側ファウルゾーンには、基礎体力測定を終えた選手候補達がそこかしこでクールダウンのストレッチに入っている。ビーシャもそういった面々のひとりであった。
 そのビーシャは今回、外野手希望として合同トライアウトにエントリーしている。希望チームは葦原ホーネッツだが、チーム事情に見合った戦力として見極められなければ、例え良い成績を残しても採用されない可能性だってある訳だ。
 それでも純粋に楽しそうな笑顔を見せたのは、スポーツという文化的な活動に自身の活躍の場を求めることが出来る嬉しさが、心の底から湧き起こってきているからであろう。
「まさかこのパラミタで、本当の意味でのスポーツ……それも野球にありつける日が来るとはな。人生、分からないものだ」
 同じく葦原ホーネッツへの入団を希望しているユファラス・ディア・ラナフィーネが、ビーシャの傍らで下半身への軽いストレッチを始めた。コントラクターとしての一切の技能を用いることなく、肉体だけの勝負で基礎体力測定に望むというのは、或る意味、新鮮でもあった。
 投手候補のユファラスの場合はスローイングは勿論のことながら、スタミナ面でも得点を重ねる必要がある。特に先発入りを目指すのであれば、少しでも長いイニングを投げることが出来る体力と肩の強さが要求される訳であり、例え序盤の基礎体力測定とはいえども、結構シビアな目線でチェックされていることがひしひしと感じられた。
 と、そこへユファラスの次に基礎体力測定を終えた松永 焔子が緊張を解いた様子で、大きく伸びをしながら三塁側ファウルゾーンへと足を運んできた。
「何だか、想像以上の緊張感でしたわね。下手をしたら、戦場で命のやり取りをしている時以上のプレッシャーを感じたといっても良いぐらいでしたわ」
 焔子は特異者としても歴戦の勇者のひとりといって良い。そんな焔子ではあるが、プロ野球選手としては未経験者とまではいかないまでも、まだまだ半人前の素人という位置づけなのである。多くの採用担当者達の鋭い目線に異様な緊張感を覚えたのは、無理からぬ話であろう。
「焔子さんは、どの球団を希望されているんですか?」
「ワイヴァーンズですわ。今年は主力が抜けて戦力が大幅ダウンですけれど、だからこそ、新たな戦力が求められていると感じましたの。私のような小娘がどこまで出来るか分かりませんが……れっつチャレンジッ! ですわ」
 ビーシャに問われ、焔子は朗らかにガッツポーズを作った。
 確かに、今年のワイヴァーンズはエースと四番が抜けて、それぞれガルガンチュアとネイチャーボーイズに移籍するというチーム史上最大の激震が襲い掛かってきた訳だが、それでも2019シーズンを優勝したという実績を引っ提げて、ディフェンディングチャンピオンとして他の五球団の挑戦を受けなければならない。
 圧し掛かるプレッシャーは、ともすれば他の五球団以上に強烈なのではないだろうか。
 一方、ビーシャとユファラスが入団を希望しているホーネッツは二位ではあったものの、首位からは12ゲームもの大差を引き離され、地元ファンの落胆は優勝を逃した他の四球団よりも更に大きかったという。
 だがワイヴァーンズが大幅に戦力ダウンしたことで、今年こそはという期待が盛り上がりつつあることもまた事実だ。
 実際、ユファラスが目指している投手陣も、そしてビーシャが割り込もうとしている外野守備陣も、オールスタークラスの選手がひしめいている。そんな中でレギュラー争いを演じるというのは、実は中々に過酷な戦場であるといえよう。
「まずはチーム内の競争というところだが、それ以前に入団出来なければ話にならないな」
 ユファラスは小さな苦笑を浮かべつつ、内やスタンド席のベンチにずらりと居並ぶ採用担当者達を一瞥。彼らの鋭い眼光は今尚、ファウルゾーンへと注がれ続けている。選手候補達は、その一挙手一投足全てがチェック対象なのだ。
 単純なクールダウンのストレッチひとつをとっても、意味のあるストレッチをしているかどうかが細かく見られている。
「……少々、甘く考えておりましたわ。一瞬たりとも、気が抜けませんわね」
 焔子は軽く肩を竦めた。
 ビーシャもユファラスも、苦笑を禁じ得ない。

 右翼側外野席の最前列ベンチの一角で、小山田 小太郎はホットドッグと炭酸飲料片手にグラウンド上へと視線を投げかけていた。
 と、そこへすぐ近くのベンチに腰を下ろす気配がふたつ。面を向けると、葵 司ドン・フレイムバックの両名が妙に気の抜けた様子で腰を下ろしていた。
「どなたかの、応援ですか?」
 何となく気になったので、小太郎は極力穏やかに声をかけてみた。
 司とドンは最初、小太郎の台詞が自分達に投げかけられたものとは気づいていなかったのだが、ややあって、ぼんやりとした表情で頷き返した。
「自分はここで、パートナーのトライアウト参加を応援しています」
 小太郎は再び視線をグラウンド上に戻した。司とドンが全身から醸し出す妙な空気感が、見るに堪えなかったというのが本音であった。
「あなた方も、応援ですか?」
「いえ、オレ達は……」
 司は審判として合同トライアウトに殴り込みをかけにきたことを、訥々と語った。その突拍子も無い告白に、小太郎は思わずぎょっとした表情をふたりに向け直した。
「わしらは、審判になるべくここへ来た」
 ドンの重々しい声に、小太郎は思わず我を忘れて聞き入っていた。ドン曰く、司とふたりでSPB事務局の蒼空学園出張所に審判として採用して欲しい旨を申し入れたところ、SPBの審判に採用される為には最低三カ月の研修受講が必要である旨をいい渡されたらしい。
 それも当然といえば、当然である。最も厳しい目線でプロ選手同士のプレーを一瞬でジャッジしなければならない。何の研修も受けていない素人が、いきなり採用されるような、簡単な話ではないのである。下手をすれば選手以上に狭き門であるともいえるだろう。
 草野球であれば、飛び入りの審判であっても全く問題はない。だが、ここはプロ野球なのだ。観客から入場料を取り、テレビ局からは放映権を取る。実際に経済が動いている厳しい業界だ。生半可な気分でジャッジを任せて良い筈がない。
 司もドンも、ノリで突破出来る世界ではないことを改めて痛感せざるを得なかった。
「そ、それは……何ともご愁傷さまといいますか……」
 小太郎も、流石にそれ以上の言葉をかけることが出来なかった。これ以上、司とドンに意識を向け続けていても、詮無い話であろう。
 ここは一旦気持ちを切り替えて、己のパートナーの頑張る姿に再び声援を送ろうではないか。小太郎はグラウンド上に神経を集中させた。
 丁度、選手候補の一部の面々が守備に就こうとしているところである。合同トライアウトの次なるメニューはシート打撃であった。
 実戦に近い形式で各選手候補が守備に就き、バットを持った選手候補がバッターボックスに入る。当然、投げる方もただの打撃投手ではなく、投手を希望する選手候補がマウンド上に立つ訳だ。
 いよいよここから、野球選手としての実力の見極めが始まろうとしている。
 小太郎も、思わず喉を鳴らした。
(見ていますよ、ヴィー君……良き野球を)
 パートナーの努力が報われることを、小太郎は切に願った。
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