クリエイティブRPG

灰かぶる街

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灰かぶる街
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希望を調べに乗せて(プロローグ)

レガリス王国の北西部、デルク王国との国境に近いところ。
魔界とを隔てる大河のほとりに、森林地帯が広がっている。

川辺に建つ洋館は今、魔族の男が不法に占拠していた。
館の窓から見下ろした森は、雪が積もったように真っ白である。
彼はその有様にほくそ笑んだ。

「(事は成した。アンデッドが世を統べる時が来た)」

彼は不死を司るネクロマンサー。

空を一面に覆い尽くした低い雲が、不気味な唸り声を上げた。

* * * * * * * * *


湖畔の森林にある集落から助けを願う連絡が入ってから数日後の事だった。
ギルドの要請に応じた冒険者たちが続々と到着する中で、猫宮 織羽が感じたのは静けさだった。人気を感じない。
辺り一面が真っ白に覆われている。まるで雪のようだ。わずかな風が吹き抜ける度に、銀色に輝く灰がたなびく。色彩に乏しいせいか、陰影がより深く感じられた。
木々の密集がポッカリと開けたところに住居が築かれており、家屋の傍には大きな木がそびえている。
「(誰も居ないの?)」
数多くの足跡だけが、前へ前へと一直線に伸びている。その先には小さな修道院があった。
心細くなった織羽はリーンの鐘を取り出すと、高く掲げてひと振りした。澄んだ音色が響き渡るものの、降り積もった灰のせいか反響すらしない。
しかし、修道院の大扉がわずかに開いた。こどもが顔を覗かせて手を振ってくれている。
「誰か来たっ」
良かった。元気な子も居るみたいだ。サクサクと早足で修道院へと向かう。
通り過ぎる建物から灯りが漏れているところもあって、人が住んでいる事だけは分かった。
身を守るために外へは出ないのだろう。

修道院の広間では、冒険者達が調査の準備を進めていた。
挨拶を済ませた織羽は、上の階へと登ってみる。
たくさんの人が炊き出しを受けており、池神 瑠亜もそれを手伝っていた。
元気さを保っている人は、数えるほどしかない。みんな無口で沈み込んでいるようにも見えた。顔色の悪い人が目立っている。
「(みんなを元気づけなきゃ。だよねっ)」
建物のてっぺんにある鐘楼から、小さな街並みを見下ろす事ができた。
その場に腰を下ろした織羽は、皆を元気づけるために唄を紡ぎはじめた。
垂れ込めた黒い雲だけでも晴れたらいいのにと、願いを込めながら。

* * * * * * * * *


不死を操る男

修道院を出発した弥久 ウォークスたちは、灰の降る森の中を30分ほど歩いた。視界が開けると、大河の向こう側に魔界の地を一望できるようになった。
そしてその辺には、古めかしくも豪奢な洋館が建っている。うす暗い雲の間を閃光が走った。洋館までの道のりも灰がうっすらと積もっており、湿り気のあるところでは容易に足を取られそうになる。肌寒い。
彼らの実力を察知したのか、魔物や獣から襲われる事はなかった。
ウォークスが館の扉をノックすると、ひとりの中年男が現れた。屋内なのに藍色の外套を深くかぶっている。
「どうも。弥久 ウォークスと申す者です。何かお困りではありませんか」
「……まあ、入りたまえ。話を聴こうじゃないか」
中年男はウォークスの様子から何かを感じ取ったらしく、いちべつをくれてから扉を大きく開いた。「騎士の名乗り」が功を奏したのか。
一行はそのままロビーへと案内された。館内は手入れが行き届いているようだが、全く人の気配を感じられない。
「ふむ。ここへ来る者の事情は察しがついている。不死の力を望むのであろう」
阿修羅虚無僧メイスラヴァーとウォークスは顔を見合わせた。
メイスラヴァーが森で起こっている事を調べているのを説明しようとすると、中年男は指をスナップした。
「邪魔だてをするのなら、帰りたまえ」
その途端、周りからバタバタと甲冑を身につけている者たちが駆け付ける音が響いた。窓の外を駆け抜けた無数の人影が、先ほどくぐった扉を開けてなだれ込んでくる。
不死の戦士たちだった。血の気を失った蒼白い表情の者や、骸骨そのものであるヤツまで幅広い。身につけている装備はどれも腐食がひどくて、防具の役は果たしていなさそうだ。
「待て」
その場を立ち去ろうとする中年男――館の主――はウォークスに耳を貸す気はないらしい。
襲い来るアンデッドに阿修羅の拳が唸りを上げた。相手の眉間が深く窪んで、乾いた音がした。まるで生きた人間のような断末魔の叫びと共に地面へと倒れ込む。
敵が振るう武器は様々だ。錆び付いた洋剣を何度か受け流した虚無僧は、魂を鎮めるべく尺を吹きはじめた。彼に迫り来る敵には、メイスラヴァーたる武器メイスによる殴打がもれなく即応した。スケルトンの頭が砕け散ると、全身骨格がバラバラに崩れていく。
軽鎧に身を包んだ男が振るう片手剣のひと太刀を、ウォークスは槍で受けた。
「ぐへへへへへっ。また、こうして獲物を振える時が来るたぁなあ」
「まさか意志を持ってしゃべれるとはな。現世に言い残した事があれば、聞こう」
「気をつけろよ。ここにはな、俺を殺ったヤツもいる。仇だったアイツが、まさか共に主へと仕えることになるとは思わなかったがな、面白ぇ」
剣をはじき返した隙にステップドリルランスを胸元へねじ込むと、ひどい匂いの体液を口から吐き出して大人しくなった。
自らの意志を持つアンデッドたちに、ウォークスたちは驚かされた。

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