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意処に述べる日は

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意処に述べる日は
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■花見会場■



【主題】意処に述べる日は



 魔獣が大挙して押し寄せてくる。
 その事実を素直に受け止める焔生 たまは、
「ちょっとした息抜き、警備しつつお花見のつもりだったのですけれどねー」と囁いて、張り詰めていく気持ちを如実に滲ませる双眸をゆっくりと閉じる。
 開けば冷えた赤色が状況を見据え、俄にざわつく空気にゆるい動作で重心を落とし臨戦態勢を取った。
 間を置かず秒で波が此処まで届く。
 その予感に朱の剣を抜いて一歩を踏み出し、切っ先をゆると揺らがせてから地を蹴った。
 路銀稼ぎに受けた依頼は単純な警備。闖入者は勿論、野生の獣を追い払うのが主な仕事内容だった。だからこれは想定外で掲示された金額とは不釣り合いもいいところ。しかし退きはしない。
 隊列を組まない大群に自ら前線へと斬り込んでいった。
「――ッ!」
 一閃と剣を振るって微かに感じていた違和感の正体を理解する。
「元素が乱れてますね」
 一撃必殺に全力を出すのを躊躇った理由にひとり納得した。
 魔力を介在に具現化させ実現する力。その元となる色が空間を歪ませるほどに独立性を持とうとしていた。力が集まる場に指向性を与えてしまうと一息で噴出してしまう可能性がある。
 下手に神聖武装を抜くと意図せず周りを吹き飛ばしてしまうのではないかと危惧を覚え、たまはそのまま真鋼の剣も抜き――、



…※…




「一体なんだよこの状況……!?」
 依頼を観光がてら引き受けてみれば、気づいた時には高い濃度の元素に曝されていた。だからと要因を調べている場合ではないとクラン・イノセンテは判じた。
 触媒なくとも“形成”できそうなくらい元素の輪郭を感じる。
 親愛さえあるのではないかと引き合いに寄せようとする色の深さ、その身近さにやはり異常だと白翼輝刃の柄を握りしめる。
 眼前には獣の群れ。クランが背後に守るのは争いも知らぬ人々。
 抜く刀身の腹に照り返す太陽の光。一粒の光はクランが腕を振るうことで一条の輝く筋を引き大剣と成した。
 真正面と対峙すれば獣は唇を捲りあげて牙を見せつけてくる。
 野生が地面に爪を突き立てて体を撓らせ力を溜め込むのに合わせるようにクランもまた半歩分足を後ろにひいた。重心をずらし大剣ソル・アウラを前面に構える。
 先に動いたのは獣。全速疾走からの跳躍。クランは、爪が届く最良のタイミングで大剣を前に押し出し、弾く。爪と刃が打ち合う甲高い音は余韻もなく、半身を捻って猫のように着地しようとした獣へと前に押し出した力のまま斜め下に流した大剣を一歩の踏み出しと共に返す力で上に打ち上げる。
 両手に圧のようにかかる手応えごとクランは剣の柄を握りしめる。また一歩踏み込めば鋭利な刃が獣の肉を裂き抜けた。
 前脚と後ろ脚、並ぶ二脚が駄目になれば四足獣など無力化したも同然。どうと地面にもんどり打つように殺しきれなかった勢いで回転しつつ転がっていく獣に一瞥もくべず、クランは薄い蒼色に光り輝く剣身のホーリィセイバーを再度構え、天を仰いだ。羽ばたく飛翼が地表に影を落とそうとしている。
「わりぃな」
 魔力を行使しようとすると元素が重く纏わりつくかのようだ。
 神聖武装に纏わせた元素を狙い定めて放てば、進路を阻まれた飛竜がそれぞれと降下する。その着地点で待ち構えるクランは、同じく魔獣の迎撃に剣を振るっている仲間に忠告を投げて、いよいよ迫ってきた飛竜の鋭い爪を砕けろと言わんばかりに剛毅に叩きそのまま三連斬りをぶちこみ、一頭を先の獣と同じく地表へと転がした。
「此処は通行止めだ。通れると思うなよ!」
 地上も空中も防衛戦に穴など在りはしない。し、作らせない。
「……何にせよ。守る為のこの力だ、一匹だって通したりしないぜ……!」
 宣言は、宣誓の如く。



…※…




「どけぇッ!」
「そっちに行っては危ないわ」
 邪魔だと言わんばかりにどついてきた男性の腕を、勢いのままに肩を突かれてよろめいてしまったアレミア・レスキュラシオンは慌てて追い掴み縋った。
 打って変わった状況の展開にアレミアもアサリル・アイラルリーも互いに視線を交わし合う。。
 本当にどうしてこうなってしまったのだろう。
 ふたりとも貴族が主催する花見会という社交の場に相応しい姿で参加していた。
 ただ少しだけ、美少女然と楚々としたドレス姿のアレミアと、整った顔貌でかつ女騎士風のアサリルという組み合わせの為か、なかなかに目立ってもいた。
 生まれながらにして権力も富みも持っている貴族達のじろじろとしたあからさまな好奇の視線に晒されることになった。けれども、アレミアは気後れひとつしない。彼等の反応は当然だろうと受け止める余裕すらあった。
 身分証明が難しい特異者である。容姿は勿論、物腰柔らかに令嬢然とした振る舞いでアルテラの空気に馴染もうとしているのだから値踏みされて当然なのだ。
 どこの家のご息女か。アレミアの耳に届かない声でコソコソと囁き合われている。
 そんな中、アレミアへの貴族の若者のちょっかいも少なくなかったりする。軽い挨拶から始まって手慣れた自然な動きで彼女の肩を抱き寄せようとした若者を「失礼」と、アサリルが至極丁重に追い払うまでがお約束みたいな流れを作る程だ。
 そんな平穏な空気が一瞬にして変わった。
 あちらこちらで暴動が発生してパニック状態だ。
 なぜ。
 どうして。
 こうなっている。
 これは危険だとそう判断できるだけアレミア達は冷静だった。
 周りの人達はただただ声を上げて逃げ惑うばかりで違和感がある。非戦闘員だからと一言で片付けるのは雑すぎるくらいの違和感だ。
 彼等はアルテラで生きる人達で、側で守っている魔導騎士達の頼もしさを、その実力を知っているはずなのに。逃げ込むべきは魔獣の群れではなく彼等の背中だろう。
 少女が全体重をかけて腕ごと、魔獣の群れに突っ込もうとした貴族の男性を引き止める。
「き、さまぁッ」
「よく周りを見て!」
 逆上されてアレミアは手を挙げた。親と娘ほどの歳の差があるだろう男性の頬を張る。叫びと争いの音こそ掻き消されてしまったが、白い繊手は指先まで緊張に張り詰めていたし、男の頬には赤い手形が浮かんだ。
「今は『安全な場所』に逃げるときよ」
 静かな声で諭すアレミアに男がぎこちなく頷いた。正気に戻ってくれた相手が今にも腰が抜けそうになっているのでアレミアは近くで誘導している騎士を手招く。
 暴れる者達だけではなく、ただ逃げるしか無い者達もまた自制を失っていた。
 混乱の真っ只中に陥って何もできなくなっているのは、何ができるかを思い出せないから。恐怖感に心臓を掴まれてどこへ逃げていいのかの判断力さえ手放していた。
 興奮状態にある彼等の数割は逆上して誰彼構わず暴力を振るい、避難誘導の足を引っ張りかねない輩と化していて、アサリルは警告を発する。
 それで襲いかかるようなことになった場合はとアレミアの安全を優先的に考えるアサリルの胴に若い婦人が抱きついた。
 必死さを感じアサリルは優しく声をかけたが、婦人は首を横に振った。
「嫌よ、離したくないわ。助けて、お願いよ助けてッ」
 宥めて落ち着かせて説得させる時間は無い。色を塗った爪を立てるほどにもアサリルにしがみつく若い婦人の両肩にそれぞれ手を添えて痛みを与えない加減で押し、涙で化粧がとけてしまった彼女の面を無理やりあげさせる。
「悪いけど、ダダこねてみんなの足手まといになるのなら、ここで死んでちょうだい」
 なおもいやいやと身を捩ろうとした婦人はアサリルの声に大きく目を見開く。
「あんたも怖いけど、みんな怖いし、あたしも怖いの」
 怖いということをアサリルは否定しない。
「だからさっさと逃げ出したいのに、あんたが一人でキーキー無様に喚き散らして足を引っ張ってくれるもんだから、そのせいでみんな逃げ遅れて死んでしまいました、では、余りに浮かばれないし、あたしもこんな死に方はしたくない」
 理由の知らない死など、誰でもそんな最後は迎えたくはないはずで。
「さあ、大人しく指示に従って逃げるか、それともここで死ぬか、三つ数える間に行動で示してね」
 デンジャラスな微笑みで締めくくって、アサリルはアレミアに倣って同じく騎士を呼び、明後日の方向へと走り出そうとする人の手をふたりで引き止め続ける。



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