1. PM15:00 西の洞窟
(前回の海賊やスキュラの件といい。何かとトラブルが多いですね。何か必然的な理由でもあるのでしょうか……)
考えながら、
綾瀬 智也は暗い洞窟を紅火のリングで煌々と照らし、走っていた。西の洞窟へ直行した冒険者達は洞窟に入って早々に人狼を捕捉し、逃げる人狼に追撃戦をかける形になった。「甘い――!」時折人狼は不意を突くように踵を返して反撃してくる。智也はその度にグレートウォールで人狼の攻撃を受け流した。反撃。シールドチャージ。水精の大盾を構えて身体ごとぶつかる。人狼は吹き飛ばされ、小さく呻いてまた逃走に転じる。「逃がしませんが、捕らえもしません……今はね」
「さてさて、洞窟の中での戦闘でございますか。なら、わたくしも張り切りませんと――」
言って、智也に並走していた
李 霞が暗糸《パペティアズリング》を振るう。ルートクロース。闇に溶けた暗糸が人狼を斬り裂く。人狼は攻撃元を特定できず、反撃はせず逃走を優先した。「結構……順調ですわね」
「村の平穏のためにも、退治しないとね……!」
輝神の一喝。
エレナ・フォックスの放った喝破が人狼の動きを鈍らせる。近接攻撃手段しか持たない人狼からは反撃は無い。(正面突破さえさせなければいい……今は牽制。とりあえずここまでね)
「人狼ちゃんか~。ま、そりゃ退治しきゃなんないんだろうけど、なんでこの子その人殺したんだろうね?」
智也達のやや後方を走りながら、
シャーロット・フルールはそんな疑問を口にした。
「そりゃ魔族だからだよ。そういうもんだろ?」
アレクス・エメロードが並走しながらそう答える。
「そう言ってしまえばそれまでなんだけどボクはそこが何か引っかかるんだよね。よって本人から聞き出すよ!」
言ってシャーロットはスピードを上げる。「いや、だから興味本位でアイドルが危ねぇとこ突っ込むなって何度も言ってんだろアホマスタァァァ-!!」叫びながらアレクスも後を追う。
「死者が出ているなら放っておけませんね……」
呟き、
一樹 刃が刺剣《雷芯剣》から雷を放つ。命中。人狼の速度が鈍ったところへ、
ナイトリーダーが槍を構えて突撃した。アーマークラッシュ。人狼の肩口が槍で斬り裂かれる。反撃。グレートウォール。人狼が振るった爪をナイトリーダーは盾で防いだ。
(死者が出てしかも逃げたとは大変ですね……何とかしませんと被害が増えるかもです)
真毬 雨海は周囲の様子を慎重に観察しながら並走していた。今のところ、洞窟内に罠や他の敵が隠れている様子は無い。(ということは、この洞窟は敵が来ることは想定していない……この先にあるのは魔族や悪人の巣窟ではおそらくない。でも、じゃあなんでここに?)
「――!」
人狼が足を止めた。洞窟は広間のような空間となり、そこで唐突に終わっていた。
「行き止まり――?」
「いいえ、あの壁は――後で出来たものですわ」
エレナの呟きに霞が答える。よく見ると、人狼が立っている辺りは他の岩壁とは違い、崩れた無数の岩からなっていた。「自然現象なら、この洞窟全てが崩れるはず……人為的な封鎖……?」」智也が呟く。
「コンナ――! 誰ガ、誰ガコンナコトヲ――!」
「人狼ちゃんっ! なんでクロン村の人を殺したの! なんか事情ありそうに思ったからボクは来た! 答えてちょうだい!」
「それ全部妄想でしかねぇよな!? 何が女の勘だ守る俺の身にもなれ!」
足を止めた人狼にシャーロットが問い、アレクスは文句を言いながらもオータスシェルターの結界を張る。人狼がシャーロットに振り返る。
「邪魔ダッタカラ。ソレダケヨ」
「何の邪魔? ――逃げるのに?」
「待て。そういえばお前――何から逃げてるんだ? 俺達が来る前から逃げてたのか?」
アレクスの問いに、人狼はただ鼻を鳴らす。「コノ封鎖モ作戦ノウチ、最初カラ全テ計画通リカ――大シタモノダナ、人間!」
「……一応言っておきます。その封鎖に自分達は関与していません」
「私達は村長に依頼されて来ただけです。計算通りというなら」
刃の後に雨海が言い、息を呑む。人狼が低い唸りを漏らした。「ヤハリ、アイツカ……」
「ナラバ、仕方無イ――自力デヤルシカ無イヨウダナ」
「無意味です。覆せる戦力差ではありません」
「ソウデモナイゾ。ムシロノンビリシ過ギデハナイカ? 我等人狼ノ圧倒的生体再生能力ハ、オ前達ノ半端ナ攻撃ナドモノトモシナイ。サラニ人間ヲ捕食スルコトデ致命的ナ損傷デアッテモ一挙ニ回復スルコトガ出来ル。ナオカツ」
人狼が姿勢を低くし、笑った。「サラニソレヲモ上回ル、人狼種ノ最大ノ武器ハ――コノスピード、コノパワーデアル!」
「!!」