ACT0:プロローグ
二次元都市ナゴヤ。
結界のようなドレープカーテンがゆっくりと上がり、開演のブザーが鳴り響く。
歌劇“エトワール”のオーバーラップが、アイドルたちの出演に呼応し、物語を駆動させ始めたのだ。
オープニングアクトを務めるのは、
暁月 弥恵。
幕開きに合わせて白い光鱗が彼女を包み、一人の踊り子へと姿を変えていく。
そしてポールフラッグを携え、白装束となった弥恵に、カッとスポットライトが当てられた。
「月の舞姫、華拍子、天爛乙女の参上です!」
弥恵は高らかに口上をうたい、持っていた旗で地面を叩くと、それを合図に花火が舞台を翔けていく。
その後を追うようにボーダーライトが舞台を照らし、白と黒の衣装を身に着けた兵士たちの姿をあらわにした。
(彼らを……魅了して、圧倒して、開放する。やりましょう、つるぎさん)
(ええ。いい舞台にしましょう、弥恵)
舞台に立つ騎士のひとり――鳳つるぎと目くばせをすると、劇伴のオーケストラ・サウンドがどこからともなく壮大なメロディを奏で始めた。
―― この手に星を掴むまで 我ら黒の国は不撓である ――
―― 我らの輝き、願いの星を奪わせはしない ――
兵士役の口上。それに合わせて弥恵がステップを踏み始め、つるぎたちもまた迫真の殺陣に臨む。
(始まった!)
剣戟の火花や魔法が飛び交う様が、弥恵のダンスによって生み出されていく。
激しく振られたボルケイノフラッグの火炎が。空中を舞いながら放たれる花火が。戦場をより胸に迫るドラマティックなものへと変える。
弥恵の演技が激しくなればなるほど、兵士たちの演技もまた熱がこもったものになり、弥恵もまた階段を駆け上がるように高ぶりを見せていった。
――そして。
「つるぎさん、危ない!」
「楓ッ!」
諏訪部 楓がつるぎをかばい、黒の兵士の凶刃に斃れた。
抱きとめたつるぎと、身を横たえた楓にスポットライトが当たり、舞台がふと暗くなる。
楓が演じるのは、つるぎ演じる騎士の親友。戦場で出会い、長く背中を預けてきた相棒である。
「待って、行かないで楓……!」
「どうか……あなたは、生きて……」
「楓……楓――ッ!」
つるぎの慟哭を合図にして、舞台が再び動き出し、ひときわ大きな音とともに、弥恵は地面に旗を突き立てた。
(さあ、盛り上げていきますよ!)
するとそれに脚を絡めて身体をくねらせ――切なさを、激情を、燃えるような妖艶さへと昇華して踊り始めた。
さらに立ち上がったつるぎがボーカルに加わることで、シーンは終わりに向かっていく。
―― あなたが あの日 言いかけた言葉 もう聞くことはできないの
私の背中は まだ あなたの剣に預けたままなのに ――
その歌とともに、舞台の明かりは全て落とされ、暗闇と静寂が訪れる。
シーンが終わり、名もなき役者たちはもとのナゴヤ市民に戻っていく。
だが幕は下りていない。
舞台はまだ、始まったばかりなのだ。
■目次■
1ページ ACT0:プロローグ
2ページ ACT1:鉄火の幕開き
3ページ ACT2:白と黒の華
4ページ ACT3:心に立つ刃
5ページ ACT4:星のブローチ
6ページ ACT5:翻り閃く剣
7ページ ACT6:死線のロマンス
8ページ ACT7:トリックスターのテーマ
9ページ ACT8:カーテンコール