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華の流れは大河になりて:2

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華の流れは大河になりて:2
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 華の中心は、首都・燕京(えんきょう)にある朱禁城(しゅきんじょう)である。
 この広大な敷地内に、皇帝を始めとした様々な者たちが住んでいる。周囲は高官の屋敷が固め、ひとたび戦になれば、城を守る盾の役割を果たす。
 桜・アライラーイリーゼ・ユークレースは、雪 古月(シュェ・グーユェ)を訪ね、約束通り、下女として雇ってもらうことに成功した。
 給金は安く、離れた地区からの通いとなる。
 最初に命じられたのは、掃除だった。桜もイリーゼも、与えられた仕事を黙々とこなした。
 通いの人間は、弁当を持ってくる。この厨房は、住み込みや、泊まり込みの仕事をする役人のためのものだった。
「……道理で、質素だと」
 置かれた道具や食材を見て、桜は言った。
「主上や後宮のためには、また別の厨房があるからね」
 厨房の責任者である黄 婷(フゥァン・ティン)は、イリーゼの買ってきた月餅を頬張りながら答える。
「あんたの腕が良くて、上の人の目に留まることがあれば、行けるかもしれないけどね」
「上……とおっしゃいますと?」
 イリーゼが別の女性の髪を結いながら、尋ねた。彼女に他国のファッション知識があると知るや、女性たちは挙って、化粧を施してくれるよう頼んだ。婷は例外的に、色気より食い気だった。
「色々あるさね。まあでも、どの道、後ろ盾がなきゃいけない」
「後ろ盾、ですかー」
「その身分を保証してくれる誰か、さね。それがないと、朱禁城で出世は難しい」
 全く後ろ盾のない人間を近衛兵に雇った、という今回のことの方が珍しいのだという。であれば、御前試合を計画した人物なら、可能性があるかもしれない。
 噂では、尹 一刀(イン・イーダオ)なる宦官がそうだというが、彼がいかなる役職に就いているか、正確なところを知る者はなかった。
「そうだー。今日の賄い、私が作っていいですかー?」
 食事を作る係は決まっている。料理の腕を見せるならば、賄い食しかない。婷もそれが分かったのだろう、いいよ、とあっさり許可してくれた。
【ドルチェ・クッキング】ならば、限られた食材で調理が出来る。賄い食には、ぴったりだ。
 それにしても、と思う。
 火を起こし、薪をくべ、水は井戸から汲んでくる。何もかもが体力勝負だ。厨房に長く務める者は少ない、という婷の言葉も頷ける。
 まずは身の回りからギアを導入すれば、この国でも受け入れやすいのではないかと、桜は考えた。


 この国において、見た目がいわゆる「機械」「ロボット」の汽人は、「物」として扱われる。
 フルメタルタイプの汽人である夏輝・リドホルムは、「鎧」を着ていると見なされていた。
 当然、目立つ。
 その見た目を利用して、上等兵となった夏輝は、燕京のパトロールを行っていた。
 燕京は歪な街だ。
 租界や朱禁城周辺、観光客が訪れる場所は道路も舗装され、建物はみな美しい。
 しかし、一歩裏通りへ入れば、地面は剥き出しの土だった。乾けば土埃が上がり、雨が降ればぬかるむ。
 人々は痩せこけ、汚れた服を着ている。――いや、着ていない者すらいる。
 上等兵となった夏輝の軍服を見て、裏通りの人々は距離を取った。生きるために軍人になる者が多い一方で、彼らは嫌われているらしかった。
 甲高い笛が鳴り響き、怒鳴り声が聞こえてきた。
 振り返ると、何かを抱えた若者が、駆け寄ってくる。ちらり、と夏輝を見る目は、警戒心に満ちていた。
 夏輝は何もしなかった。
 その後ろから、警察が追ってくる。夏輝の軍服と階級章を見て、警官は立ち止まると敬礼した。
「失礼。今、ここを若い男が通りませんでしたか?」
「何をやったんだ?」
「饅頭を盗んだんです。三つ」
「あっちに行った」
と、夏輝は真っ直ぐ指差した。「足が速いな。もう見えなくなった」
 感謝します、と警官は頭を下げて、また駆けて行った。
 夏輝は彼らの姿が見えなくなると、建物と建物の隙間に声をかけた。
「もういいぞ」
 若者がするり、と抜け出してくる。
「……何で庇った?」
「盗んだのが金目のものなら、引き渡したかもしれんがな」
 饅頭三つ。自分の分だけではないかもしれない。よほど、切羽詰まっているのだろうと夏輝は思った。
 ふぅん、と若者は呟く。
「見た目は変だけど、物分かりがいいな、あんた」
「まあな」
「礼を言っとく」
「それはいいから、何か困ったことや変わったことがあったら、教えてくれ」
 若者は寸の間考え込み、
「チンピラが誰か探してるらしいぜ。割といい金がもらえるらしい」
「探してる? 誰を?」
「俺は断ったからよくは聞いてないけど、瑞穂の奴らしい。ボコれば金がもらえるから、腕っぷしだけの奴らが大張り切りだってよ」
 じゃあな、とそれだけを言い捨て、若者はまた建物の間に消えていった。
 狙われているのは、誰だろう? 狙っているのは誰だろう?
 華も、物騒なものだと夏輝は思った。
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