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バッタ退治の依頼

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バッタ退治の依頼
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バッタ退治の依頼とそれぞれの思惑


 出発の朝はすっきりと晴れ、昼には気温が高くなる予報が出ていた。
 というより、小雨の空と天気予報をにらめっこしつつ、翌日にはすぐさま出発できるよう準備を整えていたのだ。
 バッタ退治の依頼を受けた百合園女学院の紅茶研究会に所属する村上 琴理(むらかみ ことり)は、下調べや準備といった雑事に慣れているようで、計画を立て、募集に応じた契約者たちのサポートもしていた。
 一人一人に配られたパンフレット――予定表から地図から持ち物から記載されたもの――は、薄いピンク色にレースのエンボス加工がお嬢様学校らしいと思わせたものだ。
「まるで遠足ですが……今回が初めての依頼、初めての戦闘という百合園生も多いので、念には念をと思いまして」
 と、石橋を叩いて渡らないとパートナーに評された琴理は言った。
 相手はバッタで魔物やドラゴンほどの危険は無いとは言え、箱入り娘が多い百合園の生徒たちの様子をよく知っていたからだ。
 ティーハウス<踊る薬缶>の店主楢山 晴(ならやま はる)もまた、地図のコピーを琴理に寄越した。
「慎重になるに越したことはないわね。こっちの地図も持って行きなさい」
 完全な地図でなく、道の分岐点の部分部分を記したもののようだ。
「村の人が迷いやすい場所を書いてくれたのよ。それから山の天気は変わりやすいっていうから、無理はしないでね。帰宅までが冒険よ」
「それじゃあ、いってらっしゃいにゃー。怪我に気を付けてにゃー」
 契約者たちが店の入り口で手を振る黒猫ゆる族のクロータ・レインドロップスに見送られ、扉が閉まると、しばらくして別の集団がバイクで追い、更に別の集団が箒に乗って山へ向かっていった。


                              *


「ヒマだな」
「ああ、ヒマだな……イルミンスールの生徒もいないぜ、昼寝でもしてんだろうよ。ったく」
 トゲトゲしいバイクにまたがった10人ほどのパラ実生が、超低速で愛車を走らせながらぼやきあった。
 山道でもあり、契約者は基本的に徒歩で移動している。意気揚々とマフラーをふかせようとしていたパラ実生だったが、ヴァイシャリーをすぐに出ると周囲は風が木の葉を揺らす音、鳥や虫の自然音しか聞こえない。
 後から全てを掻っ攫うという目的と必要以上の音を立てる改造バイクのせいで距離を取ることになってしまったのだ。
 既に面倒臭すぎてイライラしている。このままだとただのお嬢様誘拐犯か峠攻めに目的変更するかどちらか――と悟ったのか、
「こういう時は動画で暇潰しでもすっか」
 バイクに取り付けたスマホで新着動画を(音量極小で)次々再生するうちに、軽快なメロディにアラビアっぽいアレンジが加わりつつ鳴り、新星 魅流沙のアップが表示された。
「みなさんおはようございます~。ネット踊り子・シリウスです」
 画面の中の魅流沙は後ろに体を引くと、フローリングの上のリュックサックを大げさに示した。
「今日はこれからバッタ退治に出かけるので、準備をしています。みなさーん、パラミタキマダラバッタモドキって聞いたことありますか~?」
 画面の中で彼女はさらっとバッタについて説明し、
「沢山の人が手を挙げてくれたので、思ったより早く終わりそうですよ~」
 手を振って出発するところで動画は終了した。
「このネット芸人、まさか……?」
 パラ実生たちは顔を見合わせた。


 ところで上空。
「ここからならみんなよく見えますね」
「いやー、いち早くパラ実生に気付くとは流石イルミンスール、いや流石我らが魔法の箒ですね」
 学校非公認サークル・イルミンスール森林保全クラブの面々が箒でゆったり飛行している。
 見下ろすのは山道だ。張り出した枝葉の合間からちらちらと、百合園とボランティアの契約者たち、そしてパラ実生が追うのが見えた。
「だろう? あっちも小型飛空艇が何台かあるが、集団が大きくなればなるほど移動は遅くなる。特に山歩きでは歩くのが最も遅い者に合わせるのが基本!」
「伊達に野草取りで何日も森を彷徨ったわけじゃないわね」
「少人数サークルの強みですね」
「そうだろう、そうだろう!」
 サークルの部長である短髪の少年は満足そうに鼻をこすった。この中では一番年長だが、そうしていると一番幼くも見える。
「さあっ、追いかけるぞ……うん、姿が見えないぞ?」
「あっちですよ、急ぎましょう!」
 慌ててイルミンスール生たちは箒を空に滑らせた。


                              *


 村への道中は安全だった。
 ウサギや狐、そして狼にも出くわしたが人間の集団を遠巻きに見ているだけで、ふいと森の奥へ消えてしまった。
 徐々に植生が高地らしくなり、木々や葉のフォルムが変わっていく。時折足下の石がごつごつと存在を主張した。
「だんだん山っぽくなってきましたね」
「木々のざわめきが素敵ですわ」
 百合園女学院の生徒が、足下に増えてきた雑草に目を落とす。何気ない声色にも気品が漂うために、お洒落かつ機能的な山ガールの格好と相まって余暇のトレッキングのようだ。
 休憩を挟みつつ貰った地図を頼りに歩いて行くと、ふいにガザガサと草むらが揺れて大型の昆虫が飛び出してきた。
「ひっ、バッタ……!」
 山ガールが小さく悲鳴を上げて傍らの少女にしがみつく。
 聞いていた通り50センチはある。バッタとしては巨大、と言って良いだろう。冬も近づく木の葉の鮮やかな色と枯れ草の茶色に混じって、そのバッタは春の伸び盛りの緑の脚に、虫害に遭って枯れかけた黄色に黒いまだら模様の羽根を持っていた。アスリートの如く筋肉が発達した後ろ脚には鋭い棘のようなギザギザが並んでいる。
 それらが三匹、次々に山道に着地した。
 風で揺れる草の向こう、バッタが先にいた場所はミステリーサークルの如く綺麗に丸く草が刈り取られている。
 ワイヤーのように長い触角を揺らしながら頭を忙しく動かし、跳ねて次の草むらに飛び込む。
 目の前でかじり取られていく植物に、ようやく琴理ら百合園生は我に返った。
 特徴が、しおりに書かれていたパラミタキマダラバッタモドキとそっくり同じだったことに気が付いたのだ――文字の上での知識に認識が追いつかなかったのだ。
「……武器を取ってください!」
 琴理が鉄扇を開いて一体を切り裂き終える前に、横から魅流沙や他の契約者が飛び出してバッタを倒す。魅流沙の姿をシエル・シャムシェラがスマホを構えて撮影している。
「バッタがここまで出て来るとは……大きいだけあって移動が速いのかもしれませんね……村にも近付いてきましたし」
 太陽が中点を過ぎる。傾斜のきつくなった坂を上りつつ歩いていくと、斜面に広がる茶畑が見えてきた。ニットの編地の様なもこもこに、ところどころ盛大な「虫食い」ができている。
 そして間もなく、茶畑の向こうに背の低い民家の屋根や、野菜畑が姿を現した。


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