第1章『魔獣退治 前編』
フードの男と魔獣が現れた酒場は、誰もおらず荒らされている状態だった。
その外ではオオカミのような魔獣が住人を追いかけ回したり、家の周囲を囲んだりしていた。
住人は戦うことができず逃げ惑うだけだった。そこへ一人の冒険者が向かってきて大声で呼びかける。
「ここは危険よ。みんなこっちへ逃げて」
カズコ・カッチンは住人を呼ぶと、建物の間にある抜け道へ案内した。
彼らがこちらへ向かうと、当然魔獣の方も追ってくる。
カズコは誘導していた抜け道から離れ、住人を追う魔獣の群れに向けて『リーブラチップ』を投げた。
チップは魔獣に当たり、カズコに視線が集まる。
「こっちだよ! 捕まえてごらん」
カズコは手招きすると酒場があった方面へ走り出した。魔獣たちはほえながら彼女を追いかける。
魔獣を引きつけたまま、彼女は建物の柱を使い屋根へ登っていった。そして、『ローグダガー』を投げつけた。
ダガーは魔獣の1体に当たったものの、徐々に数が増えていく。
そして、いつの間にか彼女の真下には魔獣が群がっている状態となった。
「参ったな。どうしようかな」
カズコが見下ろし悩んでいたそのとき、一人の少年がこちらに向かって走ってきた。
「大変だ!」
九鬼 苺炎の仲間である
ユウキ・ヤゴは盾を持ち半ば飛び出すように向かっていた。
地上に的を見つけた魔獣はユウキへ勢いよく飛びかかる。ユウキは『板チョコシールド』で魔獣の攻撃を受け流していった。
その間にカズコは建物から降りていく。
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。引き続き住人の誘導をお願いします」
ユウキに言われ、カズコは住人が取り残されているかもしれない場所へ走っていった。
ユウキが受け流した魔獣たちは再度攻撃を仕掛けた。
「わわわ・・・・・・待ってよ」
その頃、苺炎は
小さな村の守り人と共にユウキの後をついていきながら周囲の状況を把握していく。
すると、ユウキが戦っている付近に逃げ遅れた住人がいた。彼らは魔獣に気づかれたせいで追われているようだ。
苺炎はさらに周りを見て、避難できる場所を探し出す。
「ユウキちゃん、向こうにも人がいるわ」
苺炎の指示でユウキは移動し、住人たちを庇っていった。
「近くの抜け道から安全な建物に入ることができるわ」
「分かりました」
ユウキは抜け道の方へ背を向け、住人を逃がそうとする。
魔獣たちが後を追おうとすると、ユウキが立ち塞がりフェイトを仕掛け魔獣の体勢を崩した。
「九鬼さん、今です」
そして、苺炎が遮るように盾の前へ飛び上がり、短刀を持ちながら超高速で回転する。嵐のような斬撃は魔獣を蹴散らしていく。
「今のうちに早く!」
その間に住人らは抜け道を進み、安全な建物内に身を隠した。守り人も同行し住人の治療にあたった。
一方、攻撃を受けた魔獣は反撃を行おうとする。苺炎はさらに飛び上がることで回避し、建物の屋根に着地した。
ユウキの方も剣でぶっ叩いて魔獣の数を減らしていく。その間に苺炎は『オータスワイン』を飲み、精神を和らげた。
上から逃げ遅れた住人を捜していると、遠くの方に3人の冒険者が見えた。
「魔獣を倒せばいい、っていうか、酒場の連中や客に被害が少ないようにしなきゃな。安全確保の方が大切だ」
酒場の近くでは
シン・カイファ・ラウベンタールが仲間と作戦会議をしていた。
「手の込んだ食い逃げ事案ではないかと思うのですが、食い逃げ以上に、他者を傷つけること、命を奪うことの罪の方が重いです」
マルチェロ・グラッペリが酒場の惨劇を見て嘆く。
「事態の収拾に回る連中の仕事がしやすいように、交通整理っつーか。オレ、よわっちぃ振りして逃げるから、その間に出てるけが人なんかは回収してくれや」
シンの説明に
ジャスティン・フォードは溜息をついた。
「シン・カイファ、君は阿呆だ。が、無謀とほぼ同一の、この上なく勇敢なヤツだとは認めてやるよ」
ジャスティンの言葉にシンはにこりと笑ってみせ、決行の合図をするように走り出す。
とりあえず民家に侵入しようとしていた1体の魔獣に近づいた。
「魔獣の一匹で構わないから指揮下に置けりゃあな・・・・・・」
シンは魔獣がこちらを見た瞬間、操ることを試みる。しかし、魔獣であるためか効果がなく飛びかかってきた。
魔獣に押し倒され至るところを噛まれ出血し、コートは足跡まみれになる。シンは短刀を振り、魔獣を一瞬追い払った。
しかし、魔獣の鳴き声を聞きつけた他の魔獣たちが集まってくる。
「よし、こっからが本番だ」
シンは適度に魔獣が追いつきそうな速さで走り出した。当然魔獣は全力で追いかけてくる。
よろめきながら走っていたシンがふと振り返ると、いつの間にか魔獣たちがさらに増えていた。
「死なない程度にやられながら逃げるのって・・・・・・体力要りすぎるw」
不適な笑みを浮かべながらも囮として逃げ回る。その様子をジャスティンとマルチェロは窺っていた。
「君の犠牲は無駄にし・・・・・・いやいや、生きててもらわないと、寝覚めが悪い。俺達も最善は尽くす」
ジャスティンは魔獣が避難する場所へ行かないように建物と建物の間にロープを張っていった。
魔獣たちは作られた進路に従い、曲がっていきシンを追うのに集中していく。
しかし、住人の匂いを嗅ぎつけた数体はロープを噛みちぎり侵入しようとした。
「そうはさせるか」
ジャスティンは持っていた弓で威嚇音を鳴らす。得体の知れない音に魔獣たちは動きを止め、警戒し始めた。
その間にマルチェロが光の防護壁を張り、魔獣を通さないようにする。
一方、魔獣に追いかけられていたシンの体力は限界に近づいていた。
「おーい、早くしてくれ」
息を切らしながら呼ばれ、ジャスティンは走り出す。
ジャスティンが張ったロープの効果か、進めなくなった魔獣が皆シンを追いかけ回しているような状態だった。
「死ぬなよ、シン・カイファ! 『死にかけ』までなら、多分マルチェロがなんとかしてくれるはずだから、きっと」
「私も走るのですか? 走るのですか、そうですねえ」
溜息をつきマルチェロも後を追った。
まず、ジャスティンは最前列にいる魔獣を狙い、矢を放つ。矢は魔獣の足元に当たると同時に蛇のように絡みつき転倒した。
後ろを走っていた魔獣たちもそれに巻き込まれ倒れていく。そのスキにマルチェロがシンの前に防護壁を張った。
応援が来たことにより、シンは勢いよくぶっ倒れる。
「マルチェロ! 膝枕で回復魔法頼む」
「もうそんな傷だらけになって。今から治療しますからじっとしててください」
マルチェロは自分の膝にシンの頭を乗せると、クレリックの術や魔法で傷を癒やしていった。
シンについた大量の噛み痕も治り、体力を回復させていく。ジャスティンは引き続き魔獣に対し弓矢で応戦していった。
「少しでも時間を稼げば、他の方たち、もしかしたら弓の得意なジャスティンか――いえ、煌神オータスの御加護が、私たちを守ってくれるでしょう」
マルチェロが治療をしていると、遠くの方でフードの男がクマのような魔獣を引き連れ町の中を歩いているのが見える。
彼は指示を出しては次々に襲っているようだった。フードの男はこちらに気づくことなく去って行った。
「『転生者は一人でいい』・・・・・・どういう意味なのでしょう? 『一人』だとするなら、『誰』なのか・・・・・・気になるところです」
マルチェロはシンを治療しながら呟いた。