クリエイティブRPG

ヴァージンロード・エスケープ

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ヴァージンロード・エスケープ
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Prelude ― 出会いと誓い ―



「……失礼します」
「どうぞ」
 市長でもあり大商会の総裁を務める父を持つ青年ルヴェルト・ヨートゥリア。
 彼は今日もまた、望まぬ縁談の舞台に座っていた。
(……父さんも僕の事が心配なのは分かるけどさ)
 目の前に座った純白の花と見間違う様な女性に笑顔を向ける。
 だが、その内心では興味を持っていなかった。
(綺麗だね。それに父さんの紹介だ。立場もいいのだろう。
 ……けど、やっぱり興味はないなぁ)
 幼少期、好きだった女の子に裏切られた過去を持つルヴェルト。
(……どうせ僕は君たちにとって“財布”なんだろうね)
 大商会の息子という事で誰からも持ち上げられて生きてきた。
 しかし、幼いころから人の顔色を見て育った彼だから理解していた。
 彼らが崇めるのは“ルヴェルト”という人物ではなく、大商会の息子という立場。
 唯一心を許した少女に裏切られた時、
 彼は他人を“商談相手”としか見る事が出来なくなっていた。
「それで君は……」
 相手の女性に罪は無い。
 それを理解しているからか、商談の場で浮かべる笑みと同じ笑みで
 当たり障りのない会話を交わす2人。
 普段から権謀術数が飛びかう世界で培った“交渉術”で今回も円満に断るつもりだった。
「……あの」
「どうしたんだい?」
 ふと、相手の女性が心配そうにルヴェルトを覗き込む。
「……どうして、そんなに辛そうなんですか?」
「……え?」
 自分の“仮面”がこうも簡単に剥がれてしまうとは思わなかった。
「そんなことないよ?」
 それでも、本心を取り繕うとするルヴェルト。
「……本当でしょうか?
 ……それで、ルヴェルトさんはどんなお仕事をしているのですか?」
「え?」
 またも驚かされた。
 名前は名乗ったはずだ、なのに彼女は自分を知らないという。
(演技、だろうか?)
 そう思い、わざと嘘の職業を告げる。
 小さな街の喫茶店を開いていると。
 その答えに彼女は花のような笑みを浮かべた。
「素敵です……! どんな喫茶店なのですか!」
 彼女の笑みに戸惑いながらも話を続けるルヴェルト。
 そうしているうちに彼は気づいてしまった。
 彼女が本当に自分を知らない事を。
 その上で“ルヴェルト”という人物に興味を持ってくれている事を。
(……僕は……この人なら……)
 また“人”を好きになれるかもしれない。
「……マーヴェル! どこだーい!」
「あっ、ちょっと待っていてください」
 マーヴェルと呼ばれた女性が、自分を呼んだ者の元へ。
「何してるんだい?」
「お父様の紹介で少しお話を」
「……男か! 彼の名前は!」
「なんで怒ってるんですか……。ルヴェルト・ヨートゥリアさんって言う方です」
「ふぅん。なんだ、音楽祭の話か」
「どうしてですか?」
「ん? あぁ、なんでもないよ。それで……」
 仲睦まじく会話する2人。
(……そっか。……そうだよね)
 察しの良すぎる自分に呆れつつ、それでも思ってしまった事があった。
(……幸せに、してあげたかったな)
 それはきっと叶わない願い。

 彼の父親が縁談を無理矢理成立させたと聞いたのは、その後日。
 生まれて初めて彼は父に対し怒りをぶつけた。
 だが、父にも父なりに子を思った行動だった。
 人を嫌う息子が再び好意を抱く相手。
 息子の未来の為に、この縁談を成立させる必要があると、そう答えた。
 だが、それでもルヴェルトは想いを曲げる事はなかった。

 これが、逃走劇の前奏曲。
(……絶対に幸せにしてみせる)
 例え、未来を歩む伴侶が自分ではなくとも。
 幸せになる為の道を歩み出す彼女の背中を押すのは自分でありたい。
 ――――――それが、僕にできるたった一つの“告白”だから。



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