entr’acte ― 決意と願い ―
裏路地を逃走するジルベールとマーヴェル。
「……ジルベールさん」
「っと、なんだい?」
急に立ち止まったマーヴェルは、何か決意した様な表情でジルベールを見つめる。
「……私を、婚約者の元に連れて行ってください」
「……それは……」
「大丈夫です。今回のお話を正式に断らせてもらうだけですから」
「……でも」
ジルベールが懸念していること。
元々、彼女の立場を固める為に仕組まれた婚約。
もし、断ったとしても婚約以外の話について、何も解決しない。
きっと、今回断ってもまた次の見合い話が持ちかけられるだけだろう。
(……覚悟を、決めないと、かな)
ジルベールも普段は見せない様な表情でマーヴェルを見つめる。
彼の想いに気づいたマーヴェルが優しく微笑む。
「……きっとこれから大変だと思います」
ジルベール
「大丈夫さ、僕らなら。……マーヴェル」
その先の言葉を紡ごうとした刹那。
「ちょっとまった!」
屋根から女性を抱えた仮面の男が現れた。
「こんな殺風景な場所で、いま何をしようとしたか分かっているのかね!」
女性を降ろし、ジルベールに詰め寄る仮面。
「き、君は……?」
「僕の事はどうでもいい! とにかく、君は彼女のお父様との約束を果たすんだ!」
ギヨームとの約束。
夕方、決められた時間に婚約者の待つ式場へ来ること。
「とにかくいいね!
君たち2人が結ばれる事は許さない。これは、婚約者からの伝言だよ」
どんな理由があれ、彼自身の想いもプライドも裏切ってしまった事に変わりはない。
「せめて彼の望む形で決着をつけるんだ」
怨恨を抱えたまま、今回の騒動を終わらせることは2人にとっても望んでいない事。
約束まで逃げ切る覚悟を決め、路地裏を駆け出すマーヴェルとジルベール。
「……さて、君とはここで一旦お別れだ」
抱えていた女性に別れを告げる男。
「分かったわ。……それじゃあ、また“舞台”で」
「……ありがとう」
仮面の男、その“本心”を理解していた女性は、
再会を約束し歌声を響かせながら路地裏へと消えていく。
「……もう少し」
仮面の男も目的を果たす為、大通りへと駆け出していくのであった。