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アイドルたちの夏休み

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◆飛び入りライブ(1)

 ショッピングモール『イクスピナ』のステージでは先程から飛び入りライブが始まっていた。
 大勢の観客を前に、様々なパフォーマンスが次々と披露され、ひとつ終わる度に盛大な拍手が送られている。

 ***

「マイクはないが、剣ならある!」
 とステージに飛び込んできたのはアーヴェント・ゾネンウンターガング
 飛び入りライブの賑わいを目の当たりにして、自分も体を動かしたくなってきたアーヴェントは、全力で剣舞をしようと決めていた。
 ヒーローショーが好きな人なら大人でも子供でも、喜んでくれるはずだ。

 アーヴェントの登場に、ひと際大きな歓声が上がった。
 【ローゼンホールド】を身に纏ったアーヴェントが、美しい大剣【バラノスアリア・ソレイユ】を手にしてすっくと立つ姿は、惚れ惚れする程凛々しい勇者だったからだ。
 一緒に来ていたあるてらさんぜんねこも、観客に交じって応援してくれている。

 小さい子供の声援や大きいお姉さんの黄色い声を涼しい顔で受け流し、アーヴェントはおもむろに【剣戟乱舞】で隙のない剣舞を開始した。
 まず初めに【バラノスアリア・ソレイユ】が曲に合わせて描いた光の軌跡が、あまりにも美しく、観客の目は釘付けになった。

 完全に観客の気持ちを掴んだところで、アーヴェントは【大殺陣回し】のドラマチックな殺陣に移る。
 すると、ステージ上にはアーヴェント一人しかいないのに、観客はそこで本当に彼が戦っているかのように錯覚した。
 それはアーヴェントが、立ち位置や視線に気を配って動いているからに他ならなかった。
 相手がいないからこそ普段より意識して計算した動きをすることで、より本物らしく見えるのだ。

 【フェイスオブナイト】の閃光が一閃走ると、薔薇の花の花弁がステージ上に舞い上がる。
 【ローゼンホールド】から漂う香りがより一層強く薔薇を印象付けている。
 二閃目で切り裂かれた光は、キラキラという音が聞こえる程美しい破片になり飛び散った。
 それらのあまりの美しさに、観客は拍手も忘れて見入っている。

 次に、これまでの剣舞とは打って変わって穏やかに、しかし力強さは失わない【レイジオブビースト】のダンスに移る。
 アーヴェントの動きに合わせて生じる激しい風が観客を圧倒している。
 あるてらさんぜんねこがその風にあおられて、何か叫びながらどこかへ飛んでいってしまったが、アーヴェントはそれに気付かずライブはいよいよ終盤に差し掛かる。

 剣舞は徐々に緩やかな動きに移っていき、最後は端然と剣を鞘に納めて初めと同じ姿勢に戻って、アーヴェントのライブは終了した。

「応援ありがとう。この風が、君達の背を押すように願っている」
 割れるような拍手と歓声が沸き起こった。
 このライブで、アーヴェントのファンが増えたことは間違いない。


 ***


 ワールドホライゾンにゲートが繋がって、狛込 めじろはこれまで馴染んでいたはずの感覚となんとなく違う気がしている。
 それは、進学した学校の真新しい制服を着た時、いろいろなものが違って見える感覚と似ているかもしれない。
 そんな時、めじろはイクスピナで飛び入りライブをやっていると知って、是非参加したいと思った。
 得意の歌を披露するための心強い味方ならいる。戌 千鳥だ。
「ここはカンを取り戻すためにライブですよ、千鳥くん!」

 今回のライブのテーマは「みんなをセブンスフォールにご招待!」。めじろが設定した。
 【幼生神獣】のキオとめじろと千鳥の三人で、セブンスフォールの光景を表現するのだ。

 千鳥は慎み深いため、自分が舞芸に秀でているなどというおごりは決してない。
 なので飛び入りライブに誘われて、セブンスフォールをよく知らない自分はめじろの足を引っ張ってしまうのではないかと、初めは危惧した。
 しかし出演を引き受けた以上、この“雷舞(ライブ)”で【素人魂】を使って最善を尽くすつもりでいる。
 千鳥がアイドルになったきっかけはめじろに誘われたことだったが、アイドルの世界に行くと決めたのは自分自身だ。
 自分の決断に責任を持って、めじろの期待には精一杯応えたいと思う千鳥だった。

 飛び入りライブの出番を待っている間、千鳥はキオから向けられる視線に落ち着きを失っていた。
「だからキオ、お前は俺となんにも関係ない。『おにいちゃん!』って目で見上げるな」
 子犬に翼が生えたような姿のキオからしてみれば、千鳥は「お兄ちゃん」として甘えたい存在なのだろう。
 しかし実の妹がいる千鳥にとっては、キオの眼差しは妹を思い起こさせ、そわそわしてしまうのだった。
「うう、こういうのには弱い……」

 飛び入りライブの出番が回ってきた。
 めじろはステージに立つと、セブンスフォールで教わった童謡を歌い始めた。

 “人々を救わんとかつてその身を灼光へと変じ、
  今なお大地に染み込む力となって人々を見守る心優しき獣”

 神獣フェニックスの生涯を歌った残滓の渓谷の伝説だ。
 めじろの透き通った歌声が、観客の心にダイレクトに染み込んでいく。

 千鳥は【スウィングラッシュプレイ】を用いて【マイクロッド】を操りながら派手な動きで観客の目を引き、めじろの主旋律を際立たせるサブボーカルを務めていた。
(この歌、セブンスフォールの子供は誰もが歌うと聞く。人を愛し、愛された幸せな神だったのだろうな……)
 セブンスフォールには“行ったことがある”という程度の千鳥の心にも、しみじみとした感情が湧いてくる。
 めじろのライブが大好きなキオが、可愛い声で歌いながら二人の周りを飛び回っていた。

 歌は中盤を迎え、めじろは【アニマ・アフェクション】で大きな大きな鳥の幻影を飛び立たせた。
 それは、キオをめじろに託した神獣フェニックスをかたどったものだった。
 神々しい鳥は光をまき散らしながら大きく羽ばたいている。
 それを追いかけるようにキオが【神獣極光】で大きくなり、背にめじろを乗せると空へ翔け上がった。
 一瞬乗り遅れた千鳥が【ハイ・ジャンプ】で慌ててキオに飛び乗る。
 キオの背中から、めじろと千鳥の歌声が観客に降り注いでいく。

 ライブはいよいよクライマックスを迎えた。
 最後の締めとして、めじろは大技【フュージョン・メロディリウム】を使い、観客全員の意識に曲をリンクさせた。
 悠々と飛ぶ神獣フェニックスとキオから光の羽根が舞い散る幻想は、この世のものとは思えない程美しい。
 観客は、めじろたちが出会った残滓の渓谷の光景を見、聞き、感じていた。
 セブンスフォールの世界を感じとった観客たちは、その神秘的な光景に酔いしれたのだった。

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