クリエイティブRPG

注意すべきは

リアクション公開中!

 0

注意すべきは
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last




「広がり切る前にここで抑えますよ」
 囁く自分の声は普段通りだと叉沙羅儀 ユウは己の胸に手を添える。
 薬みたいなものだと聞いていた。事実合法とも思えぬ薬物が流通している。
 日が落ちる前に行われた調査でも現物こそ出なかったがリスク分散を考慮されてか複数に点在していた開催場所が特定され、裏付けは取れたと言っても過言ではない。あとは関係者を拘束し詳細を聞き出し、揃えた証拠共々裁定の権限を持つ機関に突き出せば終わる、そんな治安維持に携わる者から見れば正義が行使されるのが当然の状況のはずだった。
 けれど、いざ手入れに現場に雪崩込んで見れば、そこは″空気の色″さえ違うように感じられた。
 突入は速やかにそれでいて静止の声は激しく、摘発の混乱は一瞬にして極め、怯えて動けなくなったり、もはやこれまでと観念する人間はまだ可愛かった。
 たっぷりと油の入ったランプを手にする姿にいち早く気づいたユウは、火を放って手っ取り早く証拠を消そうとした男に握る杖を高々と掲げる。清流の如く滑らかに唱えられた呪文に青の元素は速やかと応え出現した水流は男の腕に絡み、体を巡り、一巡にして縛り上げた。床に落ちたランプは不穏な動きに同じく気づいた別の者が消火にあたり、部屋を照らす明かりがひとつ消えた程度で終わる。放火を未然に防いだユウは関係者達を次々と拘束していく突入部隊と、それでも状況から脱しようと躍起になっている者達の面々を無言のままに眺め見やる。手荒な真似をしたいわけではないが、強硬な姿勢で抵抗さえれてしまえば致し方なく、後方支援として大量の水で圧し彼らの抵抗を抑えつけるユウは無意識に合わせた唇に力を込めた。
 現場は異様な昂ぶりに満たされて何人が冷静さを保てるだろう。
 ″落ち着いた頃合い″とは何を基準にして見計らうタイミングだろうか。
 色相を覗くまでもなくこの場は″乱れている″。
 そんなはっきりとした感触にユウは握り締める青流の杖を持ち替えて深く息を吸い、時間をかけて細く長く吐き出した。自分は青の元素を繰る流れを弄する魔導騎士である。
「……少しでも」
 集中しなくては、と。
「……一度広がると手に負えなくなるので、手が負えなくなる前に対処するのはいいのですが……」
 懸念が実現してしまわぬように。
 顕現も程遠いというのに昂ぶられて開放の出口を探す元素にユウは導きの路を作って四方へと散逸させるべく目を閉じた。
 幸いであったのは、宥めれば落ち着いたという事。
 力のうねりはまだ形にすらなってなかった。
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11  Next Last