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注意すべきは

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 「特定できた建物を確認したい」という宮澤 理香子の希望をリゲイトが快諾したのでそれに同行し、今はひとりで道を歩く邑垣 舞花は散策を装う歩調を不自然にならない程度に落とした。
 素通りしてから誰の目も自分の姿を追いかけていないのを見極めてから速度を戻し、角を曲がり、念の為遠回りしてからある宿屋の一室へと帰り着く。盗み聞きの恐れのないその場所で机の上に配られた略地図を乗せ置き、ペンを片手にスロートワイヤレスの通信を繋いだ。
「ノーン様」
『「聞こえているよ、舞花ちゃん」』
「お待たせしてすみません」と舞花が交代を告げると、返ってくるノーン・スカイフラワーの声は『「今度はわたしの出番だね」』と明るい。



 舞花が誘導し、ノーンが目指すのは″怪しい建物″。お互いに略地図を眺め、舞花がそれと当たりをつけた建物へとノーンは向かう。幸いにも通りに人の気配はなくて、どうしてこんな場所にというノーンの幼さを咎める声はない。古い煉瓦造りの塀に沿って歩を進めながら木製の扉へと辿り着く。
「お花のレリーフだっけ」
『「はい。先に特定されていた二軒にも同じモチーフのレリーフが飾られていました」』
 舞花が素通りする中、怪しいと睨んだ装飾。古い建物群は当時の流行か少々凝った造りをしていてノーンが触らず眺める装飾はいたる所に施されていた。森の中に埋もれる一本の木のように隠されてしまうが、経年劣化だけは真似できなかったようだ。小手先の技術で真新しさは細工できても、埃の付き方まではそうはいかない。
 ここがそうだと半ば確信を抱いてノーンが宣言した。
「じゃぁこれから潜入調査を開始するね」
『「すみませんが、よろしくお願いします、ノーン様」』
「こちらこそだよ舞花ちゃん。見えてない舞花ちゃんの方が不安だよね」
 だから、と続けようとしたノーンは早足でその場を離れ死角となる塀の曲がり角に身を滑り込ませた。そっと伺うと、扉は中より開かれて男が二人出てきたのでノーンはホライゾンカムコーダに手を伸ばす。
「また夜にかあ?」
「だろうな」
「接待なんてやだなぁ」
「文句いうなよ」
「つっても俺ら下っ端で使い捨てだろ?」
「だからだ。あと一週間くらい我慢しろよ」
「お偉いさんに捕まるのかなぁ」
「だろうな」
「火付け役も楽じゃねえな」
 帰ろうぜ、という諦めを最後に二人組は去っていった。
 男達の背中が見えなくなるまで見送っていたノーンは扉に戻ると工具を取り出し、細い鍵穴にそれらを突っ込んだ。器用にも素早く解錠し、一旦路の左右に視線を振って無人なのを見てとり、小柄な姿を屋内へと滑り込ませる。
 室内は歴史を感じさせるどちらかというと重ためな外とは打って変わって傲慢な程にも綺羅びやかであった。
 舞花ちゃん、とノーンは無言で自分を待っていてくれる彼女の名前を呼ぶ。
「一目瞭然って感じだよ」
 内装からしてはっきりと存在を主張されては集会場のひとつとして用意されたものだと間違いは無いように思える。
『「なにか見つかりますか」』
 先に特定された建物は、大胆にも潜入する者が居なかったのか、これら屋内の情報は皆無にも等しい。無関係とも限らないので、調査は続行だ。如何にも権力を保持していると部屋からして傲慢さが滲み出ているのだ、何かしらの痕跡は残ってそうでもある。
「何か……それこそ薬を使ってっていう感じはしないかなぁ」
 掃除が行き届いていて、部屋に撒かれたらしい香料のフローラルさ以外は微かにアルコールの匂いがする程度。
 部屋全体をカムコーダで一巡しながら奥へと進むノーンは、この時中から鍵をかけておいてよかったと物陰に身を沈めた。
 人の出入りが一度で済むとは限らない。
「早くしろよ」と急き立てる声に「怒んなよ」と答える声が扉を乱暴に開け放つ。
「置き忘れただなんて知ったらお叱りもんだからな?」
「悪かったって。ただ突然言い出すもんだから……」
「言い訳はいいから終わったなら行くぞ」
「あいあい」
 背中を向ける形で隠れてしまった為顔は見えないがどうやら先程の男二人が戻ってきたようだ。
 さて、慌てて引き返すような″忘れ物″とは?
 がちん、と鍵をかけられてノーンは立ち上がる。薄暗い室内は先程と変わらないように見えた。ゆっくりと歩き出す。感覚に引っかかりがあれば随時足を止めて、粗方調べ尽くせば速やかに撤退するのだった。



「ただいまだよ、舞花ちゃん」
「はい。おかえりなさい、ノーン様。ご無事で何よりです」
 宿屋に戻ってきたノーンを迎える舞花は「どうぞ」と部屋にひとつきりの椅子を勧めた。
 ノーンが集めた成果を舞花が纏める。
「それでここからが……」
 二つの視点で見落としを減らす中、舞花がある一点で呟きを落とした。そこはノーンも一度は足を止めた場所。
「花が増えてますね」
 男達が戻って出ていったその短時間で。薄暗くて、まるで間違い探しのような些細な違いにノーンと舞花は互いの顔を見遣った。
 理香子へと報告書を渡し、それがリゲイトの手に移る。彼の顔が曇ったことで舞花は該当の建物が捜査対象にされたのを知った。
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