その所作は麗しき貴族の令嬢そのもの。表通りから外れ裏通り裏道を経て迷い込んだらしき娘は、それはそれは目立っていた。なので、すぐに良いカモが来たと絡まれる。
「あら、うふふ」と困り顔で
津久見 弥恵は彼らを見上げる。
いかにも頭の悪そうな男二人に左右を固められて、下手に回避しようなら乱暴に進路を絶たれ前にも進めず弥恵は自然と後退した。量販物の旅人のマントですっぽりと体を包み男達に見せる肌は外套の前を掻き合わせる指先だけ。桜色の爪に繊細な肌色が町娘とは違った雰囲気を纏い誘うのだ。
「……あの」と淡い微笑を先と変わらぬ困り顔に浮かべ弥恵がまた一歩後ろにさがる。
「綺麗な娘っ子さんがこんな所で迷子かい?」から始まったテンプレのような詰め寄り方に弥恵は薄紅の唇を噤んだ。素肌に寄せた色使いの薄化粧もあってか、ぶつりと途切れたような無言は世間慣れていない初々しさを醸し出している。
「ねぇ、どうしたの。貴族のお嬢さんがひとりで珍しい」
縮まる距離に娘が身を引き、
「あれだろお嬢さんも例のお薬目当て?」
″誘(いざな)われた″男達がそれを追いかける。
「そうだよな。おともの一人も付けてないもんなァ?」
こんなに可愛いのに過激じゃーん。と男達の声がハモった。
「やっぱ気になる?」
軽すぎる口調に弥恵は外套を握る両手を口元に寄せるように持ち上げて、ふる、と身を震わせる。
「他の御方は……いらっしゃいませんの?」
「あれ怖がらせちゃった?」
違う、と弥恵は仕草で返した。三人の人影は足元はない。何故なら建物の物陰だから。
「怖くはありませんのよ? でなければこの様な場所見向きも致しませんわ」
「ねぇ」と弥恵は続ける。震え帯びる声で、それでいて夜空を思わせる黒い瞳の輝きは強く。
「詳しく話してくださらない?」
わたくし何も知らないの。
見仰ぐような何でも無い動作すら可憐に。庶民にはない立ち振舞い。貴族特有の凛々しささえ滲んだ非日常を醸し出されては、惚(ほう)けて「はい」と上擦る声で答えることしかできず、素直な様子で頷く二人に弥恵はにこやかとはにかむ。
話し込めば気さくなものだった。″貴族じゃなければ声もかけなかった″と談笑混じりに告げられ、警戒されなかったことに安易に事が運ばれすぎかと警戒していたが、なるほど″それらしい人物に手当たり次第″に勧誘をしてれば想像よりも早く規模拡大と加速されもするか。
充分に話を引き出せば「では夜に」と別れようとする弥恵を二つの手が引き止めるので淑女の鉄槌(華麗なる円舞)が下ったのは言うまでもない。