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注意すべきは

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「先生、どう見ます?」
 桜・アライラーの質問にシリウス・ガーティンは頷きで返した。
「貴族の間に広まっているというのなら、広めているのも貴族だろう。つまり――」
「――相手は権力者。捜索側に内通者がいても不思議じゃない」
 それどころか。
 昼間に調査で首謀者らしき者を発見したのと同時にバリス家の名が出たらしい。遠目での目視に声は途切れ途切れで聞き間違いの可能性も拭えぬままに、今回指揮を執っているのがそのバリス家の次男というのもあり誰も口にしないもののリゲイトに対し疑いの目が向けられ始めている。ただでさえ動きづらいのにと彼は言っていたが皆が皆立場がある者ばかりで笑っていられる余裕もあまりないようだった。
「内部への疑いを気取られるなよ、余計な摩擦を生む」
「はぁーい」
 シリウスは静かに右拳を固める。特異者を除けば残るのはリゲイトの部下と身分も確かな魔導騎士達。果たしてこの中に重要人ともなる関係者を暗殺するような″裏切り者″は居るのだろうか。



 定刻通り、突入の合図があげられた。
 時に人間は、口と鼻の両方同時に水に包まれた場合、どんな反応を見せるのだろうか。
 声を立てさせず、また、怪我もさせずこうして失神させてしまえば、騒ぎ立てしないようにという注文はクリアする。
「陸の上で溺れるが良いー」と面白いほど激しく無音の抵抗を見せてから失神する者達に向けて囁く桜は「ほら穏便穏便。」と語尾にまるをつけるのだ。
 無明の星より神聖武装を形成展開する桜の周囲は支配する色に染まっている。視える者が見れば歴然と元素は彼女の支配下に置かれ揮われる力は正しく支配者の指示に従うのだ。
 裏口から外へ。雪崩込むように逃げ場を求めた者達は、声もなくばたばたと激しく足掻いては面白いように地に伏せていく。
 逃亡を図ろうとした不届き者は一網打尽にした。溺死寸前の失神に皆青い顔をしているがそれ以外の発見は見た限りなさそうだ。
「『魔力喰い』は毒に弱い、ってそこそこ知られちゃってますからねぇ」
 服用以外の手段で薬が使われる場合も想定し、その時は効いたフリしてみてもいいかと桜は考えている。浄流を覚えたからこそ平気だと保証を置いて、この身をもって試すのも有用だと薬物がどんな形で使用されているのかわからない場に飛び込むリスクに傾げた首を戻した。



 ふらりと桜に近づいた彼女に扉の影に潜んだままのシリウスは「おや」と息を潜める。
「お疲れ様です。お怪我は無いようですね」
 仕事中であることを強く意識した口調で話しかけてきたロゼールに、男達に拘束の手枷をはめていた桜は顔を上げた。
「お疲れ様ですねー」と無事を桜が報せるが「本当に大丈夫ですか?」と念押しされるので、探るような目つきのロゼールに「大丈夫ですよー」と返答を重ねた。
 ここは心配無いからと遠回しで桜が遠慮しても、尚近付こうとするロゼールは弾けるように後ろに振り返った。
「まだ何か?」
 命までとは言わず、けれど首を狙って意識を刈り取ろうと意思も強く扉の陰から地面を擦る音さえ立てず忍び寄ったシリウスは、桜に注視しながらも自分の接近を許さなかったロゼールに冷淡ともとれる態度で投げかけた。
「……あの?」
 最初から今の今まで姿をさらすのをぎりぎりまで避けていたシリウスだ。手入れの騒動に反比例して彼の存在だけが薄く無意識に除外されていっただろう。だから、″桜がひとりそこに居る″のだと思われたのは自然なことではあった。驚きに疑問を乗せた視線を不躾に向けられたとしてもどこ吹く風である。
 互いに互いの質問には答えないという嫌な空気が流れ始めて、それを厭ったのかロゼールが軽く咳払いした。
「じきナタン様も様子を伺いにいらっしゃるそうです」
 二人の沈黙にロゼールは言い難そうに口を開く。
「捕まえることのできた方々それぞれのお顔を見てリゲイト様が呼び戻したそうです。どうもナタン様のご友人が多いようで……」
 少女の歯切れの悪さも当然と言えば当然か。犯罪者が顔見知りとなればより複雑だろう。シリウスが得心いったと頷く。自分もまた拘束していく面々にどことなく見覚えがあるような気がしたのは思い過ごしではなかった。先日の鹿狩りに参加した人間が全体の二割を占めているらしい。
 貴族と思える者を手当たり次第に勧誘していたと調査を担当した人間が言っていた。そんなお粗末さで集められたとしたら二割という数字は大きい。
「薬を広める動機が分からないのが不穏だな」
 直感が訴えてくる予感に対して、明確な答えは得られないという現状。その事にシリウスの声は思索に沈むように闇夜に溶けた。
 小さな会釈を挨拶に代えて去っていくロゼールを見送った桜がシリウスを見上げ「先生」と彼を呼ぶ。
 シリウスは無言のままで桜に頷き返した。録音は続けておこうとシリウスは一度は取り出したC-CLEFを起動させたまましまう。何かが取れればコピーをリゲイトに渡そうと。
 気絶している者に最後のトドメを刺すような輩について未だ警戒を解くことはできないものの、事態は佳境へと収束しつつあるようだ。
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