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注意すべきは

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【主題】注意すべきは。



「色相に変化はありませんね」
 ステイティオ。それは、大海に面し広く栄える交易都市。
 人々で賑わう大通りから一本奥に入り複雑な路地裏を通って辿り着くその建物群は、建築されてからの年月を物語るように重厚な色合いにくすみ沈黙を保っている。
 人の気配を感じさせない場所だ。そんな第一印象を抱くアルヤァーガ・アベリアは腹の前で両腕を組む。
「こんな場所で薬物の違法取引が行われているなど俄に信じられませんが……いいえ、その様な噂は無かったと裏付ける為にも調べるべきでしょう」
 ともあれまずは聞き込みからだ。
 該当地区の路上には人の姿は数えるだけもなくそれらしい外観の建物に入る。想像通り中は酒場でガラの悪い大人達の溜まり場だった。入店時の注目はあるが向け返せば各々と視線は逸らされた。
 奥へと足を運べば入れ違いに店を出ていく人間がひとり。
 男が座っていただろう席を見て――数本の高級ボトルと店の女が二人。葉巻にこの地方では珍しい果物の盛り合わせと随分な羽振りの良さに、アルヤァーガも外へと出た。
 仕事もせずこんな時間からこんな場所で飲み入り浸る人間にしてはいやに身なりの良い姿を追いかけて、
「すみませんが」と、その背中に声をかけた。近目で尚わかる服の生地の良さ。
 依存者多くは見栄をはりたがる。大盤振る舞いは常で、そのうえこの男は見せびらかしたいだけの稼ぎがある。
「薬が欲しいんです。最近、変わったものが流行っているとか。と、……あなた、ここでは見かけない人ですよね」
 自然体で振る舞うアルヤァーガを爪先から頭の天辺まで舐めるように見る男は、浮くわけではないが場にそぐわない彼を鼻で笑った。
「あんたお貴族さん? なら色々あるよ」
「例えば?」
「色々だよ」
「具体的に?」
 謀りも見逃さないとするアルヤァーガに男はやはり鼻で笑った。
「兄さん″色々″があるって言ってんじゃん。聞いてもピンと来ないんならご新規さんだね」
 ほら俺ライバルとか多いし。引っ掛けるような言い方をして悪かったと笑う男の目に滲む夢現。瞬きが増えて、首筋に見える拍動も速く、喉も生唾の嚥下に上下していて、そして何よりも色相が″おかしい″。
 元素の扱いに慣れた者だからこそ余計に″意識的にしないとそんな昂ぶり方はしない″のだと思うのだ。
 男が早口になればなるほど色相は乱れの様相を呈し、アルヤァーガはこれが″調査″であることを強く意識する。警戒されては意味がない。指摘せずに更に切り込んでいこう。
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