取り残された子供たちを救え! 前半
ダウンタウン郊外。
ガラス張りのビルや奇妙な形をした建物が立ち並ぶ、落ち着いた雰囲気のオフィス街が普段の静寂を取り返すかのような大騒ぎが巻き起こっていた。
evilの“ブレイム”が10階建ての巨大ビルを両の手から発現できる炎で2階を出火元に1~8階を炎で包み込んでしまったのだ。
そのevilを駆け出しヒーロー“リトルムーン”が相手をしているが、まだこのビルの上層階にある託児所を兼ねた施設に子供たちが取り残されている。
職員も数人取り残され、子供たちを守るようにバケツリレーと消火器を使って火の手を防ごうとしていたのだが、ブレイムの特殊な力によって通常の消火方法では消すことができなかった。
「くっこのままでは子供たちが……!」
「飯田さんも早く防火室の中へ! このままでは火傷では済まないわ!」
「そうだが……!」
「きっとヒーローが助けに来てくれる! それまで私たちはこの子たちを支えなきゃならないのよ! 防火室の扉を閉めて!」
女性職員の一声で決心を決めた男性職員たちは防火室の扉を閉め、ヒーローの救助を待つために子供たちがパニックにならないように焦りを顔の裏に隠して冷静に子供たちと向き合う。
託児所に預けられたまだ幼い子供たちは不安の表情を浮かべている。
「せんせぇ……ぼくたち、しんじゃうの?」
「大丈夫だ。すぐにヒーローが助けに来てくれるからな」
「ほんとう?」
「本当さ。怖いだろう? 先生にしがみついていていいぞ」
「大丈夫よ。ヒーローはどんな場所でも助けに来るんだから」
託児所の職員たちは子供たちを抱きしめ、頭を撫で、安心させるようにどんなヒーローが来てくれると思う? といった風に関心をずらすことで不安を和らげていく。
その甲斐もあり、取り残された子供たちは泣きだすことなく、助けに来てくれるヒーローを期待してじっと大人しくしてくれていた。
もちろん、すでにヒーロー連盟からの出動要請は出されている。
「躊躇している暇などない……跳びます、それで間に合うのであればいくらでも」
要請を受けたMr.モンクの
小山田 小太郎は
八代 優から水精の抱擁を受け取り、辰狐槍【荼枳尼槍】に水属性を纏わせると、正覚念珠【菩提樹の念珠】で高めたスーパーパワー【法力・疾風韋駄天】による脚力と跳躍力で隣のビルから出火ビルの屋上へ跳躍するとすぐさま下の階へ駆けていく。
優もそれに続くようにビルを飛び越えると下の階へ下る。
「では……その名の如く駆け抜けましょう」
「……護ろう、皆で……!」
8階まで下ると、すでに9階へ続く階段付近まで火の手は伸びていた。
小太郎は水属性を纏った辰狐槍を突き、その突風で鎮火を図る。
「誓いをここに……尊き命を守る為、水を纏いてその通力を示さん……!」
「……諦めないで……その想いが、皆を救うんだ……」
この炎は悪意の火。
誰かを傷付ける憎悪の炎。
そのようなものを身を寄せ合い避難している子供たちの所へ行かせたりしない。
優は<光>で火を押し返そうとするが、それよりもプリズミックボウに水精の抱擁を纏わせた方が効率がいいことに気付くとそちらに切り替え、小太郎と火を押し返していった。
◇ ◇ ◇
「予想以上に火の回りが早いですね……消火活動よりも救助を優先しなければ……万全の準備は出来ませんが、何とかしましょう!」
探検隊バックパックの中身を取り出し、救急セットを詰め込んだ
ロイド・ベンサムはそれを背負うと外部非常階段を駆け上がり10階を目指す。
非常階段付近の窓からも炎がガラスを突き破って外へ舌を伸ばし、これ以上上を目指すことは難しいと判断したロイドは非常階段から登ることを諦め、ビル内へ侵入するとハイドロボールで消火しながら素早く駆け上がることにした。
小さな水の球であっても一瞬ならば道を切り開ける。
そして10階へ辿り着くと、バックドラフトに気をつけながら防火室を探しだし、中で身を寄せ合っていた子供たちと職員の無事を確認。
「只今高ランクヒーローが救助活動をしています、皆さん落ち着いて下さい!」
「本当かい!?」
「はい! ですので、まずは貴方の火傷を治療しましょう」
探検隊バックパックに入れてきた救急セットで治療術を施し、いつでも全員で避難できるように手当てをしていく。
その防火室の窓の外では
ジェイク・ギデスがアニマルローブを身に纏い、アクセルシューズを履くと登はんでビルの壁を駆け上がっていた。
息子を失ったジェイクが子供たちを救うのに理由など必要ない。
小さな命を救う事が出来ないで何がA級サイドキックだ。
考える事よりも先にジェイクの体は火災ビルへと向かっていた。
窓の外へ飛び出る炎をハイドロボールで消火しつつ上を目指す。
途中何度も落下しそうになるが、シークエンスチェーンを窓枠等に絡ませることで這い上がり子供たちの救援へと向かう。
ようやく辿り着いた室内ではロイドが治療術で傷を癒している最中であった。
そのため、ジェイクの存在にいち早く気付いたのは子供たちの方だった。
『今、助ける。後ろに下がってな』
子供たちに伝わるようにジェスチャーで指示を出し、全員が後ろに下がったのを確かめ窓ガラスをぶち破って部屋の中へ突入する。
「わりいな遅くなって、灰色探偵が助けに来たぜ」
「うわーっカッコイイ!」
「おっと喜ぶのは外に無事出てからだ。コイツで掴んで下りてくからよ、掴まれたい奴は誰だ? 他の奴らもすぐ助けに来るから、慌てず順番にな」
背中に装着した栄光を掴む手【マウントパワードアームズ】を動かし、それに掴まれた状態で登はんして下りていくようだ。
しっかり掴まれるとはいえ、安全面が万全じゃないこの手段には勇気が必要である。
「ぼくがいく!」
「あっずるい! おれも!」
「あたしも、のりたい」
「分かった。まずはお前たちが手本を見せるんだな。絶対落としたりしないから、安心して掴まってな」
ロボットアームで立候補した子供たちを優しくだが、指が固定されるように包み込むとジェイクは割った窓ガラスからゆっくりと登はんで下りていく。
子供たちに熱さを感じさせないように癒しの雨を降らせることも忘れない。
安全に素早く下りきると、地上では我が子の無事を願っていた母親が目に涙を浮かべてきつく我が子を抱きしめた。
「救助者はこのキャメロットを使うと良い。中にアヤメ殿が待機しておる。傷の手当てを受けるといいのじゃ」
アヤメ・アルモシュタラが操縦する【移動指令車・キャメロット】【【サーヴァント防具・移動会議車】】に乗って現場に辿り着いた魔法巫女リンカー☆ヘクサRこと
六道 凛音はジェイクに救助された親子の前にそう指示を出す。
移動指令車・キャメロットはオフィス街の救助の邪魔にならない至近に横付けして救急拠点の設営を完了していた。
治療を受けるよう指示を出すと凛音はフォーミュラーアーマーとフェザージェット【ジェットパック】で飛び上がると屋上を目指す。
凛音の指示を受けた親子が移動指令車・キャメロットの車内へ入れば車内は療養のお香が漂い、運転手のアヤメが秘密基地で周辺情報をやり取りしながら待機していたようだった。
「ご自身の足で歩けるようですね。煙を吸い、呼吸器をやられた様子もない。これなら、あちらでお茶でも飲んで心を休めると良いでしょう」
子供の様子を危険把握で状態を確認すると、ハートケアを施しつつ高級ティーセット【高級ティーセット】でお茶を出す。
「ささやかながら、どうぞ……シロンの良い葉ですよ……」
危機的状況の最中に居た子供もだが、地上で我が子の無事に気を揉んでいた母親の精神をフォローするためにお茶を出すのがアヤメの方針だった。
もちろん、出動したヒーローの高ぶった精神を落ち着かせるための仕込みも整えている。
執事として、非才の我が身の総てを奮いサポートするのみ。
アヤメはいつ、いかなる時でも執事であろうと心がけ、丁寧に仕事を行っていくのだった。