三千界のアバター

ありがとうの花束を

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序章


 ――きい。
 ぐっと力をいれて窓を押すと、金属がきしんだ音がした。
「わ……」
 吹き込んでくる冷気に思わず眉をしかめる。とたんに吐息が白くなり、灰色の空へとのぼって溶けていくのが見えた。
「……今日は曇り、かぁ」
 少しだけ肩を落とす。正直に言うと、特別な日らしい澄んだ青空を期待していたから。
「――せんせー、おきゃくさーん!」
「あ、はーい!」
 階下から響く幼い声に応えて、少女はぱっと身を翻す。
 今日は特別な日。楽しいパーティが控えている。のんびりしている暇はないのだ。
 幸せな予感を胸に、少女はぱたぱたと階段を駆け下りた。

 
 ――こつこつこつこつ。
 彼女は地下から地上へと続く階段を、一歩一歩ゆっくりと登っていた。
 セクターEで隠れ住むようになって、どれほど月日を過ごしただろう。
 様々なものを手放した。いま自分が持ちあわせているのは、簡易だが派手な色の化粧に頬を覆うマスク。着古したワンピースとコート。それから高いヒールの革ブーツ。どうしても手放せない鏡。それだけだ。
 けれどそれも、今日を限りに別れを告げることになる。
 彼女は暗雲立ち込める空を、鋭い瞳でじっと睨みつけた。
 嗚呼。全てに終止符を打つこの日に、なんてふさわしい空だろうか。
「……祝福の鐘が聞こえるようだよ、ルナウ」
 懐かしい名を呼ぶその唇に、不敵な笑みが張り付いていた。



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