三千界のアバター

パンツァーテイル 死争の大地

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パンツァーテイル 死争の大地
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【地獄への道標】

 ゲルメンス帝国首都ベルンハイム近郊のユーディオ大平原にて──。
 斜陽で紅く染まるその戦場は、更にそこかしこで吹き上がるオレンジ色の火球と黒煙で、無残な光景に彩られていた。
 対邪顎戦の切り札として投入された筈の聖威兵団と、その主力たる霊走戦車の大部隊が、百体近い邪顎の群れに蹂躙されていたのである。
 当初は二百台で稼働していた筈の霊走戦車だったが、現在まともに動いているのは三十台にも満たない。
 半日前には意気揚々と邪顎殲滅戦へと踏み出した筈だったというのに、何故、こんなことになったのか。
「えぇい、くそったれッ! 何でこうなっちまったんだッ!」
 左翼側の戦線で視界窓の外を唸るように睨みつけながら、弥久 ウォークスは自身が操る霊走戦車の操縦席で獰猛に吐き捨てた。日ノ本皇国陸軍警察省でのミカヅチ操縦経験を買われて霊走戦車操縦兵に無事採用されたウォークスだったが、彼にしても最初の戦闘でこれほどの窮地に追い込まれようなどとは、想像だにしていなかった。
 同じ車体の霊供兵座では、霊供兵として採用された山内 リンドウが幾分青ざめた表情で上部視界窓から外部の惨状をじっと凝視している。
「まるで生き地獄ですわね」
 対邪顎戦に備えて諸々の技能と装備をしっかり整えてきたことが功を奏し、リンドウが霊供兵を務めるこの車体では大きな損害を被ることはなかった。だが、周囲の友軍戦車は惨めなものであった。その半数以上が邪顎の吐き出す火焔息吹の餌食となり、車体は軽度損傷ながら搭乗兵がことごとく焼け死ぬという憂き目に陥っているのである。
「十時の方向ッ! 三体、来るよッ!」
 ウォークスとリンドウの頭上から、砲手クロノス・リシリアの鋭い警鐘が降り注いできた。まだ二連装砲塔の扱いには完全には慣れきってないクロノスだったが、その素質は決して悪くない。ウォークスが旋回しながら車体を弓なり軌道で走らせると、クロノスは素早く砲塔を回転させて直線軌道で突進してくる三体のうち、二体の邪顎を瞬く間に叩き伏せた。
 クロノスの期待に応えて、ウォークスの回避に徹した機動戦術は宙空を切るように走る対邪顎戦では相当な威力を発揮していた。そこに加えて豊富な魔力を提供するリンドウの霊供兵としての優れた適応力が、三人の駆る霊走戦車をこの戦場ではひときわ目立つ存在へと押し上げていた。
「うーん、中々口や喉には命中しないね」
「構わんさッ! 要は殺しちまえば良いんだッ!」
 操縦桿と機動ペダルを忙しく操りながら、ウォークスが半ばやけっぱちな笑いを飛ばした。兎に角、最初は数で圧倒していた筈の友軍が、今では三倍の敵に対処しなければならない事態に陥っている。
 最早四の五のいっていられる状況ではなく、文字通り死ぬ気で戦わなくてはならなくなっていた。
「ちょいとパワーを上げるぜッ! 霊供兵殿、少しばかり気張ってくれよッ!」
「お任せ下さい」
 リンドウの声を聞くと同時に、ウォークスは機動ペダルを目一杯踏み込んだ。同時にクロノスが二連装砲から立て続けに轟音を響かせる。
 更にもう一体の邪顎を、鮮やかなカウンターの砲撃で仕留めていた。


     * * *


 時間を遡ること、凡そ六時間前。
 ベルンハイム近郊の帝国陸軍中央兵站では、新たに募集をかけた聖威兵団の新規入隊者達に対する入隊手続きが取られ、霊走戦車の搭乗兵としての登録が終わった者は順次、自身が搭乗する車体への実機調整が命じられていた。
「よう。お前さん達も来てたのか」
 聞き覚えのある野太い声に、朔日 弥生は頬を僅かに綻ばせて会釈を送った。弥生に呼びかけたその人物、岩淵 耕三(いわぶち こうぞう)は今回は隊長格ではなく、飽くまでも一兵卒として参戦している為、形式上は弥生と同格ということになる。
 岩淵の傍らには天堂 厳介(てんどう げんすけ)の巨躯が無造作に佇んでいた。かつては敵同士だった彼らがこうして同じ釜の飯を食う同僚として並び立つというのも、奇妙といえば奇妙な話であったろう。弥生は時の流れ、運命の妙というものを感じずにはいられなかった。
「娘がいつも、お世話になっております」
 霊供兵として聖威兵団への入隊を果たした朔日 睦月が柔らかな物腰で挨拶を交わした。岩淵と厳介はとんでもない、世話になっているのは寧ろ自分達の方だと慌てて会釈を返すという一幕に、弥生は何ともいえない笑みを唇の端に浮かべて眺めていた。
「それにしても、よくぞこれだけの人員が集まったものですね」
 弥生は改めて周囲をぐるりと見渡した。英国や佛国、或いは伊国、西国といった所謂欧州列強の各国から、機械兵器の精鋭ともいえる熟練の戦士達が百を超える数で集まってきたのだ。この一事から見ても、各国の邪顎に対する危機感というものが手に取るように分かるだろう。
「どの国も最強のエース格を派遣した、ということらしいですね。彼らを預かる独国も、責任重大ですな」
 睦月はしかし、自分が列強エース達に劣るとは考えていない。事実、彼の霊供兵としてのスペックは非常に高いというお墨付きを、入団審査の際に受けている。その効果もあってか、睦月と弥生が駆る車体には独国の熟練砲兵が同乗することになっていた。
 二百台の霊走戦車に、各国から呼び寄せられたエース達を加えれば、鬼に金棒だ。これで対邪顎戦に敗北するようであれば、独国の運命など在って無いようなものだろう。
「ところで隊長さんは、どちら様でござろうな?」
 厳介の問いに、睦月は何ともいえない表情で右手側に鎮座する隊長機の霊走戦車を指差した。
 そこには、到底隊長としての風格など微塵も感じられないような、年若い娘の姿があった。エミレット・ローゼル中尉である。彼女が、新生聖威兵団の指揮官ということであった。
 このエミレット中尉の隊長機には、操縦兵としてリーオ・L・コルネリアが、そして砲手には天峰 真希那が搭乗することになっていた。エミレット中尉は霊供兵を兼任する現場指揮官として聖威兵団を率いることとなるらしい。
 そのエミレット中尉には、真希那とリーオが身振り手振りを交えて何かと話しかけていた。
「はいはい、中尉ッ! 今回は新兵が沢山入ってきてるし、防衛を主眼に置いた戦術を具申したいですッ!」
「はいぃ。ありがとぉございますぅ」
 相変わらずおっとりして間延びした声に、リーオは時折ペースを乱されがちではあったが、基本的にはエミレット中尉は真希那やリーオの言葉にはよく耳を傾けてくれていた。
 曰く、今回集まった列強のエース達は個人での戦果は抜群ながら、部隊としての運用能力には疑問符が残る。そこで真希那なりリーオなりが戦術を具申することで、エミレット中尉には考える指揮官として独り立ちして貰いたいという願いがあった。
 だが、この非常に呑気な中尉殿がどこまでふたりの真意を汲み取ってくれるのか。それは、現段階では全く分からなかった。
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