三千界のアバター

パンツァーテイル 序

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パンツァーテイル 序
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【三十六計逃げるにしかず】

 対ドクター・アンセム戦は、方針を転換せざるを得なかった。
 ジェノも恭也も、そして塵も空も、自分達の攻撃が次第に全く効かなくなってきている事実を、嫌でも認識しなければならなかったのである。
 実は、同じことが防御にもいえた。
 ジェノが纏うAAアーマー、空が着込んでいる対邪神ジャケットと左腕に装備している欠けし月の小盾、そして塵の戦神の胴鎧は、いずれも最初のうちはしっかりと防御力を発揮していた。ところがドクター・アンセムの放つ突きや蹴りが次第に躱せなくなり、僅かにかすっただけでも結構な重い打撃をその身に被るようになってきていたのである。
 攻撃が通らないばかりか、防御すら危うくなっているこの現状を危険といわずして、何といおう。
 そして何よりも恐るべきは、光学迷彩で姿を消している筈の恭也の位置が、まるで目に見えているかのような正確さで見破られ、今では完全に後手に廻ってしまったのである。
「これでは警戒に警戒を重ねても、まるで無意味だな」
 塵は乱れた呼吸の中で、忌々し気に小さく吐き出した。ここまで不利な状況に追い込まれたのでは、最早戦闘とはいえない。完全になぶり殺しの状況だ。
 特異者達は辛うじて精神力で持ち堪えていたが、それもいつまで持つか分からない。
「そろそろ、潮時かも知れねぇな」
 諦めたように光学迷彩を解除した恭也が、妙に悟ったような表情でひと息ついた。彼自身、最初から撃破出来るとは思っておらず、ここは相手の力量を見定められればそれで良しという意識があった。
 幸いなことに、綱七と鈴原のコンビが周辺の邪顎を全て引き連れてかなり遠方にまで誘い出している。この状況ならば松星宮を無事に撤退させることも十分可能だった。
「成程、邪顎をこの場から引き離すとは、良い戦術だ。全員を仕留めるのは無理かも知れんな……だが、せめてひとりぐらいは始末しておかねば、後々厄介な話になる」
 ドクター・アンセムは、どうやら相当に割り切りの早い性格のようだ。この左右非対称の怪物は、この場に於ける面子の中で最も戦闘力に劣る空に標的を定め、一気にその命を奪おうと舵を切った。
「やらせるかッ!」
 恭也と塵が間に割り込むも、機関車のような勢いで突進する怪物を止めるには至らず、ジェノの放ったフォトンの連打も、ただ虚しく宙を飛び交うばかりで、ドクター・アンセムの長身にはかすりもしない。
 空は、まさか自分が狙われるとは思っても見なかった為、完全な防御態勢が間に合わない。いや、仮に間に合ったとしても、ドクター・アンセムの攻撃を凌ぎ切れるかどうかは不透明だった。
 ところが。
「ぬぅッ!?」
 不意に頭上から、隕石の嵐。ドクター・アンセムは慌てて後退し、その直撃を辛うじて躱した。
「今のうちですッ! 皆さん、早くッ!」
 ルキナの呼びかけに応じて、特異者達はまさに脱兎の如く、戦線を離脱した。既に松星宮と護衛官達は安全な位置にまで退いているらしく、どこにも姿は見えない。
 そしてルキナ自身も、隕石が地面を叩いた砂埃に紛れる形で撤退を完了させていた。
「……侮れんな。我が累積耐性の持続時間を見抜いていたか」
 姿を消した特異者達を追いかけもせず、ドクター・アンセムは不機嫌そうに低く呟いた。
 実際のところは、そうではない。ルキナが時間を置いて攻撃したのは、極々単純な偶然だった。だが、二度目のミーティアレインが予想外に威力を発揮したことを、ルキナはしっかり記憶していた。
 これが如何に重要な事実であるのかを、ルキナ自身が理解しているかどうかは兎も角として。

 その後、松星宮と特異者一行は邪顎を誘導した後に何とか追撃を躱し切った綱七と鈴原副次官の両名と、無事に合流を果たした。
 松星宮を守り切るという使命は、一応成功したといって良い。
 だが、謎は依然として残る。
 何故ドクター・アンセムが、あの場に出現したのか。まるで、松星宮とその一行の行方を最初から知っていたかの如き行動には、様々な憶測が飛び交った。
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