三千界のアバター

パンツァーテイル 序

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パンツァーテイル 序
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【学習の魔人】

 小世界『明正』の、所謂欧州列強の一角に当たるゲルメンス帝国に、特異者達が足を踏み入れた。
 だがそこでは、新たな戦いの幕が切って落とされていた。

 ゲルメンス帝国第二都心ノインツェスの中央官庁街。
 日ノ本から来欧した皇国陸軍警察省の外務局正次官松星宮 沙那子(まつほしのみや さなこ)の前に突如として姿を現した怪人ドクター・アンセムは、刀剣を振るって迎撃に飛び出してくる警察省の護衛官達を瞬く間に打ち倒していった。
「鬼妖種とは、これほどのものなのか」
 外務局副次官鈴原 丈倫(すずはら たけみち)は松星宮を庇う位置で、愛用の太刀を構えたまま喉の奥で低く唸った。
 あっという間に護衛官の三分の二以上が叩きのめされ、邪顎の群れが容赦なくその肉を喰らう。血飛沫と断末魔の悲鳴が飛び交う地獄絵図に、松星宮は青ざめた顔のまま、膝を震わせてその場にへたり込んだ。
 残る護衛官達も半ば戦意を失いつつ、それでも松星宮を守る為の円陣を崩さないのは、彼らの皇国への忠誠心が辛うじて勇気を維持させたからに他ならない。
 ドクター・アンセムはそんな彼らに対して笑みひとつ漏らさず、ゆっくりと一歩を踏み出しかけた。
 が、両者の間のほんの僅かな空間に、左右から静かに歩を進めてくる者達の姿があった。
「生憎だが、もう少し余興に付き合って貰おうか」
 パニッシャー・トリムルティの銃口を無造作に持ち上げて、ジェノ・サリスが据わった目つきで左右非対称の不気味な怪人を睨みつけた。
 傍らに立つ芥川 塵も、鬼哭啾々小太刀の二刀流で隙の無い構えを見せつつ、鬼妖種と呼ばれた怪人に恐れも無く間合いを詰め始めていた。
「どんなものか、お手並み拝見といこうか」
 接近戦の塵、銃撃のジェノという二段構え。塵が防御結界として展開させた森羅万象も、どこまで効果があるかは分からない。だが塵は、鍛えに鍛えた戦神としての己の実力を信じた。
 陣が裂空を放ったの同時に、ドクター・アンセムは目に見えない背後からの一撃で態勢を崩した。
「ぬぅッ!?」
 それまで冷然としていたドクター・アンセムの表情に、初めて驚愕の色が浮かんだ。防御もままならないうちに裂空を浴び、更にジェノがトリムルティを数発、叩き込んだ。
 前後からの連続攻撃を浴びたドクター・アンセムは、ぐらりとよろめいたものの、すぐに力強い足取りで仁王立ちの姿勢に戻った。
(野郎、直前で急所を外しやがった……視覚以外に何か、防御感覚を備えてやがる)
 光学迷彩で姿を消しつつ、背後から奇襲の一撃を浴びせた柊 恭也だったが、手応えを感じつつも、それが決定打ではなかったことに腹の底で思わず唸った。
「中々やるな。だが最初で私を倒し切れなかったのは不運の極みといえよう」
「なら、これはどうですかッ!?」
 邪顎の群れを掻い潜るようにして、乙町 空無垢のガッダを腰だめに構えて突撃を仕掛けた。虚を衝かれた訳ではなかったが、ドクター・アンセムは僅かに身構えただけで、その穂先の刃を左肩にほとんど直撃に近い形で受けた。
「……成程、まだ居たのか。これでもうおしまいか?」
 まるで挑発するかのような口ぶりに、空は違和感を覚えた。確かに攻撃は通っている。そこそこの打撃が入っている手応えもあった。それなのに、この不気味なまでの胸騒ぎは一体何なのだろう。
 空は慌てて防御姿勢を取りながら敵との間合いを離した。何か反撃がくるかと最大限の警戒をしてみたが、しかしドクター・アンセムは更に何らかの気配を伺うようにじっとその場に佇んでいる。
 すると、頭上に突如隕石の群れが発生し、ドクター・アンセムが立つ地点に集中して衝突し始めた。更にその爆音が鳴りやまないうちに別方角から数本の槍が飛来した。
(ミーティアレインとブラックスミス……あいつか)
 光学迷彩で姿を消している恭也は、路地裏に入る一角からマギウスとしての力を駆使して遠隔攻撃を仕掛けているルキナ・クレマティスの姿を認めた。
 そのルキナは、二段構えの攻撃が全て炸裂し、それなりの打撃を与えることに成功していたのだが、その表情は厳しい色に固まったままであった。
 ドクター・アンセムは確かに打撃を受けている。だが、何かがおかしい。瀕死の状態でふらふらになりながらも懸命に堪えて、その場に佇んでいるという印象ではあったが、その不気味な面には笑みさえ浮かんでいた。
「フォトン、物理、魔力……おおかたこんなところか。良かろう。全て覚えた」
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