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すすめ! おばけやしきたんけんたい

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第四章 Blood Donors needed. See Count.



 一階にくらべれば、地下のほうがいくらか風化はマシらしく、壁や床にいくらかヒビや欠けが見られるものの、瓦礫に足をとられるようなことはなかった。
 その分ぐっと外の光がしぼられ、窓もなく、天井にできたヒビの隙間からわずかに差し込むくらいの光源しかない。
 そのため、討伐隊一行は階上よりもずっと慎重に、ゆっくりと進むことしかできなかった。
 空気の循環もあまりうまくいってないようで、カビと鉄と腐臭のいりまじる、独特の刺激臭が鼻をつく。
(予想できた状態ではあるが……)
 ロウレス・ストレガは眉間の皴をさらに深くする。清掃員を自認する彼にとって、決して清潔といえないこの状態は、やはり不愉快に感じられた。
(……早めにケリをつけたいところだな)
「あ……」
 不意に司聖 まりあが小さな声をあげた。
 大きな黒い塊が影に埋没するように潜んでいることに気づいたのだ。
 ロウレスは素早くトレミー・ウォッチで位置情報を確認する。それなりに進んだつもりだったが、階段からまだいくらも離れていない地点らしい。
 天井からは相変わらずわずかな光がさすだけで、見通しは決してよくない。けれど討伐隊はそれぞれ、自分の得物を構え、黒塊を取り囲む。
(多分、これが今回の、目標……)
 これまで出会ったフェイルよりも一段と大きなその姿に、まりあはごくりと唾をのむ。
(一階から降りただけの、こんな場所にいるなんて……)
 まりあはちら、と一瞬だけ階上へ視線を流す。
 気のせいかもしれない。けど、階上から子供が騒ぐような気配がした気がした。
「――まりあ、だめよ。集中して」
 パートナーのルディ・リリーベルに言われてハッとする。
「こどものことは、面倒を見てくれる人がいるわ。アンタはアンタの正義をまっとうしにきたんでしょう。ヒーロー」
「……ごめんなさい、気を付ける」
 そうだ。私は、自分の力が正しく使える方法を選んでここにきたんだ。
 まりあは両手それぞれにつかんだ双剣を構え、油断なく黒塊――フェイルを見据える。
 その、次の瞬間。
 どうんっ!
 足元から大きく尖った石の杭がせりあがった。警戒していたことが功を奏し、なんとか回避に成功する。
 それは侵入者たちを一斉に排除するように、いくつもの杭が同時に、あるいはわずかにタイミングをずらして出現しては消えていく。
(やっぱりそうだ……!)
 まりあと同じく回避行動を取りながら、卯月は己の予想が完全に事実と合致していたことを知った。
 フェイルに関する被害報告にあった、臀部や頭部の大きな刺傷。そこから鑑みるに、このような攻撃が行われる可能性は見て取れた。
(地面への警戒は維持。串刺しも来ると知っていれば恐れるようなものじゃない)
「……ヴィヴィアン」
「はい」
 パートナーたる彼女に、長々しい指示など必要ない。ヴィヴィアンは自ら卯月の得物に触れ、そこに偉人たる彼女の力を発現させた。
 それは卯月が構える大剣に注がれ、同時に卯月自身の偉能力を高めて行った。
 今や、彼がまとう気は達人のそれに匹敵している。
 卯月は、十分に力がそそがれた大剣の柄を、ぐっと強く押し込んだ。太い刀身は二つに分断され、双剣として扱うことが可能になる。
「ありがとう。……行くよ」
 その一言が、討伐隊による反撃の火ぶたを切るきっかけになる。
「たああああっ」
 あえて目立つように声をあげ、卯月は誰よりも前に出た。敵をひきつけ、できるだけ自分に攻撃を集中させる狙いだ。
 対してヴィヴィアンはあえて後ろに下がり、大きな銃を構えた。卯月の障害になるもの、卯月の攻撃を阻害するもの――すなわち、次々打ち出される杭をことごとく狙い撃つ。
 同時にまりあも大剣を手に飛び出した。
(頭を狙いたいところだけど……)
 霊長類同様の体躯をもつなら、たいていはそこを叩き斬れば間違いない。けれど今はその全身を翼で覆い隠している。蝙蝠にそっくりの翼は、見た目以上の硬度があるのだろうか。
(もう、かわいくないなぁ……!)
 跳躍しながら素早く移動するまりあを後追いするように、杭が次から次へと地面から繰り出される。
 それを次々回避しながら、彼女は大きく跳躍し、奥の壁に張り付いているような黒い塊にとびかかり、双剣で切りつけた。
(いける……!)
 翼は確かに硬く、切るというよりたたきつけるような攻撃にはなったが、全く歯が立たないというわけでもないように思われた。相手の動きは現状ほとんどない。杭を打ち込んでくるのを除けば、翼を閉じて縮こまり、ずっと防衛に徹しているだけだ。
(この翼を突破さえすれば……)
 卯月も同様に剣を打ち付け、まりあと同じ考えに及んでいた。
 機動力をもって杭を回避しながら幾度も攻撃し続ける。それできっとこの戦いは突破できるだろう……。
「あ……」
 二人から少し離れたところで、ジェノが小さな声を漏らした。
 討伐隊の攻撃を受けながらじっと耐えている黒い塊。それが徐々に大きくなろうとしていることに気づいたのだ。
(まさか、偉能力に反応している……のか)
 ジェノはいつかセクターDにまつわる話を聞いた際に教えられたことを思い出す。
 フェイルとは、エデンに定着できず異形化した偉人の成れの果てだ。
 偉人の根底には大なり小なり『勝利への執着』がある。……彼のフェイルが、皆の言うようなかつて祖国を守ろうとした英雄ならば、なおのこと。
 そしてそれが原動力になるのだ。『勝利するために、他の力を取り込む』というものに――……。
 その結果、攻撃を受けた翼を修復させ、その身を巨大なものへと変貌させようとしているのではないか。
(だとしたら)
 ジェノは巨大な剣を構え、身に着けた結晶と、刻まれた紋章とに己の力を注ぎ込んだ。
 その力は天井を目掛け高まり、絡まりあい、肥大して――ジェノの体にまで変化をもたらす。
「あの紋章は……」
 木戸がハッと息を飲む声が聞こえた。
 そう。この紋章は特別なものだ。憤怒の力が沸き上がり、力と共に体をも強大なものへと変貌させる――竜紋なのだから。
 巨大化するジェノの体は硬いうろこに覆われ、その爪は硬くとがり、口元にはおおきな牙が生まれた。背中には蝙蝠のそれよりもずっと硬そうな翼が生える。
 その姿はまさに、伝説のドラゴンそのものだった。
「ちょ、ちょっと待って! このままじゃ――」
 悲鳴にも近い静止の声が上がるが、もう止まらない。
 偉能力には、能力を有する者同士が衝突する際、世界に影響を与えないよう両者を特殊空間に隔離する作用がある。けれど、これは単純な偉能力の放出ではなく、体そのものの変化だ。
 巨大化した体は地下の低い天井にやすやすと届き、衝突し、ひび割れを深くした。そして、ほんの数秒にして、突き破るに至る――。


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