三千界のアバター

勝利者のバイアス

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序章


 化粧の仕上げは、いつもグロスだ。
透明なゲルを唇に広げて、女――リナルはにい、と口元をゆがめた。
「……よし」
 鏡の中の自分に満足して、リナルはパタンとコンパクトを閉じる。その指には大きな石のついた指輪が彩りを添えていた。
「リナル……」
 足元から声がしてリナルは視線をそちらに向けた。その眼差しは冷ややかで、化粧に飾られた美貌には不似合いなほどだ。
「その名で呼ぶ権利は、貴様にはない」
 貴様、と呼ばれたのは、コンクリートの床にうずくまる少女、ルナウだ。
「そんな、だって私たちは……」
「ならば我らと共に来ればいい。その選択はできたはずだ」
「…………」
 ルナウは黙って首を横に振る。それは力のないしぐさだが、はっきりとした拒絶が読み取れた。
「…………」
 リナルは黙ったまま、ルナウの襟元を掴み、片手でやすやすとその体を引き上げる。じゃらりと、重い鎖の音がした。
「……生意気なんだよ」
 コンパクトを手にしたまま、リナルはルナウの頬を叩く。
「これ以上痛い思いをしたくなければ大人しくしていろ」
「……リナル……」
「――リナル様」
 戸口から屈強な男が顔を出した。
「お時間です」
「分かっている」
 短く頷いて、リナルはルナウを掴んだたまま歩き出す。
 僅かな光が指輪にきらめき、きらきらとコンパクトを包む。しかしそれは部屋を出る瞬間、ふっと消え去った。

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