三千界のアバター

蒼の空、翠の花:2

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蒼の空、翠の花:2
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「ごきげんよう、皆さま」
 狛守 眞白は、慣れない言葉遣いで挨拶をした。
 彼女は今、とある異人排斥派の団体に潜入していた。少し前まで、巴 翠(ともえ・みどり)が出入りしていた場所だ。
 翠が姿を見せなくなって久しい。だが、何か情報が得られるのではと考え、彼女はブラックロータス・エクスマーキナーと共に留まっていた。
「やあ、調子は良さそうですな?」
 代表の赤城(あかぎ)がにこにことしながら、声を掛けてきた。
「ありがとうございます。お陰様で、この通りですわ」
 右目の義眼はそのままだが――この方が調子がいいので、と言い訳した――、手足の義肢は、赤城たちの紹介で新しい物に替えていた。元より、それが目的の来訪だったのだから、断る理由はない。
 そして実際、赤城たちの言うように、これらの星導器は市場に出回っているそれよりも、性能が良かった。無論、値は張るが、目玉が飛び出るほど、ということもない。
 何か礼がしたいと言うと、では寄付を、と頼まれた。
 訝しげな表情を浮かべると、赤城は笑った。
「金はいくらあっても、邪魔になりませんからな」
 妙だ、と眞白は思った。相当な資金がある――とは、ここを初めて訪れた際、聞かされた話だ。確かに金はいくらあってもいいだろう。だが、今このタイミングで寄付を募るのには、わけがありそうだ。
 眞白はブラックロータスを探した。彼女は団体のメンバーに、マカロンと紅茶を振る舞っていた。ブラックロータスの紅茶は評判が良く、眞白がここに溶け込むことが出来たのは、そのお陰もあった。
「……確かに妙ですわね」
「でしょ? お金がないってことは何か買い物したのかな――」
 宛がわれた部屋に籠り、二人は小さな声で話した。
「――大量の武器、とか?」
 眞白は頷く。
「昨夜、ちょっとうるさくなかった?」
「ええ、そういえば」
 ふと目が覚めると、人の話し声があちこちから聞こえてきた。何人もの人間が動いている気配もした。覗こうかとも思ったが、逆に見られることを警戒して諦めた。
「もしあれが、武器を持ち込んでいたんだとしたら……」
 眞白は呟き、ぞっとした。その豊富な資金で買い込んだ武器がどれだけのものか、想像もつかない。
「クロ」
「承知いたしました」
 ブラックロータスは紅茶を買い足すという理由で外出し、目的の店以外、どこにも寄らずに帰ってきた。
 途中、ギルドに小さなメモを投げ入れて。


 天峰 真希那リーオ・L・コルネリアは、阿由知(あゆち)の県令・天羽 帯刀(あもう・たてわき)の屋敷に、護衛として雇われていた。
 もっとも、護衛としての仕事はないに等しい。公務では正式な警護官が付く上、帯刀はプライベートで外出することがないからだ。
 故に、何もしないで給金を貰えるという、世の中の大半の人間にとって実に羨ましい状態であるのだが、だからといって日がな一日ゴロゴロしているわけにはいかない。
「こうしてはいられない!」
 三日目の夜、真希那は拳を握りながら言った。
「別に、この三日間、本当にゴロゴロしていたわけじゃないぞ。毎晩、【神懸り】や【神託】で、屋敷内で何か起きる予定がないか調べていた」
 だが、【神託】が下りてくることはなかった。単に何もないのか、外れたのかは分からない。
 屋敷の人間に異人がいないか聞き取りもしたが、答えは「否」。嘘はついていないようだった。
「徹底して異人嫌いなのかなあ」
 前の県令・御母衣 金嗣(みほろ・かねつぐ)は異人を雇っていたという。阿由知から異人の姿が消えたことを考えれば、帯刀は間違いなく排斥派だ。
「いや、天羽は異人に恨みがあって隔離してる様子じゃなかった。何か他に目的があるはず」
「それは何?」
「だから、それを調べに行く」
 二人は部屋をこっそり出ると、人気がないことを確認し、「変化の小槌」で自分たちを手のひらサイズに小さくした。
 重要区画――というような場所はないが、この屋敷で最も重要なのは、帯刀の部屋だろう。手のひらサイズゆえに時間がかかったが、ようやく真希那たちは帯刀の部屋にやってきた。
 話し声が聞こえる。
 なぜ今夜行動を起こしたかと言えば、来客があったためである。誰も近づかないよう、と帯刀は執事やメイドたちに言い渡していた。
 真希那は「盗聴刀」――身体同様、小さくなっている――の鞘をドアの隙間に突っ込んだ。帯刀と客、二人の話が聞こえてくる。
「……それで、移送は完了したのか?」
「はい。刑務所内にいた異人たちは全て、西都(せいと)の近くまで連れて行き、解放しました」
「奴らも、わけが分からなかったろうな」
 帯刀はここで笑った。
「でしょうね。殺されるのでは、と思った者もいたようです。運転手があちらが西都だ、行け、と指差すと、味方だと思ったのでしょう、泣いて感謝する者もいたそうです」
「西都はそろそろ、パンクするだろう」
「はい。現に犯罪も増えているようです」
「それでいい。自治が不可能ならば、政府が介入する口実になる。上手くすれば、式も中止に出来るだろう」
「間に合いますか?」
「間に合わなければ致し方ない。どちらにせよ、伽耶姫には犠牲になってもらう他ないな。このまま、皇家に権力が集まるのは困る。帝にはお飾りになって頂こうではないか」
 相手は頷いたようだった。
「刑務所は大分、空いたろう?」
「ええ、ですが、更に異人たちを捕えていますので……」
「そうだな。また集まったら送ればいい。ところで、あの二人はどうしている?」
「することもなく、ゴロゴロしているようです」
「何もしないようなら、適当な理由を付けて追い出せ。何かするようなら、見張っておけ」
 真希那とリーオは顔を見合わせ、部屋に戻った。
 さて、この情報をどうしたものだろう?
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