三千界のアバター

怪奇、幻惑の森と消えた少女

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怪奇、幻惑の森と消えた少女
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第二章 森の深淵、虚ろの大樹


 謎の少女を追う冒険者らと別行動をしたあの時から、数十分の時が経とうとしていた。
 森はどんどん暗くなり、次第に地面に刺さった矢は既に肉眼では捉えられず、信三郎の【発光】が無ければ痕跡を追う事すら難しくなるほどの暗さであった。
 それが単純に高くそびえ立つ木々のせいなのか、それとも何か別の原因があるのか。
 いや、そもそも今自分が前に進んでいるのかすら確信が持てなくなるほどの、黒い絵の具で空間を塗りつぶしたような闇の中で、冒険者たちは自分を保つ事に精一杯であっただろう。
 そんな状態が一体どれくらい続いたのか、数分が数時間に感じられてしまうような感覚に襲われかけた時、眼前に淡い光が見えた。
 それは光量にしてみれば蛍の腹の輝き程度の、本当に小さい光だったが、光に飢えていた冒険者たちは自然と、その光に向かい駆けだしていた。
 ——瞬間、眼前に飛び込んできたのはあまりにも、あまりにも巨大な大樹であった。
 おそらく外周数キロにも及ぶであろう、幹……というより、この世界を支える柱なのだと、そう説明された方がまだ納得がいくような、その巨大な樹木は冒険者たちの視界を埋め尽くした。
 そして、少しずつその光景に慣れてきた者は、その周囲へと視点を移す。
 すると、今自分たちが立つ空間と大樹のおかしさ、そして、自分たちの周りに人が倒れていた事に気づく。
 まず自分たちの立つ空間。
 そこはなぜか、異常なまでに開けていた。
 大樹があまりにも大きすぎて距離感が掴めていなかったが、大樹の周り半径数百メートルほどのエリアには、木どころか草木一本すら生えていない。
 そして大樹には枝も葉もその一切がが生えていないのだ。
 その代わりと言っていいものなのかは分からないが、大樹の根であろうものが、地面を隆起させ四方八方に伸びていた。
 そして倒れていた人たち。
 駆け寄れば、それが冒険者である事が分かる。
 おそらくあの、村人を連れ戻そうとしていた冒険者たちなのだろう。
 様子を見れば彼らは息をしていて死んではいない……だが、何かをうわ言のように呟いているのが分かる。
 よく耳を傾ければ、内容は家族の事、恋人の事、趣味の事、内容は様々だが、何故かみな幸せな夢を見ているようだった。
 ——ここで冒険者たちは気づく。
 何故、村人を助けに行ったはずの彼らがこんな場所で幸せそうに寝ているのか。
 そう、帰って来なかった理由はこれなのだ。なら、これはいったい誰の……いや、何者の仕業なのか。
 そんなのは、もうすでに一つしか答えがない。
 冒険者たちは、そびえる大樹を睨みつける。
 そこには、つい先ほどまでは無かったはずのひび割れが浮かび上がり、それはまるで、邪悪な笑みを浮かべているようだった。
 それは<虚ろの大樹>
 森に巣くい生き物を食らう、正真正銘の魔物である。

 「いくわよ!」
 ヒルデガルドの声を切っ掛けに、皆それぞれの武器を構え<虚ろの大樹>へと駆けてゆく。
 しかしそれに呼応するかのようにどこからともなく狼型の魔獣の群れが現れ、<虚ろの大樹>を守るかのように冒険者たちへと襲い掛かる。
 「【ファストアタック】!」
 しかしそれにひるまず、ヒルデガルドは【ストライダー】としての素早さを生かした高速起動で狼の群れへと突撃した。
 魔獣たちは突撃したヒルデガルドの横から攻撃しようと牙をうならせ駆ける。だが、それは同じく【ストライダー】としての素早さを利用し攻撃態勢に移っていた空の【ゴブリンハント】による矢の雨によって防がれた。
 魔獣たちに当たったのを確認すると、素早く位置を変え【ロックオン】、そして再び【ゴブリンハント】を放ち魔獣の数を減らしてゆく。
 「パティア、あの大樹にデータ破壊をして弱点を露出させる事は出来るか?」
 【軍馬】から降り、正紀はパティアに問いかける。
 「はいあなた。でも少し時間が必要です」
 パティアがそう答えると正紀はコクリと頷き——
 「ならパティア、君は俺が守る。今はデータ破壊に集中してくれ」
 そう言い切り、【竜眼の宝盾】を構え【アルティメットガード】の体勢をとった。
 「なるほど、【ヴァイラス】の力を使いデータ破壊を試みるのですね。それなら私たちにできる事はただ一つです」
 正紀とパティアの話を聞いていたロイドは、正紀が構えをとった場所よりも前に【ラージシールド】を構えた。
 それは正紀を最終防衛線とした一次防衛線の役割を担う為であった。
 「沢山の魔獣、強大な敵! 燃えてきたでヤンス!」
 その横についたのは、言葉によって自信を奮い立たせ【戦闘意欲】を高める信三郎であった。
 「信三郎、私が攻撃を受け止めた後は任しましたよ。 ……ローレンスはどうしました?」
 「ローレンスなら向こうで倒れている冒険者たちのところでヤンス」
 そう言って信三郎が指さした先には、近くの樹木を使い、【輸送技術】を生かし四輪の荷車を作成しているローレンスの姿であった。
 「なるほど、では救助対象の冒険者はローレンスに任せておけば大丈夫ですね」
 ロイドが一息ついたその瞬間——
 「魔獣どもの第二波が来たぞ!」
 弥久の叫びが冒険者たちの意識を張り詰めさせた。
 集団でやって来た魔獣の群れは、遠目で見れば砂煙を上げる嵐のよう。
 「今のうちに戦線を押し上げるのだ! もちろん、俺一人でも十分な話だがな!」
 そう言って弥久は眼前に立ち上る砂煙へと【エンシェントランチャー】の銃口を向けると、「【トータルイクリプス】の一撃を喰らえ!」
 その言葉とともに放たれた高圧縮魔力の砲撃は、魔獣の群れの約半数を消し飛ばした。
 「僕も行くよ」
 半壊し、尚も突撃を続ける魔獣の群れに飛び込んだのは叫であった。
 「喰らうがいいの死拳(デスパンチ)」
 その言葉とともに【アシュラ】の力によって六本の腕が顕現した。
 その拳は【ブレイブ】によって強化され、より一層強力な武装になっていた。
 「いくの」
 その言葉とともに繰り出される怒涛の連撃が、魔獣を片っ端からなぎ倒す。
 しかしそれでも数十体の魔獣はその猛攻をすり抜け、未だデータ破壊を試みているパティアのいる方へと向かってゆく。
 「させるか!」
 ヒルデガルドの【トライアサルト】による三連撃が再び魔獣を減らす。
 襲い掛かる魔獣を【ホライゾンシールド】によって【受け流し】、着実に迎撃を続けてゆく。
 しかしまだ、それを潜り抜けた十数匹が奥へと駆ける。
 「ここから先へは行かせませんよ!」
 突撃してきた魔獣へカウンター気味に放たれた【ウォールアタック】による押し返しが、魔獣たちを激しく吹き飛ばす。
 そこに信三郎も加わった防衛線を潜り抜けたのは、たった数匹の、だが選び抜かれた数匹であった。
 魔獣はパティアの喉元へ牙を立てるべく飛びかかる。
 「【アルティメットガード】!」
 だが、それを正紀は許さなかった。
 【竜眼の宝盾】によって飛びかかるすべての魔獣の攻撃を完璧にいなした正紀は、すかさず繰り出した【無垢のガッダ】による【破空】で敵を差し穿った。
 「……データ解析——完了。自己データウイルス化シークエンス——コンプリート。 ……いける!」
 最後の魔獣が吹き飛ばされたのと時を同じくして、パティアの準備が完全に整った。
 「何もかもが終わりだ! 終焉の底に沈め!」
 パティアが鬼気迫る表情で叫ぶと共に、モザイク状のバグの嵐が<虚ろの大樹>へと放たれ——
 ゥオオオオオオオオオオオオ——!!!
 大地を揺るがすような、自然そのものが叫んでいるかのような悲鳴が、怒号が、揺れとなって冒険者たちを震わせた。
 すると、<虚ろの大樹>の顔のような部分が少しずつ崩れてゆき、本来は固く、そして尋常ではない厚さの外皮に守られているコアが露出し始めたのだ。
 「チャンス!——いや、何か来るぜ!?」
 ここぞとばかりに駆け寄ろうとした潤也が足を止めたのは、<虚ろの大樹>の口に見える割れ目から、何かを吐きだそうと力を貯めているように見えたからだ。
 彼らにそれを知る術はないが、それは<虚構幻霧>と呼ばれる<虚ろの大樹>の特殊能力であった。
 <虚ろの大樹>は<イリシウム・エスカ>によって集められた魔獣や人へ<虚構幻霧>を浴びせ、自分にとって都合のよい夢を見せる事によってそれらを操るのである。
 <虚構幻霧>を浴びてしまっては、たとえ彼らといえども苦戦は必須。
 だが、それは意外な要因で防がれた。
 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!!!
 突如として<虚ろの大樹>は先ほどよりも大きく呻きだし、<虚構幻霧>を放つ動作をやめてしまう。
 今の彼らにそれを知る術はないが、それは謎の少女の正体を探る為追った別動隊の冒険者たちが<イリシウム・エスカ>の撃退に成功した故であった。
 自分の体の一部であり重要な捕食機構を潰された<虚ろの大樹>は呻き、一切の行動をとれない。
 「どう見たって今がチャンスよ! 潤也、あたしに合わせなさい!」
 立ち尽くしていた潤也の横を肩を叩いてを走り抜けるアリーチェ。
 「あ、あぁ! よしっ、任せろアリーチェ!」
 潤也とアリーチェの二人は【ストライダー】としての素早さで一気に加速、【ポリアナードの宝刀】を二人同時に抜き放ち、息を合わせてコアへと跳んだ。
「「はあああああああああ!」」
コンマ数秒の狂いもない、完全に同時に放たれた【トリプルアサルト】の同時攻撃は、<虚ろの大樹>のコアを完全に六等分にして見せた。
————————————!!!
 もはや声にもならぬ断末魔を最後に、<虚ろの大樹>は静かに崩れてゆく。
 風に巻き上げられた<虚ろな大樹>だったものが空に溶けていくのを見て、冒険者たちは自分たちの勝利を実感したのだった。
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