三千界のアバター

怪奇、幻惑の森と消えた少女

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怪奇、幻惑の森と消えた少女
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第一章 謎の少女、その真相


深く入り組んだ森の中を、凄まじい速度で逃げる少女と追走する冒険者たち。
少女は木々の間をまるで見知った通りを走っているかのようにスルリスルリと潜り抜け、冒険者たちが追いつく事を決して許さない。
「結構速いですね……」
【アヴォイドダッチ】に騎乗し逸早く追走を始めた舞花でさえ、その例外ではなかった。
(速い……でも私たちを撒こうとしている訳では無さそうですね。私がスピードを緩めれば遅くなり、追いつこうと加速すれば同じように加速する……距離を保ちつつ、私達をどこかに連れて行こうとしている?)
 「すみません! どうか話を! 私達はあなたを助けられるかもしれません!」
 追いかけながら大声で叫ぶ、だが、その言葉に反応は無い。
 (反応がない……言葉を返してこない? いや、発声機能自体が無い? だとすれば……)
 「ふぅ……ようやく追いついたでござるよ」
 「どうだ? 何か分かったか?」
 考えていた舞花の隣を並走するように、ヨウとフォルティスが追いつき声をかけた。
 「はい、大体は……あれは人間ではありません。間違いなく、植物系の魔物です」
 「やはり魔物にござるか……」
 「意思の疎通なんかは出来ないのか? あと、どんな能力がある?」
 「意思の疎通などは出来ないでしょう、人間の形をしていても発声機能は無いようです。消えた村人の事などを聞くのは不可能でしょうね……あと、そんな能力があるのかまでは……」
 「あれは恐らく、<イリシウム・エスカ>だすぁ!」
 口を濁した舞花の言葉を補うように発言したのは、いつの間にか三人に追いつき、パタパタと必死に羽を振りながら飛ぶ恭司の姿だった。
 「<イリシウム・エスカ>とは何でござるか?」
 「巨大な植物系モンスターが稀に使う疑似餌の事だすぁ!」
 恭司はハイエルフの知識によって少女の正体に気付いたようであった。
 「疑似餌って事は……オレらは今誘われてるって事なのか?」
 「そうですね、こうやって追いかけている今も、常に一定の距離を保とうとしているみたいです。追いつけず見失わず……そんな一定の距離を」
 「誘われていると分かっているのなら、今ここで倒してしまえばいいのではござらんか?」
 「それはおススメしないすぁ」
 「どうしてでござる?」
 「<イリシウム・エスカ>は捕食機能を備えている事が多いすぁ、大きくて動けない本体の為に獲物を捕まえ、捕食し養分を本体へ送るのが目的だからすぁ」
 「……そうか、ならこのまま付いて行けば普段捕食そしている場所……すなわち村人達が連れていかれた場所へ往けるという訳だな」
 「そのとおりすぁ!」
 そうして話を続けていると、冒険者たちの前を先行していた少女<イリジウム・エスカ>が、ピタリと動きを止めた。
 冒険者たちは<イリシウム・エスカ>の止まった場所へと、少しずつ、にじり寄るように近づいてゆく。
 そこは、蔦によって作られた檻のような場所だった。
 日の光すらも遮ってしまう程、高く、そして広く葉を伸ばした木々の間を、まるで縫うように張り巡らされた蔦が幾重にも重なり、その場所自体がまるで檻のように見えるのだ。
 その奥を少しばかり注視すると、冒険者たちには木の幹に蔦で巻き付けられた人影が見えた。
 察するに、それは消えた村人であろう。
 顔色は悪く、ひどく痩せ細っているが、まだかろうじて呼吸はしているようであった。
 そして少しばかりよく見てみれば、その隣の幹には蔦に巻かれた白骨が
 ほかの幹の下にも、蔦と一緒に動物や魔獣の物であろう骨がゴロゴロと転がっていた。
 あとほんの少しでも遅れていたならば、この骨の中にあの村人が加わったとしても何の不思議もない。
 「生きておったのなら何より、なれば後は奴を……<イリシウム・エスカ>とやらを退治するのみでござる!」
 「オレも出来る限りサポートする、やるぞ」
 ヨウとフォルティスはお互いに戦意を高め、一歩、二歩、三歩と近寄って行く。
 「戦闘は彼らに任せ、私たちは隙を見て村人たちを助け出しましょう」
 「わかったすぁ!」
  舞花と恭司はヨウとフォルティスと別れ、回り込むようにして村人たちが巻かれている幹へと向かった。
 「行くでござる!」
 ヨウは【紋白蝶【黒烏】】を抜刀、素早く【五行の構え】の中段をとると<イリシウム・エスカ>へと素早く接近する。
 すると<イリシウム・エスカ>は右手をそろりと上げ、正面へ向けると、それに呼応したように周りを覆っていた蔦が一斉にヨウへと襲い掛かる。
 「自らは動かず攻撃とは……ずいぶん甘く見られたものでござるなぁ!」
 ヨウは襲い掛かる蔦を時に躱し、時に切り伏せ、【残心】の心構えを忘れず動いているからか、その攻撃によってヨウにダメージを与えられる事は無かった。
 「今でござる!」
 蔦の攻撃が少しだけ緩くなった刹那、ヨウは素早く踏み込み、納刀、ビタリと自らの間合いに<イリシウム・エスカ>を収めると、首と右肘に高速の二連撃。
 【燕子花】が完全に<イリシウム・エスカ>の命へ止めを差した……ように見えた。
「浅い……あやつ、寸でのところで避けた……いや、避けたというより何かに引っ張られたかのように見えたでござるが……」
 ヨウの所見は当たっていた。
 今まで人を装う為か自立歩行していた<イリシウム・エスカ>は今、背中から生えた蔦によって吊るされるように宙に浮いていた。
 そして宙に置いたそれに各所から蔦が伸び、繋がって行く。
 それは<イリシウム・エスカ>に力を与えているのか、それともその逆なのか。
 その判別はヨウには付かなかったが、先ほどまでよりもそれが厄介な相手になったことだけは理解していた。
「【ラピッドアタック】!」
突如放たれた【冒険者の剣】による素早い連撃が繋がっていた蔦の一本を切り離した。
「フォルティス殿!」
「わざわざ待ってやる必要もないだろ、ヨウ!」
フォルティスはそう叫ぶと、まだ<イリシウム・エスカ>へと繋がろうとする蔦を片っ端から切り落としてゆく。
「流石はフォルティス殿! 私の最高のパートナーでござる!」
ヨウはそう言うや否や身を翻し、蔦に持ち上げられた<イリシウム・エスカ>へと飛び跳ねた。
「【燕子花】!」
再び放たれた二連撃は<イリシウム・エスカ>へと繋がっていた蔦を軒並み切り離し、それは支えを失った人形のように地面へと叩き付けられた。
「これで……トドメにござる!」
着地と同時に再び飛び跳ねていたヨウは、空中で数度回転し地面に伏していた<イリシウム・エスカ>へと【紋白蝶【黒烏】】を突き立てた。
「————!!!」
冒険者たちはその瞬間、発声器官の無いはずの<イリシウム・エスカ>から、苦悶の声が聞こえたような気がした。
それは森の一部が死んだ呻きなのか、それとも別の<何か>の声なのか。
彼らにそれを知る術はない。
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