三千界のアバター

ワンダーランド

最後の真珠と最初の真珠

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最後の真珠と最初の真珠
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■特異者になったのは


 朝、ワンダーランドのチェシャーヴィル、喫茶店『ピットゥーラ』の店内。

「……最後の真珠か」
 榛名 千晶は、じっと自身が選んだ真珠を見つめていた。
「……一番の悲しみを思い出させるというが」
 受けた説明を思い出すなり
「さて……」
 意を決し真珠に向かって手を伸ばし
「何のために特異者として世界を渡り歩くか、自分の出発点を見つめ直すとするか」
 触れた。
 瞬間、ゆっくりと一番の悲しみが忍び寄って来た。

 最後の真珠が千晶に見せた一番の悲しみは
「……(……朝……これは……)」
 一瞬にして両親と妹を奪った当時自分も乗っていた客船の沈没事故当日ではなく、事故発生から数ヶ月後のある日の朝であった。
「……あぁ、そうだ(……寝る度に事故の悪夢にうなされては、大好きな人達を失った悲しみの涙と共に目を覚ます毎日だったのが、その日は何の夢も見なかった)」
 真珠には呼ばれなかった幾度となく悪夢に蝕まれ、心身共悲しみに震えた日々を思い出す間も、絶える事なく朝のひとときは続く。
「……(……気付いたんだ……自分の悲しみが癒え始めたこと、共に生きていた家族が思い出に変わり始めていることに……それ自体がどうしようもなく恐ろしく、悲しいことに思えて……)」
 ぼそりと、当時胸に抱いた苦しい思いを吐露した。
「……(人から見れば、ようやく未来に目を向けられるようになった、なんて言うかもしれないけどなー)」
 他人から掛けられるだろうお決まりの言葉を胸中で呟きつつ、蘇った悲しみが心一杯に広がる。
「……(私は、それが嫌だった)」
 千晶は胸中で呟きながら
「……突然誰かを失って、そのまま幸せになるなんて嫌だから、それを取り戻すために特異者になったんだ」
 失った家族の姿が浮かぶと共に、最後の真珠に触れる前に言った言葉の答えを洩らした。
 そうしている内に悲しみは遠のき、現実が戻って来た。

 悲しみは色褪せ現実が色を取り戻した後。
「……それに愛した人たちの思い出が、愛してもらえた『私』の結末が、嘆きだけで終わるなど我慢ならないしな」
 千晶は笑顔を作った。
「何より、歩かなきゃいけない。進み続けなきゃいけないんだからな」
 悲しかろうが泣きたかろうが現実に立ち向かうために。

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