三千界のアバター

いつまでも貴方へ

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いつまでも貴方へ
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 村から続く林道は背の高い木が多く、昼間であってもそれなりに暗い部分が多かった。鳥や遠くの動物の鳴き声が聞こえてくる中、明らかに異質な人の声が聞こえてくるのに、時間はかからなかった。
「いつ……までも……。いつま、でも……」
「ずっとこんな声が聞こえてたら、確かに知らないと気持ち悪いですね」
 【地獄耳】を持つ恭司を先頭に、声の聞こえる方へ以津真天捜索班になった四人が進んでいく。すでに道は外れ、この未知に詳しくない人が歩くには危険な状態だった。
「大丈夫でしょうか? 先程の忍の方は姿が見えませんが……」
「舞花殿は心配性じゃな、あれは潜んでるだけだから大丈夫じゃよ。心配するなら人間の気配を心配したほうがよい」
「あ、開けてきたよぉ?」
 道なき道をしばらく進んでいくと、他より木々が少なく、程よく光の差し込む場所に出てきた。
そしてその中心には、鳥と言うにはあまりに大きく、獣と言うには澄んだ瞳をした黒い羽毛の妖が四人を見ていた。
「いつまでも……」
「君が以津真天さん、ですか?」
 先頭に居た恭司の言葉にうなずく以津真天。それを見て敵対心は無いと判断したのか、他の三人も前に出る。
「良かったぁ、先に見つけられたんだねぇ。ああ、これお近づきにどーぞ?」
 亜季から差し出された金平糖には目もくれず、以津真天は全員を見渡して問いかける。
「なぜ、ここへ……?」
「あなたを友達と呼んでいる少年から頼まれたんですよ」
「しょうねん……あのこが……?」
「心当たりはあるようじゃの。お前さん、その声のせいで人間から狙われておるぞ?」
「かまわない……ひとが、きずつかないなら……」
 以津真天の目は穏やかだが、その言葉に嘘偽りはないという決意に溢れていた。別の言い方をすれば、腹をくくったとも言える。
「優しいんだねぇ、君は……。でも、僕らが来たからには、もう安心だよぉ」
「妖魔も、人間も、私達がなんとかします。だからあなたは少しの間、何処かに身を隠していてくれませんか?」
 以津真天は舞花と亜季を交互に見る。
「君が傷ついたら、お友達が泣いちゃうからさぁ?」
「あのこが……」
「あなたの事を教えてくれたのは、あなたを友人と慕っていた少年です。彼のためにも、私達を信じて逃げてはいただけませんか?」
 村の方角を見る以津真天に、舞花と亜季が以津真天に避難をすすめる。
「みんな、悪いけど時間が無いみたいです」
 二人の優しげな声でのやり取りに、恭司の静かな声が間に入る。恭司は饗華と共に、この広間に入ってきたところをじっと見つめていた。
「こっちに近づいてくる音がかなり聞こえてきます。おそらくは武士団かと」
「ここはわしらに任せて、少しの間離れておれ。落ち着いたら、またここに来るといい」
 恭司と饗華の見る先には、すでにいくつもの人影が見えていた。全員がここへたどり着いたのと同じように、武士団も以津真天の声を追ってきたのだ。
「……ひと、きずつけないで」
 以津真天は一言つぶやくと同時に、大きな翼を羽ばたかせてゆらりと浮かび上がると、そのまま木々の向こうへ飛んでいく。幸か不幸か、以津真天が見えなくなったのは、武士団が踏み込んでくるのとほぼ同じだった。
「お前ら、先に行っちまった旅の人か!?」
「こっちに妖魔が居たはずだ、どこ行った!?」
 全員が武器を携え、興奮気味に訊いてくる。いつでも戦える様子の彼らに対して対応したのは、舞花と亜季だった。
「落ち着いてください。討つべき妖魔は、ここにはいません」
「そんな訳あるか! 俺たちは気味の悪ぃ声を聞きながら来たんだ!」
「まぁまぁ、聞いてよぉ。あの声を出してた妖は、いい妖なんだぁ」
 舞花の見惚れるような振る舞いも、穏やかな亜季の様子も、興奮状態にある人間には通用しない。それどころか、彼らは状況を悪い方向へ捉え始めていた。
「人を怖がらせるような声出すやつが、いいやつなんてあるわけなかんべ!」
「肩を持づなんて、さては仲間なんじゃねが!?」
 一人、また一人、武士団の目からここに残っていた者たちへ、憎悪の念が込められていく。
「仲間とか、そういう問題では……」
「そうだよぉ、まずは話を――」
「うるせぇ! 本当のこと言わねえと、お前らも退治すんぞ!」
 もはやこちらの訴えが届くことは無くなった。彼らは自分たちが妖魔であるという正解以外、信じられない状態になっていた。
 しかし、この状況を饗華だけは好機と取り、笑っていた。その周りに、得体の知れない気配を纏いながら。
「ああ、バレてしまっては仕方がない。そう、わしこそが人を弄び、誂う妖魔である……!」
 天維无袍と名付けられたその力は、【天狐の妖気】を纏う状態であり、たとえ妖気を普段から感じないような人間でさえも、今の饗華ははっきりと異形であると理解させられていた。
「う、うわあああああ!?」
「ちょ、饗華さん!?」
「駄目だよぉ、きょうちん!」
 怯える自警団をかばうように前に立ち、饗華の行動を止めようとする舞花と亜季。そこへ恭司も二人と一緒に止めに入る。
「二人の言うとおりだ! 彼らを傷つけることは、僕が許しません!」
 恭司はそう言うと小さな札を掲げる。すると、恭司の足元から小さな光が飛び出す。その光は、立ち込める妖気を追い払うように周囲を飛び回ると、恭司の体に飛び込んだ。【神懸り】によって自分に土地神を宿したのだ。
「巫女か。いや、男であれば男巫か。わしを退治する気か?」
「ええ、そのつもりです。二人共、ここは危険です。ことが終わるまで、彼らを安全なところへ!」
 恭司は後ろにいる亜季と舞花へ叫ぶ。二人はどんどん飛び出していく状況に理解が追いつかない。しかし一瞬だけ振り向いた恭司が見せた笑顔によって、舞花だけはこの状況を理解した。
「分かりました、無事を祈っています! さあ、亜季さん、みんなを避難させますよ」
「ええ!? いいのまーちゃん!?」
「大丈夫、上手くやってくれますよ。……皆さん、早く戻って! ここは危険です!」
 妖気と神気、陰と陽がぶつかり合うその場所から、舞花の声で立ち上がった武士団たちが慌てて逃げ帰っていく。
 いつ大きな衝突が起きてもおかしくない状況、入ればただではすまない二人の間に、人影が現れる。片膝を立て、頭を垂れる格好で湧き出るように現れたのは追忍だった。追忍はすばやく饗華の元へ近づくと、小声で伝令を伝える。
 そして場の空気がすっと落ち着き、饗華の笑い声で和やかになっていく。
「かっかっか、そうかそうか! どうやら上手くいったようじゃな。報告ご苦労」
「急に芝居を始めるからびっくりしましたよ」
 響華は笑顔のままで姿勢を低くし、戦うための構えを取る。
「さて、もう一芝居と行こうか。適当に何発か弾き返せば、それっぽくなるじゃろ?」
「土地神様は荒事が苦手なんですけどね……以津真天さんのためです、がんばりますよ」
 再び二人の纏う気が激しくなり、追忍が姿を隠したのを合図に二人はぶつかり合う。その衝撃は風や光となって、村へ戻った武士団と、彼らの対応をしている舞花と亜季の元まで届いていた。
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