三千界のアバター

怖がり司祭とブギーマン

リアクション公開中!

怖がり司祭とブギーマン
リアクション
1 | 2 | 3  Next Last

【第一章 恐れるもの】

 【クヨウ】が、月明かりの下を歩いている。長い黒髪と、強い意思を秘めた赤い瞳は少女にも、少年にも見える。
 プレイヤーの九曜 すばるは、自身のゲームキャラをモニター越しに眺めていた。

 今回のミッションの達成には、真実の鏡を使えるイングリットにかかっている。
 そう判断した特異者達は、彼女の護衛をする組と外でブギーマンを討伐する組に分かれ、すばるは後者を選んだのだった。
 
(奴らを寺院の中には入れさせない。敵が接近する前に叩こう)

 モニターの中の【クヨウ】は、夜の廃村の中を慎重に歩いていく。
 そして、それは突然現れた。

「!? 何だ……!?」

 モニターが白く光り――
 現れたのは血の海だった。
 そして、一面の赤の中に見える白いもの。

(あれは……手……?)

 すばるは、動揺を隠せない。
 【クヨウ】も数歩後ずさり、止まる。

(落ち着け、これはゲームだ。……ゲームなんだ!!)

「ゼアル」

 【クヨウ】は、武器を構え炎でブギーマンを焼き払う。
 血の海は消え、暗い廃村のダンジョンへと戻った。
 モニター前のすばる自身は、まだ手の震えが止まらない。
 そんな筈はないのに、微かに血と油の匂いが残っているような気がした。


* * * * *



 【ヨウ】(黒山 羊)と【シン】(飛鷹 シン)が、暗い村の中を走っている。
 姿は見えないが、木の陰や壊れた家の陰に何かがいるのは確かに感じていた。
 ――ブギーマンだ。

「最も恐れるもの、か……」

 そう独り言ちた【シン】の服の端を、【ヨウ】が引っ張った。

「ぼく、シンと一緒なら何もこわくないよ!」
「ああ、そうかよ……」
「あっ、もしかして照れてるの?」
「良いからお前は後ろに下がってろ!」
「はいはーい!」

 【シン】は斧を構え、物音のする方へ突進していった。
 その途端、目の前が真っ白に光り――

「!」

 現れたのは、自分自身の姿だった。
 RWOのアバターではない。リアルでの姿だ。
 自分の理想とは真逆の行動をとるその姿が、シンの胸をざわつかせる。

(これが……俺の恐れる姿か。分かっちゃいたが……)

「……ッ」

 シンは、自分の拳を痛いくらいに握りしめる。

「――これが、ぶん殴らずにいられるかぁッ!!」

 ゲームの中の【シン】が、斧を大きく振り上げる。
 【狂戦撃】による猛攻で、ブギーマンはたちまちその姿を霧散させた。

「……覚えとけ、ブギーマン。
 俺は……自分の恐れるものってのが大っ嫌いなんだ……!!」

(それにしても、かなり鮮明なイメージだったな……。羊は――)

 後方の相棒を顧みる。
 が、立ち尽くしている【ヨウ】の姿が目に入った。
 一足遅かったらしい。

「羊!!」

 【シン】は斧を携え、【ヨウ】の元へと走った。


■ ■ ■



 白い光の後に、羊の前に現れたのはとある人物だった。
 しかしその冷たい目つきは、羊の知っている「彼」とは似ても似つかない。
 
(どうして……? どうしてそんな目をするの……?)

「……ねぇ。もしかしてぼくのこと――」

 言いかけた言葉を、羊は呑み込んだ。

(……ううん、違う。あなたが、ぼくをどう思っていようと関係ない)

「……あなたが、例えぼくを嫌いでも良いよ。
 ぼくが、あなたと一緒にいたいから、一緒にいるの。
 これまでもそうだったし、これからもずっと!!」

 その時だった。
 目の前の「彼」の姿が消えて、RWOでの【シン】の姿が現れる。

「羊!! 大丈夫か!?」
「シン……!」

 自分を助けにやってきた、いつも通りのシンの姿。

「……やっぱりぼく、シンと一緒なら何もこわくないよ!」
「はぁ? 何言ってんだ……。まあ良いや。
 遅れて悪かったな。ブギーマンは俺が全部ぶっ倒すから、サポートを頼む!」
「うん!」

 二人は、村の奥へと進んでいった。


* * * * *



 九鬼 苺炎は、単独で廃村の中を探索していた。
 ゲームキャラクターである【め】は、建物の陰に身を隠しながら、慎重にターゲットの姿を探す。

(やれやれ。倒しても復活するなんて、厄介だよねー。
 早く、大元の方を断って欲しいもんだね! 
 とはいえ、しばらく殺されていてくれるなら、時間稼ぎくらいはできるのかな?)

 そして彼女は、木の陰に「何か」がいるのを察知する。
 
(どうやらお出ましみたいだね!)
 
 目の前が真っ白に光り、現れたものは――

「――!」

 目の前に現れたのは、とある記憶だった。
 特異者になる前の、苦い過去――……
 「あれ」のせいで、一体いくつの大切なものを失っただろうか。

「ふふ……ふふふ……」

 苺炎は、自分の口から笑い声が漏れているのに気付いた。
 ゲームキャラの【め】が、フレイムロッドを高く掲げる。

(……事故を装い倒してしまおうか? 証拠なんて残さないよ。
 完全に、人なら立ち上がれない程に、多くの魔法を叩き込んで潰してしまおうね……!!)

 放たれた炎は、忌まわしい記憶ごと、ブギーマンを焼き尽くすのだった。


* * * * *



 司聖 まりあ白雪 姫香は言葉少なに、村の中を歩いていた。
 まりあの【炎剣プロメテウス】は既に炎を纏っている。そのせいで、二人の周囲だけが明るい。

「……」

 まりあは、横目で自分の相棒を見やった。

(ブギーマン、か……。姫香は過去が過去だから、あまり連れてきたくなかったんだけど)

 その心を読んだかのように、姫香が笑顔を見せる。

「心配すんなって! まりあが戦うのにオレだけ何もしないわけにはいかないだろ!」

 しかし、その笑顔はどこか引きつっているのを、まりあは見逃さなかった。
 その時だった。何かの気配を察知して、まりあは姫香の前へと躍り出る。

「姫香は下がって!!」

 まりあの前に現れたのは、予想していた通りのものだった。
 戦火の中、うめき声が聞こえる。子供や赤ん坊、弱者の泣く声が聞こえる。
 そして、それらを顧みることなく剣を携え立っているのは――……

「あれが……正義の成れの果て」

 まりあは、己の剣を強く握った。

「こんな正義は認めない! 私は本物の正義の味方だから!
 人々の笑顔を守るってとっくに決めてるの。だから、斬り捨てるだけよ!!」

 【炎剣プロメテウス】の炎が、ブギーマンを焼き尽くす。
 まりあはすぐに姫香の姿を探した。
 地面に膝を突いた相棒を見つけて、まりあは叫んだ。

「姫香!!!!」

(すぐに助ける……!!)

 まりあは、彼女の元へと走った。

■ ■ ■


 姫香の目の前に広がる光景は、初めてみるものではなかった。
 未だに夢の中で遭遇する、過去の忌まわしき記憶――……

(暗い……恐い……)

 吐き気がこみあげてくる。

「やめて……助けて……!」

 姫香が地面に膝を突いたその時だった。

「姫香!!!!」

 闇を照らす光のように、聞こえてきたのは相棒の声。

「まりあ……?」

 その瞬間、目の前の暗闇が消えた。
 明るい炎と、暖かい何かに包まれた。
 一瞬遅れて、まりあに抱きしめられたのだと気付く。

「大丈夫!? 遅れてごめんね……!」
「まりあ……オレ……」

 まりあは、皆まで聞かずに剣を構えて立ち上がる。

「かかってきなさい、ブギーマン! 正義の味方、司聖まりあが相手よ!!」


* * * * *



 その騎乗兵器は、騒々しく物音を立てながら廃村の中を進んでいた。
 【アサルトチャリオット】に乗っているのは、【リンネ】(六道 凛音)と
 【ゼルト】(ネーベル・ゼルトナー)の2人だ。

「これだけうるさくしてりゃあ、ブギーマンとやらもこっちにやってくるに決まってるぜ!」

 意気揚々とチャリオットを操りながら、【ゼルト】が後方の【リンネ】を振り返る。

「うむ。釣り役、囮役はばっちりじゃな。ゼルト……妾が援護する、運転と攻撃は頼むぞぃ…」
「おう! 任せとけ!!」

 やがて、木の陰や何かが囁くような声が聞こえる

「おやおや? これはこれは……」
「早速、敵のお出ましみたいだぜ!」

 【ゼルト】は【ナイトハルバート】と【マグネシールド】を携え、【アサルトチャリオット】からひらりと飛び降りた。

「じゃあ、さくっとブギーマンどもを蹂躙してくるぜ!!」
「うむ。射撃ヒーラーの【リンネ】も、全力で援護するぞぃ……」

 【リンネ】もまた、ゆるゆると立ち上がり、【ロングボウ】を構えた。
 【ブレイブハート】のスキルを使いながら、【ポイズンアロー】を放っていく。
 【ゼルト】は、槍を器用に操り、舞い、ブギーマンの群れを屠っていた。
 が、その動きが突如停止した。

(おやおや……?)

 がっくりと膝を突く、【ゼルト】。
 その瞳には、いつものような光がない。
 どうやら、ブギーマンの術にはまったとみて間違いないようだ。

「まったく、世話が焼けるのぅ……」

 【リンネ】は、【ゼルト】に向かって【フルムーンチャーム】を投げた。
 人が狂うのを防ぐとされているこのアイテムの効果で、【ゼルト】の瞳に光が戻っていく。

「しっかりせい、【ゼルト】。そんなものに惑わされては――」

 その時だった。
 
「!」

 目の前に迫る、黒い影。
 
 ――油断した。

 そう思った時にはもう、視界が白い光に包まれていた。
 
「くっ……」

 【リンネ】の前に広がっていたのは、とある村の風景。
 絶対に、戻りたくないと思っているあの場所――……

「……」

 【リンネ】は毒を塗る前の矢を、己の手の甲に刺した。
 
 たちまち、風景は元の暗い廃村へと戻る。
 目の前の影どもにも、【ポイズンアロー】の雨を降らせてやった。
 影は霧散し、辺りに再び静寂が訪れる。

「やれやれ、妾も修行不足かのう……」

 【リンネ】は苦笑を漏らしながら、天を仰ぐのだった。


* * * * *



 ブラック・ライトニングレイン・クリスティは、寺院の近くでそれぞれのゲームキャラを操りブギーマンの姿を探していた。

「俺は裏にまわる。お前には表をお願いしたい」

 ブラックがそう言うと、レインは無言で頷いた。

(ふう……。なんとか別行動にできたな)

 自分の恐れるものが何かはよく分かっている。
 だからこそ、ブギーマンと対峙している自分の姿は絶対に誰にも見せたくなかった。

(とにかく、ブギーマンが映す俺の姿を誰かに見られたりする前に倒していくぜ)

 その時だった。物音とともに、黒い影が現れる。

(――来たか!)

 目の前が、白い光に包まれる。
 現れたのは、宙に浮かぶ大きな鏡だった。
 そこに映る、自らの姿――……

「……。はははっ!!」

 思わず、乾いた笑いが漏れた。
 ブラックは笑顔のまま、【ジャグダハル】を鏡の中の自分に突き立てた。

 鏡が割れ、悲鳴が上がる。
 ブギーマンは消え去った。

「……残念、俺を倒すつもりなら2番目に怖いものになるべきだったな。
 そいつを見たら恐怖より殺意が勝っちまうのさ」

 クナイを構える彼は、悪魔のような笑顔を浮かべていた。


* * * * *



 【ドクターエム】を操る紅紫 司は、ブギーマンの気配に気を配りつつもリトレア村の中を探索していた。
 しかし、彼の興味はブギーマン以外のものにあった。

(レプリカントに襲われて廃村になった場所か……。
 奴らの手掛かりが何か残っていればいいが、期待は出来んな)

 正直、ブギーマンの存在については半信半疑だった。
 とはいえ、用心するに越したことはない。
 【療養のお香】を焚き、正気を失わないよう注意をする。

(ん? あれは――)

 それは唐突に現れた。

(あの白い翼……あの白い翼、何故彼女がここに?
 ここに来ると言う話は聞いていないぞ)

 だとすると、答えは一つ。――偽物だ。
 一瞬の動揺の後に、スッと頭が冷えていくような気がした。
 【ズィルバーシュヴェルト】の切っ先を、「彼女」へと向ける。

「その姿を傷つけねばならない事。その姿を勝手に借りた事……。
 二重の意味で俺に喧嘩を売ったな?
 俺は今機嫌が悪い、遠慮なく破壊させてもらうぞ」

 【ドクターエム】は、銀の長剣を携えて、ブギーマンを切り裂いたのだった。


* * * * *



 こうして、特異者達はそれぞれの方法で己の恐れるものと対峙し、次々とブギーマンを屠っていくのだった。


1 | 2 | 3  Next Last