三千界のアバター

空白地帯の共闘

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空白地帯の共闘
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1.惹きつける者たち

 テルス、サフル大陸の某所。空白地帯を脅かすオークたちは定期的に村々を襲っていた。その数は非常に多く、サクスンの戦線から流れてきたにしても軍事的に脅威といえるほどであった。そうしてオークらの拠点から出陣してきた群れを、特異者たちは谷の上から待ち受けるようにして眺めている。
「本来なら、あれだけの数を俺たちだけで捌かなくてはならなかった……と考えると、連合諸君には感謝の言葉しか浮かばんね」
 MECのコックピット内でそういって顎を擦る男は、ベルナルド・セイジ指揮下の小隊長である。モニター越しであってもオークたちの圧迫感は非常に強い。MECという機体の大きさがあってなお、オークからはそれだけの脅威が発せられていた。
「では予定通り、“氷刃の言詞”のお手並み拝見と行こう」
「ええ、おまかせください」
 成神月 鈴奈はオークを最初に引きつける役を買って出ていた。自信に満ちた笑みを浮かべてグリフォンにまたがると、崖下へと降下していった。

「これはこれはイチモツの残念なオークの皆さん。こんな所で会うなんて奇遇ですね」
 彼女は離れた目立たぬ岩場の陰にグリフォンを隠すと、砂塵を上げて行軍するオークの群れに対峙する。その声は鋭く響き、オークたちの耳へと届けられた。
「私の名は“氷刃の言詞”成神月鈴奈。……この異名を聞いて更に縮み上がった残念な輩は、さっさと冥界にお帰りください」
 群れの怒号が一帯を震わせる中、思惑通りに運んだことに笑みを浮かべながらなおも続けていく。
「それでも私に鳴かされたい残念な役立たずさんは、どうぞ襲ってきてくださいね」
 そのままくるりと踵を返し、オークの罵声を背に浴びながらトライアルブーツで疾走する。こうもなれば時間との勝負。オークの態勢が整うよりも先に逃げの一手を指さねばならない。けれどあくまで慌てた様子を見せず、颯爽とした後ろ姿であった。
 グリフォンへと素早く飛び乗ると、殺到するオークたちを引き寄せるように飛行していく。オークたちから放たれる弓矢や石の類が彼女をかすめ、打ち据えていくが、致命打となりうるものはすべて受け流していった。
「まあ、粗末な一撃ですね。興奮してその程度ですか?」
 最後に追いすがるオークに一撃を見舞い一気に加速すると、すれ違うようにして桐ヶ谷 遥がペガサスを駆り飛び出していった。
「全ては村人たちのため……今だけは互いにわだかまりを捨てて力を合わせる時よ!」
「了解だ! 互いに力を合わせよう!」
 共和国のMEC小隊とともに、鈴奈の撤退を援護するよう切り込んでいく。遥の率いるMECたちも、事前に綿密な打ち合わせがあったのか、彼らの突入を支援するように砲撃を加えていった。戦場において彼女はあくまでも囮。彼女に引きつけられたオークの群れを、連合・共和国のMECたちに処理させていく寸法である。
「背中はお願いするわね」
 手に提げた太刀を振るいながら背後へ控えるMEC小隊へと視線を送る。
「ああ、ここからは俺たちの出番だからな」
 彼らもまた彼女のその言葉に答えるように、一撃、オークに砲弾を浴びせた。
 あえて遥は共和国側に背中を任せていた。これは共同戦線を張る彼らへの信頼の証であり、そして、彼女の指揮する小隊たちの自由を作り、共和国側の兵力を減らさぬよう援護しやすくしたためでもある。
 彼女の軽快な動きはオークであっても捉えることが難しく、しかしあえて目立つように振る舞うことで、鈴奈への怒りを見事に自身へと転化していた。
 しかし、当然大群相手に一人で引きつけ続けることは難しい。遥が包囲されようとしたその時に、
「さぁ、こっちですよ!」
 高宮 綾がユニコーンに跨り、一対のビームソードを手に切り込んでいった。オークの布陣を把握した彼女は、そのままあえて層の厚い場所へと切り込んでいく。仲間であるユニコーンリッターたちは投槍によって綾の向かう先を撹乱し、綾はこれを蹴散らすように突っ切っていく。こうして先陣を切った彼女たちの行ないは、間違いなく連合・共和国両軍の士気を高めていった。
 彼女の動きはシンプルかつ的確なもので、基本に忠実に敵を制していった。傷つくことも厭わずに勇敢に囮を務める様はオークにとって至上のターゲットとして写っていただろう。
 オークたちは彼女たちに引きつけられていることこそ理解していたが、それでもこれを止める意味を感じてはいなかった。本能のままに目の前に居る雌を蹂躙することに喜びを覚えていたからである。
 綾の後方から一際足の速いオークの一群が飛び出していく。大地を揺らし、本能のままに得物を振るい彼女を追う。一刀一足、飛び込めるまでの距離に追いすがったオークたちの前に、炎の壁が立ち上った。綾を守る紅の大太刀が、燃える刀身で以て大地を切り裂いたのである。そしてその直後、炎にどよめき足を止めたオークたちの背が爆発し、次々と倒れ伏していった。
 マニュピレータに炎晶石を保持したリトルメックが、女に意識を集中させたオークたちの背に石を投げつけ爆発させていたのである。
「高宮さんも、どっちの軍の兵も死なせない。お前らみたいなのには、やらせない!」
 リトルメック、スチールドワーフを操る剣持 真琴が叫んだ。彼は小器用にオークたちの群れの隙間を縫うように走りながら、前線で囮を引き受ける者や共闘するMECたちへの奇襲を防いでいた。
「高宮さん、怪我は!」
「……すみません、少し受けてしまいました!」
 敵を食い止める役を紅の大太刀に任せて、綾は地上に降り立った。立ち上る炎の裏で、真琴がテキパキと処置を施していく。
「無事でよかった。ポーションもあるから、危なくなったら使って」
 手渡されたポーションを軽く口に含み、汗を拭う。緊張がほぐれたところで張り詰めていた表情が和らいでいく。
「ありがとう、真琴君。……この戦い、必ず成功させましょうね」
「もちろん。どちらにも犠牲は出したくない。だから、援護は俺に任せてね」
 傷を癒やした白馬とリトルメックは再び戦場へ向かっていく。戦いは当初の予想を越えて順調に思えた、が。パーソナルスカイシップによって高高度を飛行していたアルヤァーガ・アベリアは戦場の推移に違和感を懐いていた。
「……オークの攻勢が思った以上に少ない。敵が分散している?」
 オークたちは遥や綾を追いかけているだけではない、明らかに違う流れが生まれていた。空から戦場を俯瞰する彼にだけはそれが読み取れた。空を旋回して流れの先を探すと、大地から光が立ち上っているのが見えた。人だ。人がいる。今回の戦いとは無関係な民間人。
「……まずいことになった! 全隊に通達! 左翼後方で民間人が襲われています! 突入を支援しますので、余裕のあるかたは援護を!」
 戦場を俯瞰しているからこそ分かり得たことだ。アルヤァーガは民間人の居る地点と、救援に向かおうとしている戦力を結ぶ経路を算定しながら焙烙玉へと火を点ける。ここから先は時間との勝負になる。救援部隊を迅速に侵攻させるためには、空から戦場を俯瞰しオークの注意を引くことのできる自身の立ち回りが重要であることを彼は理解していた。
「ここからが正念場、というわけか……さあ、やってみせようじゃないか」

「これは……参ったなぁ」
 サクスンに向かう道中、一団に遭遇してしまったテレサ・ファルシエは慌てながら馬を走らせていた。全方位を索敵しオークを迂回するように走ってきた彼女だが、それでもオークの感知範囲を離れることはできなかったようだ。結果として、鈴奈の挑発を感じ取っていなかった後方の一団がこぞって彼女を目指していた。
「あんまりワタシはおいしくないと思うんだけど」
 そう言ったところでオークが止まることはありえないことは十二分に承知していた。大きく深呼吸をした後に、表情を引き締めて改めて戦況を確認する。
 オークは三手に分かれて行動している。うち二手は対処できているが、無防備な民間人という存在によって想定外の流れが出来てしまっているというわけだ。オークを振り払うための攻撃で、どうやら戦っている軍隊もこちらに気づいてくれたようだ。ならば……。
 動きを反転させ、オークの流れを誘導するように馬を走らせていく。追いすがるオークの動きを神罰の槌矛で止め、キュベレー・レイで薙ぎ払う。三つ目の流れを軍隊が受け止めやすいように、そのイメージを実現させながら彼女は移動した。
 そして。
 前方から連なる爆発が巻き起こり、その爆炎の中から程なくして騎兵たちが現れた。
「ユニコーンLはあの人の護衛をお願い! ……両軍が手を取り合ってる中で、民間人に被害なんて出せないよね!」
 一点突破を得意とする布陣を敷きながら、グリフォンを駆る綾坂 春奈がオークの波を叩き割ってきたのである。彼女はテレサの元にたどり着くや否や、いち早く号令を飛ばし、それに応じるようにしてユニコーンリッターがテレサの護衛についた。
「残った人たちはオフェンスシフトに移行! 波を押し返そう!」
 守るべき相手の無事を確認した春奈は、にっと笑みを浮かべてペガサスリッターらと突撃していく。今、彼女の胸には熱い炎が灯っていた。彼女にとって待ち望んでいたシチュエーション、非公式なれど互いに手を取り合うこの戦場は、彼女が何の気負いもなく力を尽くせる場所だった。
 幸い戦線が三つに分かたれたことでオークたちの攻撃の密度は減っている。これによって春奈にとっても受け流しきれないほどの量ではなくなっていた。想定外ではあったが、他の手勢が追いつけば一気に盛り返すことも可能だろう。
 そんな中、この戦線を盛り返すために各所を奔走していたのが篠宮 千咲であった。大地母神の加護を仲間全体に与えるべく走り回り、その中で戦線が崩れそうになったところを見抜いてはまた走る。
 今もまた、背後から襲いかからんとするオークを手に持ったメイスで殴りつけ、それによって生まれた隙で対応させた。
「ほら、シャキっとしなさい!」
 乱戦とは何が起こるか分からない。どうしても無傷というわけにはいかないのだ。千咲はそうして傷ついた共和国のMEC小隊を癒やし、支援する。彼らは最前線で常に周囲を援護し続け、今もまた民間人を救援しようとする動きを助けるため、中核近くで白兵戦を仕掛けていたところだった。その行ないは春奈の今の在り方に近い、であるならば千咲にとってもまた味方であった。
「助かった! 後は任せてくれ!」
 共和国には色々と思うところはある。しかし、礼を述べながら再び戦場へと戻る小隊を見て、仕方がないと言わんばかりに彼女は苦笑を漏らす。
「どっちもフェアにいかないとよね」
 こういったことも悪くはない。そんな心持を胸に、千咲は次に支援するべき場所に考えを巡らせた。

 そして、伸び切った戦線の中で暗躍する男が居た。ライオネル・バンダービルト。彼は群れの中に突っ込むことはなく、的確に戦域からはみ出ようとするオークを処理していた。
「上の目の無いところで羽目を外すのもなかなか悪くねえな」
 グリフォンを駆るライオネルと、その相棒であるペガサスリッター。彼らはお互いの立ち位置を交互にスイッチしながら攻防を繰り広げていた。
「お行儀良く並ばねえ悪いやつぁ、みんなこの毒虫が解体してやるよ」
 鋭い眼光で、しかしこの戦場を楽しみながらグリフォンを駆る。決して無茶はしない。一方が注意を引き、一方がトドメを刺す。単純かつ基本的なその動きを保つことで戦線を維持していた。オークたちに想定外の動きを相手にさせないことが重要だということを彼は理解しているためであり、それが男である自分の役目であると考えたからである。
「さァ、まだまだ俺に付き合ってもらうぜ。毒虫はなぁ、しつこいんだ」
 必要とあれば防御に徹し時間を稼ぐ。より多くの戦力を本隊から引き出すためにも、確実に、こちら側の戦力を減らさずに相手の戦力を削ることだけを重視するのであった。
 同様に、戦線を維持することの重要性を理解していた男がもうひとり。ムスタングを駆る飛鷹 シンである。
 今回の作戦においてMECを駆るものは少ない。であるからこそ陽動として己が派手に振る舞うことに意味があると、ブリーフィングの時点で既に判断していた。例え自分が撃ち漏らしても、近くを飛び回るライオネルたちなどが確実に仕留めていってくれる。自分はMECの巨体を利用して、とにかく敵の戦列を崩し、押し返されないことに専念したほうがいい。そういった考えである。
「さあて、ここでもひと暴れさせてもらおうか」
 大地を滑るようにホバーでスライドし、密集した敵群の目をフラッシュバズーカで潰す。無反動のそれはホバーの勢いを殺すことなく、シンはあっという間にオーク相手に接近戦を持ち込んでいく。立て続け、至近距離からの砲撃でオークを吹き飛ばし、即座にホバーから地上用のダッシュローラーへと切り替える。MECの重量の乗った斬撃で怯んだオークたちの身体を切り飛ばしていった。
「これで終わりか? そうじゃないだろう、仲間も呼んで盛大に来い!」
 あえてオークたちを挑発するように声を張り上げると、恐怖せずに突っ込んでくるオークたちを前に剣を握り直した。

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