三千界のアバター

ピヨーキング・デッド

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ピヨーキング・デッド
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【一 絶望と希望のピヨ】

 ゴダムの一地方アトレアルト
 そこはゴダムでありながら、他の地方とは明らかに何かが違う光景が広がる、異色の地であった。
 ゲートを潜り抜けた特異者達は、その場で思わず息を呑んで佇む。
 郊外に広がる荒れ地のそこかしこに、人間の頭ほどの大きさの何かが無数に蠢いていた。
 黄色をベースとした羽毛に包まれ、妙に伸びたトサカとうつろな目が印象的な謎の生物――ピヨーカーの群れであった。
 アトレアルトだけに住まうスポーンであり、邪神の眷属であるという点に於いては他のゴダム地方に生息するスポーンとは基本部分では同じであるが、ピヨーカーは嘴で突いた相手をも同じピヨーカーに変えてしまうという特殊な能力を持っているのだという。
 既にこのアトレアルトの住民の半数以上が、ピヨーカー化しているとの未確認情報も飛び込んできていた。
 果たして特異者達は、ピヨーカーに覆い尽くされた地獄絵図の中で何を見ることになるのだろうか。


     * * *


 廃工場内の薄暗く狭い廊下の一角で、ぐしゃりと何かが潰れる鈍い音が鳴り響いた。
 次いで、力任せに毛か羽根を無理矢理抜き取るような、めりめりみしみしと軋むような音が続く。
 ピンクを基調とした可愛らしいワンピースに身を包んだ二足歩行のカピバラ姿のセリアン女性が、手にしたモーニングスターを軽くぶんぶんと振り回しながら、ピヨーカーを一体足蹴にしつつ、その頭部から引き抜いたトサカの毛をぽいっと放り投げていた。
 カピバラ女性の名は、樫原さん
 いわずと知れた、三千界屈指の猛者ならぬ猛女である。
 樫原さんにトサカの毛を引き抜かれたピヨーカーは、ぴくりとも動かない。樫原さんはモーニングスターによる強烈な一撃でまず動きを封じてから、おもむろにトサカの毛を引っこ抜くという豪快な戦術を、ピヨーカーの群れ相手に軽々とやってのけていた。
 実際、その通路の奥の方にはまだまだ無数のピヨーカーが、
「ピ~ヨ~」
「ピ~ヨ~」
「ピ~ヨ~」
 などと妙な唸り声を上げながら、ゆっくりと樫原さんの方へと歩を進めているのだが、樫原さんは一切臆することなく、迫り来るピヨーカーの群れをつぶらな瞳でじっと凝視していた。
「いやはや、実にお見事なお手前で」
 樫原さんの傍らで、ジュラルミンケースを担いだ紫月 幸人がにやにやと揉み手しながら、腰を低くして樫原さんの豪腕を称賛していた。
 今回幸人は、ローズコーク商人として樫原さんに付き従うことにしていた。
 戦闘や脱出劇は樫原さんを筆頭とする他の特異者達に任せ、自分自身はこのアトレアルトでローズコークで一発当てる腹積もりらしい。
 邑垣 舞花は幸人のそんな様子を、ホライゾンカービンに込めたトリモチ弾を射出しながら幾分呆れた表情で眺めていた。
「こんな非常事態になっても商魂炸裂ですか? もう少し時期というものがありましょうに」
 少女のような容姿ながら萌え立つような気品を漂わせる舞花からすれば、幸人の商売人然とした態度はどうにも相容れない気分でしか見ることが出来ない。
 今回も幸人は樫原さんを未来のお客様などと呼んで勝手についてきていたのだが、廃工場内のどの辺りにピヨーカーが集まっているのかを探る為に威力偵察を実施している樫原さんと舞花にしてみれば、余計な護衛対象が増えてしまったというだけで、何のメリットにもなっていなかった。
 それでも、幸人は樫原さんにべったりだ。これから末永くお付き合いする大事なお客様候補の勇姿を、その目に焼き付けておく必要がある、ということらしい。
「ささ、樫原さん。お疲れの際には是非当社のローズコークを」
 幸人がそっと差し出した缶を、樫原さんは礼もいわずに半ばひったくるような勢いで奪い取る。
 ごくりごくりと一気飲みし、盛大なゲップを撒き散らしていた。
「いや~、お見事な飲みっぷり、素晴らしいゲップでございますねぇ」
「そこは褒めるところじゃないんじゃ……」
 呆れる舞花の言葉など、幸人の耳にはまるで届いていない様子だった。


     * * *


 この廃工場には、二十数名の非力な一般人が閉じ込められていた。
 ある程度の生活物資を掻き集めていた彼らはこの廃工場を一時的な生活拠点としていたのだが、ピヨーカーの大群に廃工場もろとも包囲されてしまい、後はもう死かピヨーカー化かを待つしかなかった。
 そんな彼らを窮地から救い出す為に、樫原さん以下決して少なくない人数の特異者が投入されていた。
 廃工場二階の奥まった位置にある旧事務エリアで、一般人達は特異者達による庇護を受けつつ、脱出方法について話し合っていた。
 尚、この廃工場では子供も少なからず生活していた。
 リズ・ロビィは今、そんな子供達から不安と恐怖を取り除いてやろうと必死に頑張っていた。
 子供達は全員、羽毛が剥き出しの黄色い着ぐるみのようなアニマルローブを着せられている。
 更に樫原さんがピヨーカーの群れから強奪してきたトサカを頭部に張り付けており、傍から見れば幼児サイズのピヨーカーと見えなくもなかった。
 勿論、子供達にピヨーカースタイルを施してやっているのは、リズだった。リズは持てる技術の全てを投入して子供達をピヨーカー迷彩で守ろうとしているのだが、その顔はもう、ずっとにやけっぱなしだった。
(あぁ……か、可愛いさー、天国さー、もふもふさー……)
 幾分目がイっちゃってるリズだが、一応芸術家を目指しているという理性が辛うじて彼女の意識を現世に押しとどめているといって良い。
 それでも欲望には逆らえないのか、リズはばっちりピヨーカースタイルが完成した子供達に、物凄くうきうきした様子でおねだりしてみた。
「ちょっと……ちょっとお姉ちゃんを見つめながら、ピヨッ♪ ていって貰えないさー……?」
 すると子供達は無邪気であどけない笑顔を見せながら、一斉に、
「ピヨッ♪」
 などとリズの期待に応じてくれた。
 リズは両腕で自らを抱きしめるような格好で恍惚とした表情を浮かべ、その場で悶死するかの如きエクスタシーに達していた。


     * * *


 リズは流石に例外中の例外で、他の特異者達は真面目に一般人達の脱出計画を練っていた。
「やっぱ車が要るなぁ。それもセダンとかワゴンなんかじゃなく、輸送用のトラックか何かが良いなぁ」
 木製の会議卓上に広げた見取り図を覗き込みながら、柊 恭也は腕を組んで低く唸った。
 これだけの人数を一度に脱出させようと思えば、普通の乗用車では容量不足だ。
 恭也がいうように、荷台に全員と生活物資を乗せることが出来る大型の輸送トラックが理想だろう。
「車なら、私共で二台用意していますが」
 傍らから朔日 睦月が控えめな調子で言葉を挟んできた。今回睦月は、朔日 弥生と一緒にゲートをくぐる際に、それぞれ一台ずつミカワヤカスタムを持ち込んできていたのだが、しかしそれでは駄目だと恭也はかぶりを振った。
「それじゃあ、意味がねぇ。確かにこの場は切り抜けられるだろうが、俺達はワールドホライゾンに帰還しちまうんだぜ?」
「成程……そうなれば私達が持ち込んだ車も一緒に消えてしまいますから、あの方々の恒久的な脱出手段、移動手段にはなり得ない、ということですね」
 弥生が恭也のいわんとしていることを素早く察し、同意して頷き返した。
 自分達だけが無事に生き残る為に、このアトレアルトに突入してきた訳ではないということを、睦月と弥生は改めて再認識しなければならなかった。
「そういうことなら、私達の車はあくまでもこの廃工場を脱出する為の一時利用ということで、足止めなり緊急脱出用という用途で考えた方が良さそうですね」
「そうだな。この裏手の駐車場にトラック辺りが置いてあるかも知れねぇから、そこに行くまでの強行突破用にお前さんらの車を使うってのなら、大賛成だ」
 尤も、仮にその駐車場でトラックを発見し、廃工場の建屋に隣接させることが出来たとしても、だ。
 既にピヨーカーの大群は廃工場内に侵入してきている為、そこに至るまでの護衛戦はきっと骨の折れる作業になるだろうということは、容易に想像出来た。
 と、その時。
 一階の階段降り口付近にピヨーカーの群れが一部、乱入してきたとの報告が飛び込んできた。
 流石にそのまま放置しておく訳にはいかないということで、数名の特異者が排除に向かう運びとなった。
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