日野武光は、提出された報告書を前に目を閉じると、指先をこめかみに当てた。
その様子を報告書及び添付の調書を作成した橘朝直は、なにやら不思議そうにじっと見つめている。
「時に朝直、これを書いていて、何の疑問もなかったのか?」
大きく息を吐くと、武光はそう朝直に問うた。
「調書というものは、聞き取ったものをそのまま要点をまとめて書き記すよう、日野殿に教わったとおりに致しましたが?」
教えられたとおりにしたのに、この言われ様は全く以て合点がいかないといったふうに、朝直は憮然とした様子であった。
「ならば、どのようにして聞き取りを行い、これを書いたのか申してみよ」
バサリと武光は調書を朝直の前に置いた。朝直はそれを取り上げると、パラパラとめくり、一枚ずつ武光に指し示しながら説明を始めた。