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秋の収穫祭で思い出作り!

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秋の収穫祭で思い出作り!
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 焔子の剣舞により、華々しく宴の夜が幕を明けた。
続いて次の演目が披露されようとするとき、舞台には夜風に舞う美しい【桜吹雪】が、ひらひらと踊っていた。
「これはまた、風流ですなあ」
「ええ、本当に。名月と桜を一緒に眺められるなんてね」
この【桜吹雪】は、演目と演目の間を繋ぎ、スムーズに演者が舞台に立てるようにと気を配ったジェノ・サリスの演出の一環だ。だが、村人は黒子として舞台を支えるジェノの存在には気づいていない。
ジェノは裏方として演目を盛り上げながら、さり気なく舞台の状態に目を配った。たとえば、村人が桜吹雪に注目している隙に猿楽で使用した楽器を下げたり、舞台に問題が起こっていないか確認しているのだ。安全面をチェックするのは、裏方の大切な役目だ。
「ありがとうございます。ジェノさんのおかげで、舞台の設置もスムーズでした。桜の演出も、村人に好評です!」
舞台の後ろでジェノに頭を下げているのは、同じく裏方に回って祭りを盛り上げている代表者の若者・紫呉だ。
「この祭りを、母にも見せてやりたかったんですが」
「今日は来られなかったのか?」
「ええ、腰が痛むらしくて。病気というほどじゃないんですけど」
ジェノが母親のことを訊ねると、紫呉は寂しそうに微笑んでいた。ジェノは暫く考え込んだ後、黒子の頭巾を外して言う。
「少しの間ここを離れるが、後を任せてもいいか?」
「はい、次の演奏の準備はできたので、休んで来て下さい」
 紫呉はジェノに休憩を勧めたが、ジェノはそれに首を振り、静かな足取りで舞台を離れていった。その背中は夜の闇に溶け、広場の外へと消えていったのだった。


 
 ――村の有志による管弦演奏に続き、舞台に立ったのはジェイク・ギデスだった。
「この村の豊作を祝し、”俺達”の舞を披露させてもらう。皆の衆、とくとご覧あれ」
翁の面を被っているので、聴衆からジェイクの表情は分からない。【太極の小忌衣】の裾を揺らし、ゆるやかに舞を踊る老人はどこか飄々としており、つかみどころのない雰囲気だ。
ジェイクは、太鼓演奏のリズムに合わせ、自身の【天狗の下駄】を高らかに鳴らすアピールも欠かせない。
小粋で愉快な演出に、観客からは感嘆の声が上がった。
ひとつひとつの振る舞い・動作に至るまで、すっかり老人になりきっているジェイク。舞台の外からは、完全に高齢男性に見えていた。だが、これも彼の狙いの一つだ。
(ここからが、俺達のステージの真骨頂さ)
 舞が中盤に差し掛かると、静かだった曲調に緩急が生まれる。ジェイクは曲の盛り上がりに合わせ、宙に【九字切】を素早く切りながら、更に下駄を激しく、甲高く鳴らした。
ジェイクの舞の力強さは加速し、踏み鳴らされる下駄の音も”カンカン”と小気味良いリズムを刻んでゆく。ダンサーが舞台でタップダンスを踊っているかのように軽やかだ。
「ほう……! あの下駄で、あそこまで動けるとは。器用なものですなぁ!」
「いやはや、伝承の天狗のようだ」
人々から口々に賛辞が上がると、ジェイクはラストスパートに向けて翁の面を外し、舞台の袖へと放った。
(さぁ、今宵はひとさし、共に舞おうぜ)
心の中で愛する人に呼びかけながら、下駄を一度大きく鳴らしたジェイク。次の瞬間、【モーメントイリュージョン】により、彼の”妻”の姿が舞台上に現れたのである。
観客達はハッと目を見開いて、突如現れた幻を凝視していた。
「いつの間にか、巫女装束の娘が舞台にいるぞ」
「あら、本当……」
 幻影の効果は、一瞬の間だけ。
だが、例え僅かな時間であっても、ジェイクにとっては愛妻と競演する大切なひとときだ。
ジェイクは巫女姿の妻の幻を自分にシンクロさせて、同時にバック転を披露した。
高く飛び上がったその瞬間、幻は空中へと消えていったが、ジェイクはそこで【ほーろく玉】を放り上げ【起爆符】で爆発させることで、観客の注意を反らしたのだった。
衝撃を受け、ほーろく玉を覆っていた土鍋が破れる。観客達が小爆発に驚いていると、ほーろく玉の中に詰められていた沢山のスターキャンディが、舞台の外へと飛び散っていった。
「わーい! 舞台からキラキラがたくさん降ってきたよー」
「これは……飴、かしら?」
大和の伝統舞踊と、大和ではあまり見ることのない、派手やかなパフォーマンスの融合――。ジェイクの演目は視角を彩るだけでなく、多くの観客の心を躍らせたのだ。
子供達は我先にと星の贈り物を拾い集め、村人達の明るい笑顔と喝采はしばらく鳴り止まなかった。
「最後に、【式占術】で占った村の吉凶を伝えさせてもらうぜ。――安心しな。来年もこの村は豊作に恵まれると、星に出ている」
占い結果を告げたジェイクは、唇を吊り上げて穏やかに微笑んだ。
「おお、それは……ありがたいことです」
「これで心おきなく、冬を越せそうだよ」
 こうして、見事演目を成功に収めたジェイクは、多くの拍手に見送られながら、静かに舞台を下りていったのである。
占いの結果が、必ず当たるとは限らない。
だが、この良き日に、人々を不安にさせる言葉は不要。嘘も方便だ。ジェイクは、村人たちが未来に前向きに歩いていけるように願い、占いの詳細を伝えることはしなかった。
なにより、村の人たちに笑顔を届けるために、彼はこの舞台に立っている。
そして、それをジェイクの家族も望んでいてくれるのだから。

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