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秋の収穫祭で思い出作り!

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秋の収穫祭で思い出作り!
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第一章 黄金の実りと笑顔に感謝を

 ――大和・坂西。
本日は、山間部に位置する長閑な村落で、秋の豊作を祝う”収穫祭”が催される日だ。
春は豊作を祈る宴が執り行われ、実りの秋が訪れれば、大地からの恵みに感謝を捧げて、巫女が舞を奉納する。それは長きに渡ってこの村で続いている風習なのだ。
日が落ちる酉の刻には村人たちが広場に集まり、調理した作物や団子などの甘味と酒を嗜みながら、舞台の余興を観賞するのである。
だが、今はまだ巳の刻を迎えたばかり。
太陽は東の空に浮かび、温かな陽光で村の隅々を照らしている。今日は絶好の収穫日和だ。夕時からの宴を控え、田畑ではサツマイモを掘り出す頃合になった。
坂西を訪れた特異者達は村長の屋敷へと通され、このサツマイモ収穫と調理を手伝うことになったのである。

 華奢な両手で太い茎を引っ張っているのは、エレミヤ・エーケロートだ。腰を低く屈め、額に汗を浮かべながら、綱引きの要領でサツマイモのツルを引いている。
「うーん……あと少し……。よいしょっと! ……うわわっ!」
 だが、もうちょっとで引き抜けるという時に手が離れ、勢いづいたエレミヤは後方にポスンと尻餅をついてしまった。
「エレ、大丈夫か?」
エレミヤの隣で村人と芋掘りをしていた十朱 トオノが、彼女を気遣って声をかける。
「えへへ……。張り切りすぎちゃった」
お尻の土をはたきながら、エレミヤは照れくさそうにはにかんだ。白い頬に、僅かに砂がついている。それだけ一生懸命になっていた証拠だ。トオノは微笑ましくエレミヤの様子を眺めつつ、自分は左手でイモの根元を掘り起こしていった。
「兄ちゃん、手、いたくない?」
すると、村の子供がトオノの手元を見つめ、小さな声で問いかけた。トオノには、右腕がない。ごく自然に芋掘りに溶け込んでいたので村人はそこに触れはしなかったが、子供は率直な物言いをするものだ。――トオノは心配そうな少年を安心させるように、柔らかい声音で答えた。
「まぁ、こんな見てくれだけどよ……。土を掘り返すくらいは出来るさ」
「そっかぁ。でも、オレも手伝う」
「……ああ、ありがとよ」
「へへっ」
普段のトオノは、他者の手を借りることを好まない。大抵の事は自分でこなせるし、不自由はない為だ。だが、子供の善意を断るような冷たい心は持ち合わせていないのである。
少年は頬にえくぼを作って笑い、嬉しそうにトオノの傍にしゃがみこんだのだった。
 
「お兄ちゃん邪魔! 火夜ちゃん達はすご~く真剣なんだから、あっち行ってよ~」
「そうそう! 気が散るからあっち行っててー」
「わかったよ。さつまいも堀りは、火夜ちゃんと小ノ葉ちゃんに任せるぜ」
 和やかなムードで収穫が続く中、迅雷 火夜夢風 小ノ葉は、迅雷 敦也を押し退けて元気に畑へ飛び出していった。
「ねぇ、おねえちゃんたち。張り切ってるけど、どうやって掘るの?」
賑やかな火夜と小ノ葉の姿を見て、子供たちが周囲に集まり始める。小ノ葉はしばらく考え込んだが、自信満々に「そーだ! 狼化しよう!」と宣言した。
「狼」という単語に村人は目を丸くし、火夜はにっこり嬉しそうに笑う。
「それじゃ、いくよー!」
 かけ声と共に、小柄な小ノ葉の体がむくむくと膨れ上がり、その全貌を変えていった。元々あった尻尾はさらに太く大きくなり、体長は成人男性と同じくらいまで成長する。
全身を覆うフカフカの毛並み、強靭な顎や口、鋭く尖った三角の耳。それはまさに、野生の狼そのものだ。
「うわあっ?」
村人がどよめき出すと、火夜はニパっと笑いながら、小ノ葉の背中に飛び乗ってみせる。
「みんな、大丈夫だよ? 小ノ葉ちゃんは、怖くないよ~♪ ほら、こうやって背中に乗れば、楽ちん楽ちん♪」
「……って、なんで火夜ちゃんは、ボクの背中に乗るのー……うう」
火夜に抱きつかれて頬をすりすりされながら、小ノ葉は「もう、しかたないなー」と呟いた。四足歩行で素早く歩き、地面に鼻先を近づけて、匂いを探る。目ぼしいイモを見つけたら、前足を器用に使って土を掘り起こすのだった。
「あのお姉ちゃんたち、すごいよ!」
最初は怯えていた子供達も、仲良く楽しそうにイモを掘る火夜と小ノ葉を見ているうちに、恐怖が薄れてきたようだ。
「ボクも背中に乗ってみたいな」
「わたしも……」
「いいよー。じゃあ順番にならんでねー! ちゃんとサツマイモも掘るんだよー」
「やった~!」
一緒にサツマイモを掘っている内に、小ノ葉に乗りたい、と子供達がはしゃぎはじめた。「乗り物じゃないんだけどなー」とちょっぴり苦笑いしつつも、小ノ葉は優しく子供のお願いに応えてあげるのだった。
 一方、敦也は畑から少し離れた位置で火夜達を見守りながら、【学士のフルート】を吹いている。澄んだ音色は風に乗って村のあちこちへ届き、多くの人々の心を和ませていた。
芋掘りの息抜きにリクエストされれば穏やかな曲を、元気な子供に急かされれば、アップテンポなリズムで盛り上げる。
メリハリのある敦也の演奏は、みなのサツマイモ掘りに良い影響を与えたのだった。

こうして、特異者達の気遣いと手伝いによって、サツマイモ掘りは順調に進んだのである。



 村長の屋敷の庭先には、特異者達と村人で彫り上げたサツマイモが山のように積まれていた。
収穫したサツマイモの約三分の一は、落ち葉や焚き木を集めて焼き芋にする。そのまま食べる分と、調理の材料にする分だ。
「よし、運ぶのはみんなでやろうぜ!」
敦也と小ノ葉は村人とたちとイモを運び、火夜、トオノ、エレミヤは落ち葉集めに協力した。
「はーい♪ 火を着けるよ、火夜ちゃんに任せて~」
着火は、【炎の召喚】で火夜が行う。一瞬にして巻き上がった赤い炎を見て、村人からは拍手が起こった。
小ノ葉は子供達に囲まれて火加減の調節をしたり、「一緒においも食べようねー」と約束を交わしたりと、とにかく大人気だった。



 一方、村長の家の勝手口には、水洗いしたサツマイモが運び込まれた。
「料理の前に、キレイにしておかなきゃな!」
まず、敦也が【レディー・スイーツ!】で身なりを清潔に整え、テーブルやその他食器などの洗浄につとめた。
御勝手には村の女性たちが集まっており成神月 鈴奈西村 瑠莉が、調理を先導する事になっている。こし器でこすときはボウル代わりの器やザルも必要になるが、事前に村人や村長に相談していたので、スムーズに下ごしらえができそうだ。
「皆さん、まずは焼き芋の皮を剥きます。裏ごしには、こちらのこし器を使って下さい」
「はい。わかりました。鈴奈さん、鍋の火加減はどれくらいですか?」
「まだ中火でいいでしょう。沸騰したら弱火にしてください。布巾はこちらを使ってくださいね。分からないことがあれば、すぐ呼んでください」
鈴奈は、自身のカフェで店主を努めるほどの料理の腕前だ。冷静かつ簡潔に、村人に下ごしらえの手順を説明していた。てきぱきした分かりやすい指示を受け、一同は安心して作業を進めていく。
「わあっ。おねーちゃん、キレイ!」
「ものがたりの中の、おひめさまみたい」
 瑠莉は、【戦闘給仕服】のスカートの裾を優雅に揺らしながら、【神楽舞】の動きを取り入れつつ【虚霊の翻刃】で食材を刻んでいった。料理中にもメイドらしい嗜みを欠かさない彼女は、見学に来た村の子供たちに、羨望の眼差しを向けられている。
「一緒にやりたい!」
すると、調理場まで入ってきたひとりの少女が、瑠莉のエプロンの紐を後ろからつかんだ。調理の様子を見ている内に、興味を持ったようだ。
「ええよ。ほな、この寒天とサツマイモを混ぜてな。優しく、円を描くように回すんやで?」
「うんっ!」
普段は誰に対しても淑やかに接する瑠莉だが、小さな子の前では気持ちがほぐれるのか、柔らかい表情を浮べていた。
(今日はみんなで料理するんやから、協力せな)
【ユニゾンヘルプ】で子供や困っている人に丁寧に作業を教えてから、瑠莉は自分の調理へ戻る。
【虚霊の翻刃】は投擲武器だが、瑠莉にかかれば舞を彩る神楽鈴に変わった。くるくる空中で軌跡を描いた後、刃は瑠莉の手元へピタリと収まってゆく。流れる水のようにしなやかな刃捌きで、サツマイモが刻まれていくのだった。

「えっと、次はどうだったかな」
【スイーツメイク】で菓子の知識はあるものの、敦也はスキルに頼った調理に少し不安があるようだ。作るものはスイートポテト。すると、薩摩芋のポタージュの味付けを終えた鈴奈が、「お手伝いしましょう」と申し出た。
「みんなも、スイートポテト作るんだねぇ。それなら、一緒に作ろうかな」
エレミヤもまた、トオノにナイショでお菓子を作るところだ。
「まずは器に卵を割り入れてください。蜂蜜と卵黄を混ぜる作業をお願いします。混ぜ終わったら、この竹串に巻き付けていきましょう」
「ああ、了解だぜ!」
「それじゃあ、ボウルをとってくるねぇ」
鈴奈の指示に合わせ、三人はそれぞれスイートポテト作りを始めた。的確に指示を出しつつ、玲奈は次のメニューである栗茶巾作りに精を出す。
エレミヤは、トオノの喜ぶ顔を思い浮かべて【メイク・スペシャリテ】を唱えながら、ボウルの中のサツマイモと牛乳を混ぜていった。「いつもありがとう」の感謝を込めながら。
 三人が菓子を作っている間、瑠莉の手元を見た人達からは、口々に「綺麗」と感嘆の声が上がった。瑠莉がサツマイモソテーを浅い鍋で調理する際、フランベによって蒼紫色の炎が燃え上がったのだ。ぱちぱち燃える火柱と共に、”キュラソー・リキュール”の甘酸っぱい香りが立ち込める。
(せっかくなら、皆さんの見たことないような調理法と味にしたいしな)
 味だけでなく、見た目の美しさや演出にもこだわった、瑠莉ならではの”魅せる”料理である。



 すべての調理が終わると、時刻は午の刻を回っていた。出来上がった料理は盛り付けられ、居間へと運ばれる。サツマイモ掘りに尽力した村人たちが集まり、いよいよ実食だ。
「お茶の配膳は、お願いできますか?」
「はい、お任せを」
鈴奈が全員分の湯飲みにお茶を注ぎ、瑠莉はメイドとして素早く取り分けの皿を配膳していった。
火夜と小ノ葉は、「お兄ちゃんが作ったお菓子だー」と大はしゃぎしながら大学イモや羊羹、プリンなどの甘味を取り合っている。敦也はそれを、「まだいっぱいあるんだからさ!」と苦笑交じりにたしなめていた。
また、この村では余り食べられない料理である鈴奈作のポタージュスープや、瑠莉のサツマイモソテーは大好評だ。お代わりの声が後を絶たない。
空になった皿に追加をよそいながら、鈴奈と瑠莉は満足気に微笑むのだった。



「兄さん」
「エレ?」
 皆が食事を楽しんでいる中、エレミヤはそっと抜け出して、縁側へと向かった。庭先では、【愛用のシガレット・ケース】から紙巻煙草を取り出して一服しているトオノの姿がある。エレミヤが声をかけると、トオノは携帯灰皿に吸殻を落とし、縁側に腰を下ろした。
「これ、スイートポテト。私が作ったんだよぉ」
「……そうか。しかし、何でまた急に……」
「えへへ……。少し過ぎちゃったけど、誕生日のプレゼントだよぉ。……いつもありがとう、兄さん」
エレミヤがはにかみながらスイートポテトを載せた皿を差し出すと、トオノも目元を緩めて笑み、贈り物を受け取った。
(いつもありがとう、か……。それはこっちこそ、だぜ。ちっと照れ臭いが、こういうのもいいもんか……)
「どうかなぁ?」
「ああ、美味いな……」
スイートポテトを一口齧ったトオノの口から、飾り気の無い素直な感想がこぼれた。しっとりした口当たりだが、しつこくない品の良い甘みが口内に広がる。いつの間に、また腕を上げたのだろう……トオノはエレミヤの成長を噛み締めるように、一口ひとくち大切に味わった。
もちろん、エレミヤの料理の技術が上がった事もあるだろう。だが、彼女のスイートポテトのとっておきの調味料は、兄への感謝と祝福の気持ちなのだ。
 そしてそれは、他の特異者達が力を合わせて作った料理も同じこと。
賑やかな喧騒と温かなサツマイモ料理の香りは、暫くの間途絶えることなく、村中を満たし続けていたのだった。

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