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残された者の意地

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残された者の意地
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第五章 残された者の意地

 アドルフォ率いる特異者たちは、三機すべてのハゲワシを墜とすことに成功していた。
 アドルフォがハゲワシ小隊に問いかける。
 「ルメッホ村を訪れたのは誰だ?」
 ハゲワシのひとりが強がった笑みを浮かべる。
 「おれだ」
 「グランディレクタ軍にはなんと報告したんだ?」
 「ルメッホ村はラディアの拠点地だから、すぐに侵攻しろと伝えたよ。今ごろは村ごとなくなってるかもしれねえな。ヒャッハッハッハ!」
 「貴様……」
 アドルフォが拳を握りしめる。彼の顔は青褪め、強い憎しみに彩られていた。
 アドルフォがビームソードに手をかけたとき、上空から大きな声が響いた。
 「そこまでだに!」
 コミュニ・セラフヨウ・ツイナサジー・パルザンソンアッシュムーン・セラフファイアヘッズ・トランスポーターを伴って姿を現した。
 「戦いの様子は見させてもらったに。悪いが、この結果はアサルトリベルタ小隊々長コミュニ・セラフが預からせてもらうに!」
 「援軍だと……まとめて返り討ちにしてやるっ!」
 突如として躍りかかったアドルフォの攻撃を、コミュニは難なく躱した。
 「やめるに! 我われは敵ではないに!」
 「嘘を吐くな! これ以上、貴様らの好きにさせてたまるか!」
 コミュニは仲間たちを見やった。彼らも特異者の攻撃を受け、防御にまわっていた。
 「やむを得ない……制圧するに!」

 サジ―は『パワードムステル』を自在に乗りこなし、特異者たちの猛攻をいなした。
 「ちっ、下手に出てりゃあ調子に乗りやがって……ちいっと痛い目にあってもらうぜ!」
 サジーは『ムスペル小隊の特大剣』で身を守りながら、ダッシュローラーで素早く間合いを詰めた。そして巨体を生かした強烈な一撃に、特異者たちが吹き飛ぶ。
 「まだまだ終わらんぞぉ!」
 サジーは天高く跳躍すると、ワンスマニューバを起動させた。
 上空を旋回すると、空中からふたたび『ジャイアントクラッシュ』をお見舞いする。
 そこに、コミュニの怒号が飛ぶ。
 サジー、やりすぎるなよに!」
 サジーは頭を掻いた。
 「ちぇっ。ほんとは『炎波のルーン』で思いっきり暴れまわりたいんだけどなあ……まったく、手加減ってのはストレス溜まるぜ」

 ファイアヘッズは『キャノンシールド』によるエネルギー防壁を展開し、自身の被害を最小限に抑えようと努めていた。さらに、機体備えつけられたバックラーシールドで特異者たちの攻撃を受け流す。
 彼女は無用な戦いを望んでいなかった。
 特異者たちから遺恨を買うことのないように、足元など狙って攻撃を仕掛けた。
 彼女の目的は相手を戦闘不能に至らしめることではなく、戦意を喪失させることだ。
 「私たちに交戦の意思はありません。今すぐ攻撃をやめてください!」
 彼女の訴えも、特異者たちには届かない。
 「仕方がないですね……コミュニ様がラディア側の指揮官を説得するまでやりすごしましょう」
 不毛な戦いを続けているうちに、特異者たちもファイアヘッズに敵意がないことに気づいたようだった。
 ひとり、またひとりと戦線から離脱していく。
 「良かった……わかってくださったのですね」
 ファイアヘッズの内心にわずかな油断が生じたとき、ひとりの特異者が彼女の懐に潜りこんだ。 「……くっ!」
 彼女は思わず至近距離で銃撃を叩きこんだ。
 銃弾は特異者の機体の駆動部を貫いた。

 アッシュムーンは特異者たちの攻撃からハゲワシ小隊を護っていた。彼らにもはや戦力は残されていない。
 ハゲワシ小隊への怒りに駆られた特異者たちの猛攻は、彼らに致命傷を与える恐れがあった。
 グランディレクタ軍の名を汚すならず者たちであっても、同胞であることには変わりなかった。
 彼女はハゲワシ小隊から少しばかり離れた物陰に身を潜め、『スコーチャー』の『望遠鏡付きカメラ』で彼らの様子を伺っていた。
 特異者がハゲワシ小隊に襲い掛かろうとする度、アッシュムーンは『隙間攻撃』で相手の行動を阻害した。
 特異者たちはどこからともなく襲い掛かる銃弾に畏怖の念を抱いた。
 機体の数ミリ横を掠める大口径の銃弾は、命中すればメタルキャヴァルリィの装甲さえ穿つ威力を秘めていることは一目瞭然だった。
 加えて、特異者たちもまたこの争いに不毛なものを感じていた。
 ハゲワシ小隊はもはや戦意を喪失している。
 彼らと違い、弱者を嬲るような卑劣な心根など特異者の誰ひとり持ちあわせていなかった。

 ヨウはコミュニと行動を共にしていた。
 コミュニの目的はあくまでハゲワシ小隊だった。コミュニの目下の任務はアドルフォ率いる特異者の説得だ。
 コミュニに戦闘の意思はなかったが、アドルフォは違った。
 ハゲワシ小隊――そしてグランディレクタ軍への復讐心に燃えるアドルフォは、もはや聞く耳など持っていない。
 ヨウはアドルフォたちからコミュニの身を護るため、身を挺して彼らの注意を引きつける。
 彼女はダッシュローラーと『高機動ムスタング専用武装』で機動力を高めた軽快な挙動で、特異者たちを翻弄した。数人の特異者たちはヨウを追ったが、アドルフォは頑としてコミュニに狙いを定めている。
 アドルフォがビームソードを振り上げる。
 ヨウはアドルフォ目がけて備え付けの実体剣を投擲した。ヨウの『援護攻撃』に気づいたアドルフォが、ビームソードで剣を弾く。
 その隙に、ヨウは凄まじいスピードでアドルフォに接近すると、鋭い刺突攻撃を繰り出した。
 「待つに!」
 コミュニが叫んだ。
 剣先がアドルフォを捉える寸前で止まる。
 「我われに敵意はないに。どうか話を聞いてほしいに」
 ヨウが剣を収めると、アドルフォはビームソードを下ろした。
 しかし、その顔に浮かぶ激しい憎悪は消えていない。
 「……やつらはルメッホ村の人々の命を踏みにじった。許すことは出来ない」
 「勘違いしないでほしいに。ルメッホ村の人々は無事だに」
 「それは本当か!?」
 「グランディレクタ軍の名に懸けて、このコミュニ・セラフが保証するに。どうか信じてほしいに」
 毒気を抜かれたアドルフォが周囲を見渡すと、特異者たちは誰ひとり戦っていなかった。疲労と安堵の入り混じった表情で、じっとふたりのやり取りを見守っている、
 コミュニが続ける。
 「だからと言って、彼らの卑劣な行為が許されるはずがないに。彼らは我われが責任をもって再教育するに。そういうことで、今回は目をつぶってほしいに」
 アドルフォが首を横に振る。
 「悪いがそういうわけにはいかない。彼らはラディア王国軍が身柄を預からせてもらおう。その後の処遇に関しては、僕から上層部に事情を話して出来る限りの便宜を図るつもりだ。それで納得してもらえるか?」
 「……本件に関しては我がグランディレクタ軍に非があるに。今日のところは引き下がらせてもらうに」
 コミュニは不承不承うなずくと、部下たちと共に引き下がった。
 アドルフォは彼女らを見送ると、特異者たちに向きなおった。
 「みなさんのお陰でルメッホ村は救われました。ひとまず帰還しましょう」

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