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残された者の意地

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残された者の意地
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第四章 鋼鉄の小隊

 成神月 鈴奈は数名の特異者たちと共に、住人たちが避難した後のルメッホ村の警備にあたっていた。ハゲワシ小隊をはじめとしたグランディレクタ軍の略奪から、村の財産を守ることが目的だった。
 特異者たちは村を囲うようにして各々警備を行っている。
 鈴奈は地平線を眺めた。グランディレクタ軍のメタルキャヴァルリィの姿がぼんやりと浮かんでいる。彼らは凄まじい速度でルメッホ村に近づいていた。
 「来ましたね……敵兵の数はおよそ十機ほどでしょうか。ハゲワシ小隊ではなさそうですが、ルメッホ村の脅威には違いありません。フライトスピーカー、他の特異者たちに報せてください!」
 「わかりました!」
 フライトスピーカーはDD:フライトスピーカーを召喚すると、村全体に声が響くように展開した。
 「みなさん、南西の方角からグレンディレクタ軍が接近しています。敵機の数は十前後です。戦闘に備えてください!」
 鈴奈はローラースケートモードに切り替えた『トライアルブーツ』で、メタルキャヴァルリィ小隊の方向に突っ込んだ。己の接近を悟られないよう『煙幕』を張り巡らせる。
 鈴奈は敵小隊まで五百メートルほどの距離まで接近すると、彼らと一定の距離を保ちながら、フライトスピーカーに敵を錯乱する情報を流させた。
 「裏切りは順調ですか?」
 「ええ、もちろん連合軍への投降後は身の安全を保障します。こんな小隊じゃ命がいくらあっても足りないでしょう?」
 「タイミングはそちらにお任せします。ご武運を」
 メタルキャヴァリィ小隊がざわつき始めたとき、鈴奈を煙幕を解いて姿を現した。
 彼女が突然目の前に現れたことで、彼らは内通者の存在を強く確信したようだった。

 西村 由梨はフライトスピーカーの報せを聞いて、鈴奈の許へと駆けつけた。
 彼女は冷静に『戦況分析』と『位置把握』で、その場の状況を見極めた。
 「連携らしき連携はほとんど行っていないわね……互いを信用していないのかしら。それなら――」
 由梨は空中に向かって機雷を射出した。機雷は空中に留まっている。敵軍のメタルキャヴァルリィが接近すると、機雷は大きな爆炎を伴う爆発を起こした。発生した煙が煙幕のように戦場の視界を遮る。
 由梨は煙幕に包まれた戦場に自らの僚機である『蒼穹』と『マジックグライダー』を突入させた。
 マジックグライダーは戦場を目まぐるしく駆け回り、敵軍に混乱を招いた。
 一方で、蒼穹はひっそりと戦場に紛れ込んでいた。小型のエアロシップは煙幕に潜伏し、敵兵は蒼穹の存在を目視することさえ出来ない。
 戦場の混乱がピークに達したとき、蒼穹が敵兵目がけて魚雷を放った。
 魚雷が敵のメタルキャヴァルリィに直撃する。
 魚雷の直撃を受けたメタルキャヴァルリィは大破し、裏切者への不信感が蔓延するメタルキャヴァルリィ小隊は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
 「醜いわね……仮にも一国の軍隊とは思えない有様だわ」

 次に戦場に到着したのは、ユキノ・北河ジャンヌ・アルタルフだった。
 混沌に呑み込まれた戦場を目にして、ユキノが呆れたように呟く。
 「……まずはステージの土台をしっかりと組み上げる必要がありそうですね」
 そう言うと、ユキノは背後に『軍楽隊』を配置した。
 次いで『藍銅のオカリナ』で形成した水球を戦場に撃ちこみ、ジャンヌの花道を作り上げる。
 ジャンヌはグリフォンリッターとファントムRVerを先行させると、洗練された立ち居振る舞いで戦場に足を踏みいれた。その様子はまるで掃き溜めに舞い降りた鶴のようだった。
 そこで、ジャンヌは『かがやきのうた』を歌った。軍楽隊が彼女の歌声に合わせて音楽を奏でる。
 ユキノは水球から『ディフェンスウェーブ』を繰り出した。ジャンヌを攻撃しようとしたメタルキャヴァルリィを返り討ちにする。彼女はさらに『腐蝕の凶刃』を練り込んだ破滅の花弁を作り上げた。やわらかな雪のように官能的な花びらが、ジャンヌの周囲を舞う。
 その花弁に触れた敵軍の機体は腐蝕し、メタルキャヴァルリィの性能を大きく損なうこととなった。
 それでも敵兵は、ジャンヌに対して容赦ない攻撃を仕掛けた。ジャンヌはマシンガンやビームソードによる攻撃を『ブレードウィップ』でいなした。その身のこなしはある種の舞踊のように優雅で華やかだった。
 ジャンヌの透き通った歌声は、軍楽隊の演奏に乗って、戦場の混沌に遍く染み渡った。
 ユキノはジャンヌのステージを演出しながらも、鋭い視線でメタルキャヴァリィ小隊の様子を観察していた。ユキノは敵兵の弱点を察知すると、砲撃でジャンヌに合図を送った。
 ジャンヌはユキノの合図を受け取ると、敵軍の隙を突き、ブレードウィップでメタルキャヴァルリィの駆動部を斬った。
 グランディレクタ軍のメタルキャヴァルリィは次々と機動力を失っていった。
 ある者は機体を損傷し、ある者はジャンヌの歌声に心を奪われ、戦場の混沌は少しずつ収まっていった。
 そこで、ジャンヌがメタルキャヴァルリィ小隊に呼びかける。
 「抵抗をやめて投降してください。従わないというのなら、命の保証はありませんよ」
 数名が彼女の言葉に従い、武装を解除した。
 彼らがジャンヌの許に投降しようとしたとき、マシンガンの掃射が彼らを襲った。
 彼らは雨のような銃弾を浴びて、力なく頽れた。
 「裏切者には死を!」
 敵軍がふたたびジャンヌに襲い掛かる。
 「なんて卑劣な……」
 ジャンヌは『静かなる輪舞』でメタルキャヴァルリィ小隊を翻弄し続けた。
 彼女は強い無力感に打ちひしがれていた。

 ロイド・ベンサム川獺 信三郎と共に、メタルキャヴァルリィ小隊が仲間割れする様子を眺めていた。
 「やれやれ、仰ぐ旗は違えど同じ軍人なのが恥ずかしく思えてくる……」
 ロイドの口調はあくまで穏やかだったが、内心で憤怒の炎を滾せていることに信三郎は気づいていた。
 戦場に突入しようとするロイドを、信三郎が制する。
 「待つでヤンス。九時の方向から、敵小隊の反応でヤンス」
 「別動隊ですか……他の方たちは気づいていないようですね。川獺、別動隊への最短ルートをナビゲートしてください」
 「了解でヤンス!」
 ロイドは信三郎のナビゲートに従って、『スカバ・フロー』で別動隊の許へと駆けつけた。
 「あれですね……」
 そこには十機ほどのメタルキャヴァルリィの姿がある。
 信三郎は『エース知識』で敵小隊の戦力を探った。
 「どうやら、最後尾の機体を操っている兵士がリーダーのようでヤンス。それ以外は恐るるに足らずでヤンス」
 「承知しました」
 ロイドはエアロシップの高度を下げると、メタルキャヴァルリィ軍の進行方向に機雷を射出した。
 エアロシップは敵軍からの攻撃を受けたが、分厚い装甲は小口径の銃弾程度ではびくともしない。
 エアロシップへの攻撃を諦めた敵兵が、機雷に向けてマシンガンを掃射した。
 機雷は銃弾を浴びて爆発し、爆炎と煙が周囲を包み込む。
 メタルキャヴァルリィの進軍が止まったことを確認すると、ロイドはエアロシップの高度を上げた。
 そのとき、信三郎が新たな気配の出現を感知した。
 四時の方向から、複数の特異者が近づいているでヤンス!」
 ロイドの顔に緊張が走る。
 「敵軍か!?」
 「……どうやら彼女たちは味方のようでヤンス」
 「それは良かった。私たちふたりで一個小隊を相手にするのは流石に分が悪いですからね。彼女たちにも敵軍の情報を報せてあげてください」
 「了解でヤンス!」
 信三郎はロイドの指示に従った。加えて、戦場までの最短距離をナビゲートする。
 加勢に現れたのは、佐倉 杏樹生得のコマンダー水瀬 茜各務原 麻衣水上 響の五人だった。
 「十対七……勝利が見えてきたでヤンスね」
 「油断は禁物です。腐っても、正規の訓練を受けた軍隊ですからね」
 ロイドは杏樹たちを援護するため敵小隊に向けて、エアロシップに搭載した『小口径連装高角魔力砲』を掃射した。
 煙幕の中でメタルキャヴァルリィたちが混乱をきたす。
 ロイドはさらに『マジックトービドー』を放った。
 魚雷は静かに戦場へと吸い込まれていく。
 そして、爆音が響いた。

 杏樹たちはエアロシップ『L・コロナリア』に搭乗していた。
 響が戦場へと赴く杏樹と茜に声をかける。
 「先行隊の情報によると、敵小隊のリーダーは常に戦場の最南部に陣取って仲間たちに指示を出しているそうです。まずはリーダーを叩いて指揮系統を絶ちましょう。そうすれば、彼らはもはや烏合の衆です。杏樹さん、茜さん、くれぐれも気をつけてください」
 「ありがとう。でも心配には及ばないわ」
 「そうそう。あんなやつら、ちゃちゃっとやっつけてきちゃうよ!」
 麻衣は作戦を指示する。
 「杏樹さんはL・コロナリアの左方に、茜さんは前方に展開してちょうだい」
 「わかったわ!」
 「オッケー!」
 杏樹と茜はエアロシップを出て、戦地へと降り立った。
 杏樹は麻衣の指示どおり、エアロシップの左方を陣取った。そして僚機であるペガサスリッターに右方の警戒にあたらせる。
 L・コロナリアは少しずつメタルキャヴァルリィ小隊へと接近している。
 杏樹は『ラディア・SMG』のスコープを覗いた。神経を研ぎ澄まし、敵機が射程圏内に入る瞬間を待つ。
 杏樹が狙っているのは、メタルキャヴァルリィのセンサー部だった。彼女はグランディレクタ軍のメタルキャヴァルリィのセンサーの位置を知らなかった。じっとスコープを覗き、敵機の装備を観察する。
 センサーは、メタルキャヴァルリィの頭部に搭載していた。それは射撃の目標としてあまりに小さかった。
 しかし、杏樹はじっとその瞬間を待った。
 敵機がラディア・SMGの射程圏内に侵入した。
 杏樹が銃爪を引く。
 銃弾がセンサーを掠める。
 杏樹はスコープから目を離して深呼吸をすると、ふたたび照準を絞った。
 杏樹の存在に気づいた敵兵が、彼女に向けて攻撃を放つ。
 杏樹は周囲を銃弾が飛び交っているにも拘らず、凄まじい集中力で狙いを定めている。
 ふたたび銃爪を引いた。
 銃弾がセンサー部に命中する。センサーを失ったメタルキャヴァルリィは無力化されたも同然だった。
 杏樹はふたたびスコープを覗きこんだ。

 茜は『フェネック小隊』を従えて、戦場に乗り込んだ。
 フェネック小隊が敵機を引きつけている間に、茜はダッシュローラーと『PMC:アサルト』のシールドスラスターを併用して、前線の最南部へと向かった。
 メタルキャヴァルリィ小隊の指揮官が狙いだった。
 茜は指揮官の目の前まで辿り着くと、フェネック小隊を呼び寄せた。そして小隊陣形『シュツルムアタック』を展開する。
 茜はフェネック小隊長機と共に、疾風の如き連続攻撃を仕掛けた。指揮官はふたりの攻撃を易々と受け流す。
 「ふんっ、リーダーの腕は伊達じゃないみたいだね」
 そう言うと、茜はフェネック二号機に目くばせを送った。
 シュツルムアタックの合間に、二号機の援護射撃が火を噴く。
 ぴったりと息の合った連携攻撃で、指揮官をじりじりと追い詰めていく。

 響は『固定銃座』に腰を下ろし、茜がフェネック小隊と共に敵軍の指揮官を追い詰めていく様を見守っていた。
 茜がとどめをさそうとしたそのとき、彼女の両脇から敵兵が斬りかかった。
 「茜さん、危ない!」
 響が敵兵に銃弾を撃ちこむ。
 銃弾が敵兵の機体にめり込む音で、茜が背後の敵兵の存在に気づいた。
 茜の斬撃が敵兵の機体を撃破する。
 響はもう一機の敵兵に的を絞った。生得のコマンダーが『ターゲットロック』で固定銃座の命中精度を補正する。
 響は銃爪を引き続けた。
 コマンダーの助けを受けて、響は銃弾のすべてを敵機に命中させた。
 蜂の巣になったメタルキャヴァルリィの駆動が停止する。
 同時に、茜とフェネック小隊が敵軍のリーダーを撃破した。
 指揮官を失ったメタルキャヴァルリィ小隊は、もはや彼女たちの敵ではなかった。
 杏樹がセンサーを破壊した機体を、茜とフェネック小隊がことごとく撃破していく。
 十分後、戦場に立っているのは彼女たちだけだった。
 麻衣が言う。
 「わざわざ右方を囮にするまでもなかったようね。骨のない相手だわ」
 そこに、信三郎から交信が入った。
 「見事な戦いぶりだったでヤンス! お疲れのところ申し訳ないでヤンスが、じつはもう一隊の別動隊がいるので、オラたちのあとについて一緒に来てほしいでヤンス!」

 一行はルメッホ村の方角へと向かった。
 鈴奈、由梨、ユキノ、ジャンヌが力を合わせてメタルキャヴァルリィ小隊に立ち向かっている。
 敵小隊は二機を残すのみとなっていた。
 響が尋ねる。
 「どうしますか、麻衣さん?」
 「すこし不完全燃焼だけれど、彼女たちの勝負に水を差すのも野暮ね。このまま見守っていましょう。勿論、ピンチのときには援護するのよ」
 「わかりました」
 響はいざというときに備えて、固定銃座に腰を下ろした。
 彼らの心配は杞憂に終わった。
 彼女たちは四方から輪を絞るようにメタルキャヴァルリィ小隊を追い詰めると、逃げ場を失くした敵兵に容赦なく攻撃を加えた。
 麻衣が呟く。
 「へえ……即席とは思えない素晴らしい連携じゃないの」
 響が続く。
 「これで脅威は去りましたね。あとはアドルフォさんたちがハゲワシ小隊を倒してくれれば……」

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