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残された者の意地

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残された者の意地
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第三章 因縁の対決

 アドルフォはハゲワシ小隊を追って渓谷を駆けた。保存状態の悪いメタルキャヴァリィの歩みは遅く、彼は苛立ちを募らせていたが、アドルフォに選択の余地はなかった。
 彼は罪のない村人たちを醜い争いに巻き込んだ自分を恥じた。
 アドルフォがハゲワシ小隊の許に辿り着いたとき、先回りした特異者たちがハゲワシを窮地に追い込んでいた。
 プラズマウェイヴを受けて墜落するかと思われたハゲワシたちだが、持ち前の悪運の強さで最悪の事態は免れていた。
 アドルフォが叫ぶ。
 「おい、ハゲワシども! 僕が相手だ!」

 山岡 健治は数人の特異者と共に、アドルフォのあとを追っていた。
 彼らはアドルフォとほとんど同時に戦地に到着した。
 健治がハゲワシ小隊に戦線布告するアドルフォを諭すように言う。
 「失礼かもしれませんが、あなたひとりで彼らの相手をするのは自殺行為です。僕たちが力になりましょう」
 「きみたちだね……僕のあとをつけていたのは」
 健治はアドルフォの言葉を無視して、先行組に向かって叫んだ。
 「あとは僕たちが引き受けます! あなたたちは下がっていてください!」
 健治の言葉が終わるや否や、状況を不利とみたハゲワシ小隊が健治たちに襲い掛かった。
 ハゲワシの標的は黒杉 優だった。
 優は『スクラマサクスガード』に搭乗していた。彼女は換装パーツである『ロードマスター』の盾でハゲワシの攻撃を防ぐと同時に、ガトリング砲を掃射した。
 その一連の迷いのない動作は、まるでハゲワシたちの奇襲を予見していたかのようだった。
 「やはり女性を標的にしましたか……噂に違わぬ卑劣ぶりですね」
 ハゲワシは間一髪のところでガトリング砲の直撃を免れた。しかし優の追撃は止まない。
 彼女は急旋回したハゲワシの機体にぴたりと寄り添うようにロードマスターを前進させると、容赦なくガトリング砲をお見舞いした。
 残る二羽のハゲワシが、仲間の窮地を救うため優との戦いに加勢しようと試みる。
 松永 焔子がそれを制した。
 「彼らの相手は任せてください!」
 「お願いします」
 優は焔子の言葉に甘えた。
 彼女はふたたびハゲワシに向きなおるが、敵は一瞬の隙に態勢を立て直すことに成功していた。 ハゲワシは優の近距離攻撃を警戒し、大きく距離を取った。
 優が不敵な笑みを浮かべる。
 彼女は『ロンデル試作機』に別行動を命じていた。
 断崖から彼らを見下ろす僚機の存在に、ハゲワシは気づいていなかった。
 ロンデル試作機はハゲワシ目がけて断崖から飛び降りると、滑空しながらビームガンを放った。
 僚機に気づいたハゲワシが反撃に転じる。
 ロンデル試作機はビームソーンの刀身を浴びながらも、絶えることなく援護射撃を続けた。
 僚機に応戦するハゲワシの背後に、優が忍び寄る。
 優は渾身の力を込めた一撃を放った。
 ハゲワシは『キャヴァルリィストライク』の直撃を受けると、たまらず地上に墜落していった。

 焔子は『ムスタングRA』にまたがり、天高く跳びあがった。そして敵機に向けて渾身の一撃を放つ。
 彼女の攻撃はむなしく空を切った。
 渾身の一撃を躱されたにも拘らず、焔子の顔にはかすかな笑みが浮かんでいた。
 彼女の攻撃は囮だった。
 焔子は『トワイライトレギオン』を物陰に待機させていた。彼女の指示を受けた僚機たちが姿を現し、ハゲワシに集中攻撃を浴びせる。
 攻撃は命中した。
 ハゲワシのメタルキャヴァルリィが大きく傾く。しかし致命傷には至らず、ハゲワシはふたたび焔子に攻撃を仕掛けた。
 焔子の許にはトワイライトレギオンが集まっていた。彼女は僚機と重なり合うような陣形を取り、ハゲワシの攻撃を躱した。
 その動きは、まるで彼女が分身しているかのような錯覚を引き起こした。
 トワイライトレギオンは錯覚に気取られているハゲワシに奇襲を仕掛けたが、ハゲワシは野性的な勘で彼らの反撃を受け流した。
 僚機による攻撃もまた囮だった。
 焔子はふたたび天高く跳躍すると『トラペゾヘドロンフック』を振るった。
 暗黒水晶でできた鎖付きの鉤がハゲワシの機体に絡みつく。
 「かかりましたわね」
 ハゲワシを地上に叩きつけようと、焔子は渾身の力を込めてトラペゾヘドロンフックを引いた。しかしハゲワシと彼女の力は拮抗し、なかなか地上に墜落させることができない。
 そこに健治が加勢する。
 「焔子さん、目を閉じて!」
 そう叫びながら、彼は『エイムショット』でハゲワシを狙い撃った。『フラッシュバズーカ』がハゲワシの機体に着弾し、目の眩むほどの閃光が拡散する。
 ハゲワシの力が緩むその一瞬を、焔子は見逃さなかった。
 彼女が渾身の力でトラペゾヘドロンフックを引くと、ハゲワシの機体は無様に墜ちた。
 「やりましたわ!」
 焔子が歓喜の声を上げる。

 空を舞うハゲワシは残すところ一機となった。
 アドルフォがハゲワシと向き合う。
 「あのときの借りを返させてもらおう」
 アドルフォがハゲワシに躍りかかる。
 ハゲワシはアドルフォの攻撃を躱すと、北の方角へと向かって一目散に逃げだした。
 「単独では勝ち目がないとみて逃げ出したか? まったく根性の曲がったやつだな」
 泰雅の言葉に、アドルフォが首を振る。
 「違う……あちらは村の方角だ。やつは村人たちを襲うつもりなんだ!」
 「なんですって!?」
 健治は『スクラマサクスアサルト』の背中に搭載されたスラスターと『ダッシュローラー』をフル稼働させて、ハゲワシのあとを追った。追いながら、ガトリング砲とビームランチャーを乱射する。
 逃走しながらも器用に攻撃を躱していたハゲワシだが、一騎打ちなら負けることはないと考えたのか、逃走をやめて健治に向き合った。
 健治は全速回避と『瞬刻の見切り』を駆使して、ハゲワシの猛攻から身を護った。
 そこに水瀬 悠気フィン・フィリッシュが駆けつけた。ふたりはそれぞれ『ヘクサドラッヘSA』と『フリージア』というメタルキャヴァルリィにまたがっている。
 悠気は『トライアルガン』を両手で構え、ハゲワシに照準を合わせた。
 ハゲワシがすかさず悠気を狙い撃つ。
 悠気を狙ったハゲワシの攻撃を、フィンが盾で弾く。悠気がハゲワシを撃つ。
 ふたりは息のぴったりと合ったコンビネーションで、健治からハゲワシの注意を逸らした。
 健治はハゲワシの背後に回った。ハゲワシを奇襲するためではなく、ルメッホ村に近づけないためだ。
 悠気はトライアルガンからレーザー光線を放った。レーザーがハゲワシの機体を掠める。
 彼はデザートサイフォスに『シュツルムアタック』の陣形を取らせた。僚機と交互に連続攻撃を繰り出す。疾風の如き連携技も、ハゲワシの機動力には敵わなかった。
 ハゲワシは易々と悠気の攻撃を躱しながら、悠気とデザートサイフォス、そしてフィンを牽制するかのように反撃を繰り返す。
 フィンは盾で彼女自身と悠気を巧みに防御していた。
 フィンが悠気に目くばせを送る。
 彼女の意図を汲み取った悠気は、レーザー光線とビームキャノンの連射の合間に、プラズマウェイヴを紛れ込ませた。
 プラズマウェイヴの恐ろしさを知っているハゲワシが、反撃を止めて雷の波を避けることに専念する。
 その一瞬の隙を突いて、フィンは天高く跳躍した。
 そしてメタルキャヴァルリィの追加ブースターである『ワンスマニューバ』に点火すると、ハゲワシに空中戦を仕掛けた。
 「空はあなた達だけのものじゃないんです!」
 フィンはビームソードから『獣虫の戦魂』を放った。おぞましい獣の姿をした衝撃波がハゲワシに襲い掛かる。
 ぎりぎりのところで衝撃波の直撃を免れたハゲワシの機体が不意に傾く。
 悠気が渾身の力で放ったプラズマウェイヴがハゲワシの機体を直撃していた。
 フィンはふたたび獣虫の戦魂を放った。
 コントロールを失ったハゲワシの機体を衝撃波が包む込む。
 彼女は追撃を止めて、悠気の許へ戻った。
 「悠気くん、大丈夫だった?」
 「ああ、フィンが守ってくれたお陰だよ」
 「悠気くんこそ、見事なプラズマウェイヴだったよ。さすがは私の相棒だね!」
 悠気が得意げに微笑む。
 「当然だよ。フィンの考えていることはすべてお見通しだからね」
 鳳仙 奏がわざとらしく咳払いをする。
 「水を差すようで悪いのですが、戦いはまだ終わっていませんわよ」
 ふたりが振り向く。そこには奏と羽村 空、そしてアドルフォの姿があった。
 制御を取り戻したハゲワシが、奏に向かって襲い掛かる。
 奏はハゲワシの攻撃を躱しながら、ハゲワシが隙を見せる瞬間を待った。
 しかし、百戦錬磨のハゲワシはなかなか隙を見せようとしない。
 空は奏を助けるでもなく、ふたりの戦いをじっと見つめている。
 彼女はここに駆けつけるまでの間に『チャージ』で力を溜めていた。渾身の一撃を確実に命中させるためには、ハゲワシの癖を見極める必要があった。
 奏は防戦一方だった。何度かハゲワシの攻撃を喰らっていたが、『受け流し』でそのダメージを最小限に抑えていた。
 五分あまりが経過したとき、奏はハゲワシの攻撃を受けて後ろに吹き飛んだ。好機とみたハゲワシがここぞとばかりに追撃を試みる。
 空は、ハゲワシが奏に追撃しようとした瞬間、わずかに隙が生まれたことを見抜いた。
 次の瞬間、楓は天高く跳び上がり『紅焔魔剣プロミネンスロアー』でハゲワシに斬りかかった。奏が力を解放すると、異霊獣シャウトが変化したその刀身はたちまち炎を纏った。
 奏の捨て身の一撃も、ハゲワシを捉えることはできなかった。
 プラズマウェイヴの余韻がハゲワシの機体を狂わせ、ハゲワシ本人さえ予期しない挙動を引き起こしたのだった。
 プロミネンスロアーが大きく空を切る。
 ハゲワシは神がかり的ともいえる悪運の持ち主だった。
 ふたたびハゲワシに斬りかかろうとする奏を、空が制する。
 「今度は私の出番だよ」
 そう言うと、空はダッシュローラーを駆使して、めまぐるしくハゲワシの周囲を駆け抜けた。
 ハゲワシは空に向けてビームソーンを放つが、空を捉えることはできない。
 空はハゲワシの攻撃の間を縫うようにして、鋭い刺突で敵機を襲った。素早さに重きを置いたその攻撃の威力は弱いが、ハゲワシの薄い装甲を破るには十分だった。
 ハゲワシは逃走経路を探るが、周囲を特異者に囲まれていては逃げることさえも叶わない。彼は捨て身で目の前の獲物――羽村空に躍りかかった。
 空はふたたび素早い動きでハゲワシを翻弄した。度重なる戦闘で疲弊したハゲワシはもはや彼女の動きを捉えることができない。
 しかし、それでもハゲワシの高い操縦技術と悪運は空にとって大きな脅威だった。彼女はハゲワシを確実に仕留めるチャンスが訪れるまで、辛抱強く機会を伺った。
 その瞬間は間もなく訪れた。
 ハゲワシの攻撃を躱したはずみで、空が奏に衝突し、ふたりが折り重なるように倒れた。
 ハゲワシは嬉々としてふたりに襲い掛かった。
 その瞬間、空の渾身の一撃がハゲワシの機体を襲った。
 空のビームソードが、ハゲワシのスラスター部に突き刺さる。
 ハゲワシの機体は大きく傾き、やがて地に墜ちた。

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