三千界のアバター

ユーラメリカ

邪悪と媚薬

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邪悪と媚薬
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 では、前置きもなしに早速お話を始めよう。状況は皆わかっているはずだ。
 不良グループ摘発作戦は二手に分かれて実施された。
 まずは、メンバーたちを逮捕するシーンの方から。
『FUCKER & FUCKER』の連中がアジトとしているらしい遊技場には強力な特異者たちが駆けつけていた。
 接近すると、すぐ正面に両開きの大扉があった。内部からはカギが掛けられているのが分かった。
「想定の範囲内ね」
 扉など叩き斬ればオッケー。葉剣 リブレが愛用の魔剣<アールヴノレイピア>で施錠された大扉に剣撃を加えた。彼女の武器は一見錆びたレイピアなのだが、ユーラメリカ用に鍛え直された特別仕様なのだ。スキル<回転アタック>を応用した回転斬りで大扉を一刀両断するのも難しくはない。
 ズドドド……。
 扉は轟音を立てて内側に倒れ落ちた。
 リブレたちが中に入っていくと、たむろしていた不良たちが驚いてざわついた。遊んでいる連中たちも一斉に武器を取り出して身構える。
「唐突だけど、君たちは凄く強いヒーローたちに囲まれようとしているわ……。選びなさい、抵抗して戦うか、仲間を置いて逃げるか、賢く降伏するか……。早期に降伏して更生を誓うなら保護できるわよ」
 彼女は以前色々あって苛立ち紛れに敵を壊滅させようと考えていたのだが、気が変わって少しだけ救済の余地を残すことにしたのだ。
「全部のヒーローを把握してるわけじゃないから断言できないけど……、中には容赦ない人もいるから降伏をお勧めよ」
「な、なんだテメェら!? ぶっ殺す!」
 不良たちは話を全く聞いていなかった。リブレの外見を侮ったか、一斉に飛びかかってくる。
「攻撃してくるなら、ちょっとだけ八つ当たり気味の一撃を食らってもらうわよ」
 とりあえず、一番前にいる奴。リブレは武器を使わず<回転アタック>による痛烈な蹴りを叩き込んだ。
「げぶぐほぉっ!?」
 不良の一人はちょっとヤバ目な断末魔を残して吹っ飛んだ。噂通り、下っ端チンピラはあまり強くない。これは逝ったか? と思われたが、すかさずリブレは<ライトオブライフ>のスキルでちょっとだけ回復させてやる。
 死にはしないけど痛い攻撃。重症にはなっていないが悶絶する不良は後で誰かが回収していくだろう。リブレは別の相手に向かう。この程度なら無双できそうだった。
 あっという間に乱戦になる。
 人数的にまだ戦えると思ったのか、不良たちは降伏より攻撃を選んだ。そんな彼らを相手にするのは砂月 京だった。
 evilとはいえ、まだ若い不良の集まり。数は多いがサクっと蹴散らすことにした。
<フラッシュインパルス>で集団戦における立ち回りをしながら、<バリツ>を組み込んだ体術で投げや当身などを駆使して気絶させるよう試みると、面白いほど技が決まった。
「げふっ!?」
 不良たちは他愛もなく泡を吹いて倒れた。なるほど、噂どおり敵は強くない。
 とはいえ、彼らを倒すのが目的ではない。京はあくまで不良たちを更正させるためにやってきたのだ。
「はい、みなさん正座してください。きちんと反省すればまだやり直せますわよ」
 京は穏やかに反省を促した。
「どうする?」
 不良たちは浮き足立った。逃げ出すでもなく戦うでもなく、その場で優柔不断にオロオロするのが、決断力のない下っ端チンピラの特徴かもしれなかった。
「みんな優しいんだな。こいつらにそんな対応は無意味だってわからないのか」
 皮肉げに呟いたのは芥川 塵だった。道を踏み外したロクデナシどもに容赦するつもりは無い。殺しはしないが……。
 彼は集団で襲い掛かってくるチンピラどもに対して、<フライングメッセージカード>を非殺傷の牽制用投擲武器として使い、<霊刀・禍津月読>は鞘に収めたまままとめて敵を叩き伏せる。
 敵が怯んだところを、<バイタルカット>のスキルを食らわせる。狙い過たず放たれた一撃は、敵の右上腕部に命中し鈍い打撃音と感触が伝わってきた。ボキリ、と骨が折れたのがわかった。塵は全く意に介さず淡々と殴り続ける。動かなくなるまで骨を折っていくだけだ。痛みを与えないと教訓にならない連中だ。
 不意打ち攻撃も<視覚外感知>のスキルでお見通しだった。すかさず<反撃>★3で応酬する。
「た、助けてくれぇ!」
 塵が不意にはなった<死の波動>が放つ殺意に恐れをなした不良たちは腰を抜かしながら逃げ惑った。
「もうやめてください」
 代わって間に割って入ってきたのは、保安官たちだった。
 特異者が倒した不良メンバーを一人ずつ捕まえていたのだが、塵のただならぬ気配に慌ててなだめにかかる。
「あなたの気持ちはごもっともです。奴らは、我々の手で必ず更正させます。これだけ痛めつけて脅してやれば奴らとて懲りるでしょう」
「必ず更正させる、だって?」
 塵は強い語調で言い返した。彼は決して正義の味方ではなかった。だが、彼なりの善意や許しておけない価値観は持っているのだ。
「こいつらは既に楽に金を稼ぐことも、簡単に意中の女を物にすることも経験し味をしめた連中だ。今は取り合えず表向きはしおらしくしても、喉元過ぎればなんとやら、また似たようなことを犯す可能性はある。……今度は口にするのも憚れるような所業をだ」
 媚薬と暴力を使い、多くの女性を苦しめる。簡単に想像できることだ。
「どの程度の事をされたかまでは把握してないが既に一人、集団暴行で重症の少女がいる。俺はこういったことが本気で嫌いなんだ。本当なら全員、去勢するかいっそ殺したいと思うほどにはな」
 塵は苛立たしげに言った。噂の魔法少女はどうなったのだろうか。想像に任せるしかない。
「例え今回は大丈夫でも、次にも同じような事件が起こった時、被害者にどう言い訳するんだ? 前はそんなことしなかったから簡単に許したと? 治安維持やらの犯罪に関わってるなら分かるだろう、起きてからでは遅いと。それも一生モノの精神的な傷になり得るものとなれば……」
 被害者の痛みを理解できぬ不良たち。彼らにはふさわしい痛みを与えておきたかったのだ。痛みなくして教訓にはなり得ないのだから、と彼は締めくくった。
「……」 
 しばしの沈黙。確かにその通りだった。保安官も不良たちも何も言わない。
 ややあって、少し離れた所で話を聞いていたリブレが遠慮がちに言った。
「だとしても、これ以上あなたの手を自ら汚す必要は無いと思うわ。彼らにはふさわしい地獄が待っているのよ」
 一通りチンピラを痛めつけて正座させていたリブレは、逃走を始めた残党をちらりと見やって気の毒そうに目を伏せた。
「あなたたち、もう悪いことしてはいけませんよ。しかるべき所でしっかりと更正してきなさい。きっと立ち直れますから」
 降伏し改心することを決めた不良たちには追い討ちをかけないのが京だった。彼女の説得により不良たちは手錠をかけられ、保安官に連行されていった。
「逃走者はご愁傷様……。逃げた方がもっと酷い目にあうのよ」
 残党が逃走していったのを見送ってリブレは言う。
「……甘すぎて付き合ってられねえぜ」
 塵は、もう興味を失ったように身を翻した。
 京は塵を労うような微笑で見送ってから、大元を追うことにした。彼女にはまだやるべきことが残っているのだ。リーダーの<ヤング>を発見し説得することだ。

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