三千界のアバター

強襲のワイズ・グリフォン

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強襲のワイズ・グリフォン
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「くくっ、そろそろあの村も終わりだな」
 ルース近くの森の中。グリフォンに囲まれた男、ナキが口元に歪な笑みをたたえてひとりごちる。
「だがまだだ、もっとジワジワいたぶって二度と反抗できないようにしてやる。今後も俺の部下として、ペガサスを調教してもらわないとならないんだからな……くっくっく!」
 こみ上げる笑いが抑えきれないナキの元に、一匹のグリフォンが舞い降りた。
「うん? 斥候か。呼び戻した覚えはないぞ、どうした?」
 降り立ったグリフォンはナキの前に歩み出ると、礼をするように頭を下げ、その場でぐるぐる回り始める。
「……何? 増援……?」
 もちろんグリフォンのその動きはただの踊りではない。人語を発さないグリフォンとコミュニケーションを取るためにナキが仕込んだ芸のようなものだ。
 そしてその動きは援軍が来たということをあらわしていた。ナキの顔に動揺の色が浮かぶ。
「クソッ、サクスンめ……今頃になって増援とは、ナメたマネを……」
 村の防衛にサクスン伯が派遣したのはたった一人。サクスン伯はこの地を重要視していないはずだった。ここまですべて順調にいっていただけに、このタイミングでの増援は完全に虚をつかれた形になる。
 言い知れぬ焦燥感がナキを襲った。彼の額に脂汗が浮かぶ。もう少しで計画がうまくいくというのに、今更邪魔をされるわけにはいかなかった。
「……テメェもテメェで、増援がいるってわかっていながらノコノコ帰ってきたのか! この役立たずが! このっ!!」
 ナキは報告をしたグリフォンを殴りつけた。完全な八つ当たりであったが、グリフォンは顔面を殴られているにも関わらず平然としている。事実グリフォンほどの体躯の動物ともなれば素手で殴られたぐらいではなんともないのだが、それがまたナキの逆鱗に触れる。
「……なんだその目は! テメェら操られても俺をバカにするってのか! このっ! このグズ! このっ!!」
 ナキは足元に落ちていたメイスを拾い上げ、グリフォンの顔面に何度も何度も打ち付ける。その羽根に血が滲み、グリフォンが膝を付いてやがて倒れてもなお、ナキは狂ったように殴り続けていた。
 このままでは死んでしまうというところでナキはようやく殴るのをやめ、トドメと言わんばかりにくちばしを数回踏みつけると満足したようで、メイスを投げ捨てた。
「はぁ、はぁ……思い知ったか、下等生物の分際で舐めやがって……テメェらは黙って俺の命令に従ってればいいんだよ……はぁ、はぁ……オラ、立て!」
 無抵抗で殴られ続け、頭から首にかけて血で赤く染まっているグリフォンはもう瀕死の状態だった。だがそのグリフォンはナキの命令に従い、膝をガクガクと震わせながらなんとか立ち上がる。
「はぁ、はぁ……俺の命令は絶対だ。俺が支配者だ。テメェら、ちょっとでも俺をコケにしたらこうだからな! わかったか!」
 ナキの声に反応して、グリフォン達は口々に鳴き声を上げる。
「……わかってるんだったら最初からイラつかせるんじゃねぇグズが!!」
 ナキは再びメイスを拾い上げ、既に立っているのがやっとの状態であるグリフォンの頭部めがけてフルスイングをした。鈍い打撃音と確かな手応えを感じたナキは、もう一度同じように殴ろうとしたが、二発目は空振りに終わる。無抵抗のまま何度も殴られ、強烈な一撃を頭にくらったグリフォンはついに気を失ってしまい、地面に突っ伏していた。
「おっと、いけねぇ、取り乱しちまった。指揮官ってのは、常に冷静を心がけないとな……まさか殺しちまったか? ま、ワイズ・グリフォンさえいれば、ザコ一匹ぐらいどうでも良い。必要な犠牲ってやつだな」
 ――彼は狡猾で慎重な男ではあったが、些細な事で取り乱してしまう悪い癖があった。その逆鱗の在処は日毎の気分で代わり、一度激昂するとストレスを完全に吐き出すまで止まらない。そしてクールダウンすると、まったく悪びれる様子もなく平然と振る舞うのだ。
 忠実に偵察と報告をこなした末に、気まぐれで半殺しにされた仲間を、グリフォン達はみなどこか悲しそうな目で見つめていた。
「いいか、こいつみてぇになりたくなかったら、俺の言うことに逆らうな。良い子にしてりゃぁ、悪いようにはしねぇからよ」
 もとより操られているグリフォン達はナキの命令には逆らえない。だが彼はこうして絶対に逆らえない相手を前にして偉ぶる事で自らの自尊心を満たしていた。自らの命令に忠実なグリフォン達を満足気に眺めながらナキは空を仰ぎ見る。
「さぁて、援軍が来たとなりゃのんびりしてらんねぇ。ちまちまと攻めるのはやめだ。全戦力で一気に叩き潰してやる。斥候も伏兵もいらねぇ、あんな滅びかけの村、真正面からぶっ潰してやるぜ」
 やがて宝珠を使って呼び寄せていたグリフォン達がナキのもとに戻ってきた。新しく捕らえたグリフォンも含めて、全部で2、30匹ぐらいはいるだろうか。
 グリフォンすべてを整列させると、彼は演説でもするかのような仰々しさで彼らに命令を下す。
「よーし野郎ども! 今からルースの村に全力攻撃を仕掛ける。歯向かうやつは殺せ、歯向かわないやつは半殺しだ、女子供も容赦するな。畑を潰せ、井戸を埋めろ、家を壊せ、だがペガサス達にゃ手を出すな。わかったかテメェら!」
 ナキの言葉に合わせてグリフォン達は鳴き声を上げた。それは戦を前に己を鼓舞する雄叫びでなどでは決してなく、まるで遠吠えのような、どこか物悲しい鳴き声であった。
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