九鬼が作業を終えて少し経った頃、グリフォンを捕獲した仲間が、その少し後にロイドが農場へ帰ってきた。
「お疲れ、皆。無事で何よりだ」
弥久が労いの言葉をかける。
「そちらもお疲れ様ですわ」
山内が返事をする。
「ロイドちゃん、どうだった? 交渉はうまくいったの??」
九鬼が首を傾げる。
「はい、だいぶ渋られましたけど、最後にはいい返事をもらえました」
ロイドが答える。
「確か、領主に嘆願しにいってたのよね?」
今井が聞く。
「はい、ですがそう簡単には会えなかったのでコヌル農場付近一帯の守備隊長に話をつけてきました」
ロイドが頷く。
「自分の担当範囲が危機なのに、渋ったのかよ」
驚きを交えたジェノが言う。
「まぁ、巡回を増やすにも、まず人手を確保しなければいけませんからね。その手間がかかるのを嫌がったんでしょう」
ロイドが答える。
「それはお疲れ様なのにゃ」
ゴルデンが労う。
「ところで、これはいったいなんでしょう??」
グリフォンから降りた葉月が前方を見て首を傾げる。
「これが、私なりの対策! メタルキャバルリィの残骸を使ったモンスター達の遊び場、だよ!」
九鬼が皆にお披露目と言わんばかりに先ほどできたそれを紹介する。
「モンスターの遊び場ですか……。遊び場というよりはなんかちょっと怖い感じも……」
津久見が言う。
「まぁ、見せしめも兼ねてるからね! この農場を襲うと、こんな無惨な姿になるよ? ってね。光の加減のおどろおどろしさや、明らかな危険地帯で死んだ風味の敵残骸。相手が襲ってくる想定で置いてあるの! びっくりしたらOK♪」
九鬼が説明する。
「敵じゃなくてもびっくりしそうだがな」
ブラックが言う。
「いいの、メタルキャバルリィ相手にモンスター達がビビらずじゃれていけるようにするのも目的の一つなんだから。なんなら、この遊び場は、この牧場を襲い、その目的を果たせず敗れたメタルキャバルリィから作りました。 とか立て札立てるのもいいかも……なんてね」
九鬼がもっとびっくりできないかと思いにふける。
「一気に強そうな農場になったな」
九曜が感心する。
「そうですわね。これならば襲われる危険性も少し減りそうですわね」
松永が頷く。
「ところで、逃げたグリフォンは2匹じゃなかったか? 見たところ1匹しか連れてないみたいだが??」
天峰が首を傾げる。
「えぇ、まずはこの気の弱い子を助けるべく捕獲してきました。次は気の荒い子を捕まえに行こうと思っています。痕跡をたくさん残してくれていますので、それを見つけたらすぐ捕まえられるでしょう」
高宮が答える。
「これだけ人数が居れば一瞬で終わるね!」
リーオがやる気を出す。
「いや、そいつの事は、もうかまわわねぇ」
小屋の修理を終えたのかグラートがやってくる。
「グラートさん……。どういうことですか?」
砂月が尋ねる。
「どうもこうも、あんたらがそいつを探しに行った後すぐ、反対方向に1匹飛んでいっちまったんだ」
グラートが雑木林とは反対の方向に指を向ける。
「では、雑木林にはもう居ないということなんですね?」
天音が確認するように聞く。グラートは頷いて
「あぁ、そういうこった。こっち方面は広いうえに、野生の奴が多い。そんなかで1匹を探すなんざとてもとても」
困ったようにそう言った。
「そうかもしれないが、やってみないとわからないだろう?」
マカラシャが言う。
「そうです。すぐに向かいましょう!」
ユキノが出発準備を整えようと動き出すと
「いいんじゃよ。そっとしておいてやってくれぬか」
コルヌが現れてグリフォンの背を撫でながら言った。
「休んでなくていいの?」
今井が身を案じる。
「あぁ、問題ない。まだまだ若いもんには負けん。それで、もう1匹の事なんじゃが……気性が荒いせいでもともと馴染めておらんかったんじゃ。あれでは人様の助けなんぞできぬじゃろ。そう考えれば、野生に戻る方が幸せなのかもしれん」
コルヌが少し寂しそうにグリフォンが去っていった方向を見やる。
「農場主がそういうのであれば、私達にはもう何もできることはないわ。本当にいいの?」
ジャンヌが告げる。
コルヌは振り返って頷く。
「あぁ、気遣いは要らぬよ。手放す時期が少し早くなっただけの事じゃ」
「俺的にはコルヌの親父が戻ってくれただけで充分さ! 親父がいねぇとココ成り立たねぇからよ!」
グラートも同意する。
無言で聞く皆にコルヌが提案する。
「それでも、スッキリせぬと言うなら、ここのモンスター共にこの遊び場での遊びを教えてやってくれぬか? 人馴れも兼ねて」
「そういうことであれば喜んで。な、皆」
弥久が振り返る。
「もちろんですわ」
松永が言う。
「それってグリフォン以外も触っていいってことだよね!」
九鬼が言う。
「それは楽しそうですにゃ」
ゴルデンが喜ぶ。
「楽しみですわね」
山内が言う。
「折角だ、近い未来一緒に冒険する奴がいるかもしれねぇしな」
ブラックが意気込む。
「それはいい考えだな」
マカラシャが頷く。
「俺も同行しよう」
ジェノが傍までやってくる。
「まずはどの子から触ろうかしら……」
ウキウキとジャンヌが小屋の方へ歩き出す。それを追うユキノ。
「ジャンヌさん、待ってくださいー」
「私達も行きましょう」
砂月が歩き出す。
「どんな子が居るのか楽しみですね」
天音もそれについていく。
「餌とかあげてみたいな♪」
リーオが言う。
「いいんじゃねぇか? グラートに言えばもらえんだろ」
天峰がアドバイスする。
「木の実とかなら、結構もってるぜ」
剣持が荷物から先ほど調達した食料を出す。
「グリフォンは大丈夫ですが、他の子は食べさせちゃダメなものもあるかもですよ」
高宮がやんわり止める。
「他の子もいいですけど、せっかく仲良くなったことですし……」
葉月が傍にいるグリフォンを撫でる。
「えぇ、また一緒に乗せてもらいましょう」
津久見も反対側から撫でる。
「皆楽しそうでよかったわ」
今井が皆が思い思いに動き出すのを見て言う。
「えぇ、本当に。さて、私達も今暫くの平和を楽しむとしましょうか」
ロイドが提案する。
「そうだな、こういうのもたまには悪くないな」
九曜がそう言って歩き出す。
そうして皆は平和に戻った農場で、しばらく楽しいひと時を過ごしたのだった。