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飼育小屋のグリフォン騒動!

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飼育小屋のグリフォン騒動!
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 広い雑木林をホバーボードが進んでゆく。
「どうですか? 巴様?」
 隣に居る葉月に津久見が尋ねる。
「そうですね……。デフラグメンテーションを使い情報整理しつつ目星を付けてみましたところ、私達の探索範囲ではここをもう少し行ったところが怪しいかなと思います」
 葉月はそう答えていっそう木が生い茂っている方を指で指し示す。
「なるほど、では土地勘に双眼鏡も利用して、大体の目星をつけましょう」
 暫くスピードを落としつつ周囲に目を配らせて、ある程度場所を特定した津久見は目的地より離れたところでボードを止める。
「ここからは徒歩で移動しましょう。隠密行動の技術を持つ私が先行して物音を立てぬように静かに向かいますので後をついてきてください。聞き耳を利用しますので、息遣いや身じろぎの音を逃さぬようにして確実に居場所を特定しますね」
「分かりました、弥恵さん」
 葉月は返事をすると静かに行動を優先しつつ見え辛い体勢で津久見についていく。
「……本来であればトラップなどで捕まえるのが一番でしょうけど……グリフォンに乗って戦う事もあるトルーパーとしてはなるべく手荒な真似はしたく無いですね」
 声を潜めながら津久見が言う。
「そうですね。一応、ホーリーライトがありますが……あくまでも弥恵さんへの誘導用……使わないに越したことはありません。逃げられそうになったら他の方が捜索している範囲へ行ってもらうようには工夫した方がよさそうですね」
 同じく声を潜めて葉月が返す。
 そうこう考えを巡らせている間に目的の場所までたどり着く。
 長く成長した草が木々の間を埋めていて動きにくいが、動くたびに音が鳴ってしまうので聞き耳を立てている津久見には好都合だった。
「……いますね……あの、木の裏あたりでしょうか」
「これより奥に行かれたら捜索範囲から外れてしまいますから、私こっそりそちらで待機しますね」
 葉月はそう津久見に言うと静かに奥の方へ静かに移動し始める。
 津久見は持ってきた療養のお香を焚いてグリフォンを落ちつかせようと試みる。そして少し時間をおいて癒し系ナビゲートで
「一緒に戻りましょう?」
 とゆっくりとした仕草で近づこうとする。
 少し落ち着いていたのかグリフォンは立ち上がりこそすれ逃げる気配はなく、こちらに一歩足を踏み出した。
(これなら、うまくいきそうですね……。……?)
 葉月が見守っている中あることに気付く。
 それと同時にいきなり雄叫びを上げて一目散に走り出すグリフォン。
「!? ちょ、どうしたのですか!?」
 津久見の驚きの制止もむなしくあっという間に去ってしまった。
「弥恵さん、あの子……足を怪我してました。もしかしたら動いた痛みでお香の匂いより恐怖が勝ったのかも……」
 そう言いながら葉月が隠れていた草むらから出てくる。
「怪我、ですか……。とりあえず、逃げた方向的は九曜様達がいらっしゃるので大丈夫かと思いますが……」
 少し落胆しながら津久見が言う。
「今はこの地点にはいない事ですし探す意味はありません、そっちに向かいましょう。先に合流できれば情報を渡せますし」
 葉月が元気づける様に言う。
「そう、ですね! 行きましょう巴様!」
 そうして二人は雑木林を歩き出した。




 グリフォンが雑木林に再び姿を消した頃、その近くでは九曜と、山内が捜索の手を広げていた。
「まずは……土地鑑でグリフォンが隠れやすそうな場所をピックアップだな。穴とか洞窟とか。物陰と言っても体が大きいから、それなりの空間は必要だと思うんだ。」
 音が出難いホバーボードで隠密行動しながら雑木林の木の影を遮蔽物とし、その合間を抜けながら双眼鏡で辺りを見回している。
「そうですわね、グリフォンが逃げ込みそうな場所のヤマを張りますわ」
 同じく土地鑑を使いながら、ペガサスのマーニに乗っている山内が言う。
「ん? なぁあそこ。すごい勢いで草が揺れてないか?」
 九曜が指で指し示す。
「……、まぁ! ほんとですわね。何かに驚いて逃げてきたのかもしれませんわね」
 それを目視で確かめた山内が言う。
「よし、ある程度近付けば音で逃げ出してしまうかもしれないので慎重に可能な範囲で近づこう」
 九曜が言う。
「あら、策がおありなんですのね? 確か……あの先の崖の岩にはちょうどいい感じで洞窟がありましたわね。そこを目指しているのかもしれませんわ」
 山内が少し先の崖下を示す。
「なるほど、すぐ向かおう」
 すぐさま九曜は着地を開始した。


「一体なにをしてますの?」
 目当ての洞窟の少し傍でなにやら作業をし始めた九曜に山内が首を傾げる。
「匂いをちゃんと嗅いでみればわかるよ」
 と作業を中断することなく続ける九曜。仕方なく傍によって見て、匂いを嗅いでみる。
「牧場でいただいてきた餌に……この匂いはお酒ですの?」
「ご名答。キュラソー・リキュールを含ませた餌を食べてアルコールで眠くなってくれれば連れ戻しやすいかなと思うんだ。こちらが動けば逃げるのなら、餌で釣って出て来て貰おうってな。……ただ、急いでこの洞窟に逃げ込んだみたいだから、落ち着くのを待つしかないなぁ……」
 そう言いながら九曜は聞き耳を立てながら呼吸音や微かに動いた時に出る音等を拾いある程度落ち着き具合を推察する。
「まだちょっと無理そう……」
 その呟きに山内が言う。
「そういうことでしたら、任せてくださいな」
 すぐに山内はWILLで魔力を高め、安らぎの呪文を唱え始める。
「なるほど、それは助かる」
 酒を塗った肉をこっそりと洞窟の入り口に置く。
 しばらくするとグリフォンがこっそりと入り口に現れる。何度も左右を見渡して、ちょっとずつ肉をかじっていく。
「小さめの肉だから腹の減り具合はそこまでだが、すきっ腹には酔いが回りやすいからな」
 ある程度酔いが回るまではと、九曜が待機する。
 すると、ふらりとマーニがグリフォンの元へ。
「!! マーニ!?」
 慌てて小声でマーニを呼ぶ山内。
「? あのグリフォン、大分落ち着いてきたのか逃げないな……それとも酔いが回ったのか?」
 その状況を観察して九曜が言う。
「今なら近づいても大丈夫、ということですの?」
 山内が聞く。
「……多分、だが……」
 九曜が肯定する。
 すると意を決した山内が、グリフォンに近づいていく。
「く、く、く……ほら、怖くありませんわ」
 そう言いながら少しずつ間合いを詰めていく。
 それを見据えたグリフォンは少しの間逡巡していたのか動かなかったが、途端に踵を返して逃げ出した。
「あっ!」
 山内が制止する暇もなく、姿を消してしまったのだった。



 そんな逃走撃が繰り広げられているとはつゆ知らず、雑木林で捜索をしていた剣持と高宮は両手に木の実やらキノコやらをたくさん抱えていた。
「餌になりそうなものを食料調達してみたけど、なかなかあるものだな」
 剣持が言う。
「そうですね。これだけ取れれば臆病なグリフォンもお腹いっぱい食べられますね」
 同じく食糧調達をしながら高宮が答える。
「さて、食料は十分だし、臆病なグリフォンがいそうなところを探そう。洞窟や木の虚とかにいないだろうか?」
 そう言いながら馬上から辺りを見渡す剣持。
「? 剣持さん。……あの子じゃないでしょうか?」
 高宮が指で指し示す。少し遠い所の木と木の間にグリフォンらしきものが見える。
「……? 素早いって聞いてた割に、かなりゆっくり歩いてるが……グリフォンだな」
 それを確認した剣持が頭にハテナを浮かべる。聞いていた感じと違う、と。
「ゆっくりというか……フラフラしてますね? ……ケガでもしてるのでしょうか?? 近づいてみます?」
 同じように首を傾げた高宮が提案する。
「そうだな。大怪我なら早い目の処置が大事だしな」
 頷くと二人は馬から降りて、音を立てないように近付いていく。
「どこか怪我してたら治療術で手当てしてあげようとは思うが、大怪我しているわけじゃないみたいだな」
 剣持が少し遠くから観察する。
「そうですね、足に少し傷がありますが、それ以前になんでこんなにフラフラなんでしょう?」
 高宮がはたまた首を傾げる。
「まぁ、いいか。とりあえず作戦を実行しよう」
 そう言うと少し進行方向へ先回りして餌を特製調理セットを使って調理し始める。
「あの状態で来るかわからないが、とりあえず匂いで誘き寄せてみよう」
 その剣持の横で高宮が傍に先ほど集めた果物も広げて置いていく。そして同時に励ましの歌を歌い始める。
 フラフラとゆっくり歩を進めてくるグリフォン。それを確認して
「大丈夫、俺は君の敵じゃないよ。ほーら、美味しそうなお肉だよ」
 優しく声を掛ける剣持。
 グリフォンは傍までやってきてカブッと肉にかじりついたまま動かなくなった。
「……え?? おい、大丈夫か?」
 グリフォンの想定外の行動に剣持は慎重にのぞき込む。
 歌いながら傍までやってきた高宮も同じようにする。
「……、寝てるだけみたいですね。大丈夫、大丈夫、怖いものはどこにもいません。だから安心してお休みなさい」
 歌い終えた高宮は首を傾げる剣持の横でグリフォンを撫で始めたのだった。



 そんなことがあった同時刻、コヌル農場付近一帯の守備隊長のいる詰所へ入ることができたロイドは待合室に居た。
「吾輩に用があるというのはお前か?」
 奥からガタイのいい男が現れる。
「御会い出来て光栄であります」
 そう言って丁寧にお辞儀をする。
「吾輩は暇ではないのだがな」
 立派な髭をいじりながら守備隊長は言う。
「存じております。ですので手短にお話をさせていただきたく思います」
 ロイドは令嬢の嗜みを使い立ち居振舞いを優雅に、プラシーボケアの話術で話し始めた。
「先程、共和国の賊徒が領地に侵入しまして。間も無く解決しますが、此処で少し問題が……」

「……と、いうことで今後も領民や所有物を害する可能性が有りますので、どうか領地を巡回する部隊を増やして頂きたく思い、嘆願しに参りました」
 その話を聞いて守備隊長は顔をしかめる。
「しかしなぁ、もうじき解決するほどのものだろう? そこまでしなくとも……」
 あまり乗り気ではないのかそう返してくる。
「今回は我々が動きますからね、それほど大事には成りませんが、次も我々が駆けつけるとは限りませんし。ある程度自衛することも大事だと思うのです」
 そんなロイドの言葉に
「ふむ……それはそうなのだが……」
 やはりあまり乗り気ではない様子。
(……これは……結構時間がかかりそうですね……)
 ロイドはそんなことを思いながら守備隊長を説き伏せるために策をめぐらすのだった。


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