全員が出立準備を進めているそのころグランディレクタ近辺の崖の上では
サジー・パルザンソンが仲間の
コミュニ・セラフから報告を受けていた。
「農場の襲撃、ねぇ……。ぐふふ、民間人の地域でグランディレクタの軍人が盗賊まがいなことやっちゃってな~~~にやっちゃってくれてんのかな? これから占領下になりそうな地域で、無駄な反感を買ったり、作戦外の敵と交戦して警戒されちゃうとグランディレクタ軍としても困るんだろうねぇ?」
「ですが、こちらとしては好機でござろう?」
同じく傍で話を聞いていた
ヨウ・ツイナが問う。
「モチロン。俺達もちょ~~~っと利用するぜ、その盗賊行為をさ。俺達がグランディレクタに入る為にね~?」
サジーが口元に笑みを浮かべる。
「賛成です!」
ファイアヘッズ・トランスポーターが言う。
「じゃあ、ミーティングしようか。ヨウちゃん。さて、まずは……偽造書類の準備は出来たかな~? そのディセプションの技術で、俺達がエーデル・アバルト旗下に認定された特務軍としての偽造と、敵前逃亡罪をね。俺達があいつらを退治するって名目もたつってもんよ~。」
楽しそうにサジーが指示を出す。その指示にテキパキとヨウは作業を開始した。
「しかし、向こうも特異者に依頼をしたと言っていたじゃろ?」
アッシュムーン・セラフがそれはどうするのじゃ? と小首を傾げる。
「まぁ……ありうるな。確かに作戦行動中にラディア王国の特異者と対峙するかもしれんが~、あ~……。まぁ、運が悪かったね。ラディアの特異者が交戦してくるようなら、応戦してやれ。俺の楽しみを奪うなってなぁ。可能なら全員口を封じて差し上げろ! おっと、民間人はやっちゃだめだからね、誰も。そういう作戦になってないからさ、作戦進行は確実にね、んふふ?」
サジーの指示に全員が異論はないと頷く。
「敵は3機、出会い頭に俺が足止めしてやるから、ファイアヘッズとコミュニは横っちょの草むらとかで隠れて貰ってい~い? 僚機は戦闘開始するまでエンジンでも切っとけ、それと周囲のグランディレクタ軍の連絡はヨウちゃんよろしく。偽造書類と手配書を根回ししておけ、こっちに来るなら手伝えとな。ついでに、僕たちのお家も確保しとかないとね~。」
サジーはそれだけ指示し、戦闘準備を開始するのだった。
「さて、お前たち、子犬ちゃんたちの始末に行くぞぉ!」
他にも蠢く影があることなど知りもせず、一行はメタルキャバルリィを追って進んでいた。
「うまいこと挟み撃ちにできればよいのですが……」
松永が換装パーツ・ロードマスターを装着したロンデル試作型を操りながら進行方向を見据えて呟く。
「敵はメタルキャバルリィ3機と僚機が各2機でしたね。非道の輩であれば、討ち取るなり捕虜にするなりすれば僚機も退くとは思いますが……。気になることは他にもありますね」
ユキノが思案する。
「? なにが気になるの?」
傍にいるジャンヌが首を傾げる。すると、ユキノは少し後ろを振り返る。
「? 私が気になるの? ユキノちゃん??」
その仕草に気付いたのか九鬼が問う。
「えぇ、そうですね。確かあなたは対策を練るとおっしゃっていたかと思うのですが?」
ユキノが答える。
「うん、そうなんだけど、気にしないで。そっちに用事があるだけだから。まぁあたしとそこの僚機・ムスタングRVerはマリーの手伝いみたいなものだから。」
九鬼が頷いて言った。
「そうそう、お気になさらずですにゃ。ボクらは戦闘には参加もしませんし、邪魔にもならないようにしてますので」
ゴルデンも同意する。
「あら? では戦場にはどういったご用事で?」
天音の船から顔を出した砂月が首を傾げる。
「ゴミみたいな残骸を集めて、積んで、牧場に運びますにゃ。あとは、それを使って苺炎にゃんがどうにかするらしいですよ」
ゴルデンがそれに簡単に答えた。
「まぁ、目的はなんであれ、自衛するって言ってるし問題はないだろ」
ブラックがそのやり取りを聞いて言った。
「そう、ですわね。巻き込まれないようにだけお気をつけてくださいな」
松永が言う。
「うん、任せといて」
それに九鬼が返事をした。
一方小屋を修理する音が響く農場。そこでは作戦会議が開かれていた。
「さて、グラートさんのお話によりますと逃げたグリフォンは2匹とのことですが……」
高宮が言う。
「私達は臆病なグリフォンを探しに行こうと思います」
津久見が言う。
「そうですね、気の弱い方の子を探した方がいいと思いますわ。気が弱く臆病だというなら、放っておくとどんどん怖がってしまいそうですし……。早く、他の仲間のもとに戻してあげたいですわ」
山内が心配そうに言う。
「そうだな……、先に皆で臆病なグリフォンを捕まえることにしないか? 臆病な子が野生に戻れるか不安だし、おやじさんと一緒なら安心して暮らせるんじゃないかな?」
九曜が提案する。
「私も異論はありません。この雑木林もかなりの広さですし、先に弱いグリフォンの保護をした方がいいでしょうね」
高宮が同意する。他も反論は無いらしく頷きで返す。
「さて、まずは……グラートさん、グリフォンの習性や行動、餌や生態……それと、捕まえる時にどうすれば安全かつ大人しく捕まえられるか聞いてもいいかな? 餌も貰えたらありがたい」
剣持が作業中のグラートに呼びかける。グラートは手を止めて近くまで歩いてくる。
「そうさなぁ、普通のグリフォンだと獲物をすごい速さで追っかけたりするんだが……先に探そうとしてるやつはダメだな。素早いことは素早いが全力で逃げる方向に力使っちまう。大体何かの後ろに隠れてたなぁ……。後、狭い所も好きだ。捕まえるにはまず、敵意がないことを伝えねぇと、話になんねぇ、興奮してるだろうしな。今日は、餌食べ損ねてっから両方とも腹は空かしてると思うぜ?」
そう言うと肉が入ったバケツを傍に置く。
「これが餌、なんですか?」
葉月がバケツをのぞき込んで問う。
「あぁ、うちでやってるもんだが……基本的に種類は問わねぇが肉が好きだな。割と雑多に物は食べるが、魚とかよりは木の実を好むな」
グラートが答える。
「なるほど、木の実でしたら道中集められそうですね」
高宮が言う。
「では少し餌をもらっていくとしよう」
九曜がそう言ってバケツから肉を取り出す。
「気性が荒い方も腹は空かせてるはずだが、自分で狩りもできるし、おそらく興奮が収まるまでは視界に入らなきゃ問題ねぇと思う。気を付けてな」
グラートがそう言ってまた修理に戻っていく。
「あぁ、忙しいのにすまない。さて、俺達も出発というところだが……、1組2人あたりで分散して違う範囲を捜索するのが効率がよさそうだとは思うんだが、どうだろうか?」
九曜がグラートに礼を言い、続けて提案する。
「そうですわね。同じ範囲を探すより効率的だと思いますわ」
山内が同意する。
「かまいませんよ。もとより巴様と行動を共にする予定でしたし」
津久見が言う。
「それなら話は早いな。俺達もテルス馬に乗って土地勘を元に高宮さんと一緒に捜索するつもりだったから」
剣持が高宮を一度見て言う。
「はい、剣持さんと一緒に行動させていただきます」
高宮が肯定する。
「あら、では必然的に九曜様のお相手はわたくしになりますのね? では、改めて、よろしくお願いいたしますわ」
山内が九曜に向き直り手を差し出す。
「みたいだな、こちらこそよろしく頼む」
九曜が手を取って握手を交わす。
その後、その3組は雑木林に進んだのだった。
そんな中、一人街の方へ向かったロイドは大きな屋敷の前に来ていた。
「さてと、土地勘を使い、領主の館に直行したのはいいですが……見事に追い返されましたね」
先ほど話した門番が訝しそうにこちらを見据えている。
そこに留まるのも悪いと思いそうそうに踵を返す。
(ベストは領主に直接嘆願するのが一番ですが、そりゃいきなり来た奴が易々と謁見出来る訳がないですよね。……なら、コヌル農場付近一帯の守備隊長に話を通しましょう)
そう結論付け、ロイドは守備隊長の元に急ぐのだった。