三千界のアバター

ドゥームズデイ・クロックワーク

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ドゥームズデイ・クロックワーク
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 昼も夜も区別はないほど暗く煙ったメトロポリス郊外。工場からの排気が灰色に霞む第12区に、巨大な時計をはめこんだ館があった。
 アーサーの館である。
 その建物には、時計盤の騎士を名乗るテロリストたちが潜伏し、セージ以外の種族を死に至らしめる計画を遂行しようとしていた。
 終末を告げる時計――ドゥームズデイ・クロック――となり、人間の世界に終焉をもたらそうとする時計盤の騎士。
 彼らの蛮行を止めるため、特異者たちが次々とアーサーの館に乗り込んでいく。


 1階

 正面の入口を抜けると、フロアには異種族を虐げる人間を模った彫像がいくつも飾られていた。時計盤の騎士のリーダーモルドレッドが、“人類の罪”をテーマに作製したオブジェである。
「これは種族差別か……。いかにも人間を恨みそうな理由のひとつだな……」
 リュウキ・レイブレイカーは彫像を見回しつつ、周囲を警戒していった。どうやらこのフロアに罠は仕掛けられていないようだ。
 リュウキの前方には、時計盤の騎士のメンバーケイトリスタンベディヴィアがこちらを見据えている。
 人間への反感から、自ら獣の外見に改造した三人の汽人。ストレンジャーであるリュウキに興味を抱いたのか、今のところ敵意は発していない。
「俺は、お前たちを説得しに来たんだ」
 あくまでも冷静にリュウキは続ける。
「俺も周りの目に気づいてねぇわけじゃねぇし、種族差別なんてなくなりゃぁいいと思っている……。だがな……てめぇらがやっていることを“正義”だとは全く思えねぇな」
 リュウキの声に、少しだけ熱がこもった。
 反応したのは、ケイだ。
「何故、我々の正義を理解しない?」
「お前らが恨むべきは、『人間』じゃねぇ。『種族差別』っていう罪そのものだ。――なあ、そろそろ気づいてもいいんじゃねぇか? お前らは差別を恨むあまり、“差別をする人間”を“差別”してるってことに」
「どうやら、お互いの認識に齟齬があるようだ」
 ケイは淡々と言った。
「定義しよう。差別とは、相手への偏見によって不利益を与えることを指す。よって、正当な根拠に基づいて相手を否定するならば、それは差別ではない。私は人間を理解した。人の愚かさを理解した。その上で、排除すべきと断定したのだ」
「だから――それが偏見だろうがよ!」
 身構えるリュウキ。
 このまま説得に応じなければ、関節を狙い撃ちして、戦闘不能に追い込む覚悟だった。
「種族差別に反対するっていう主張は立派だわ。でも、アンタたちがやろうとしてる事は一体何なのッ!?」
 八上 ひかりもまた、説得に乗り出した。ひかりの後方には、彼女を援護するように川原 亜衣内川 紅蘭麻八上 麻衣が臨戦態勢をとっている。
 ひかりが前線に立って声を張り上げたのは、囮の意味合いもあった。自分に意識を向けさせることで、2階への通路を確保するためだ。
 2階に上がる特異者たちの足音を聞きながら、ひかりは説得をつづける。メインアバターがストレンジャーであるひかりにとって、時計盤の騎士によるテロ行為を、なにがあっても見過ごすわけにはいかない。
「アンタたちが聖刻を使用すれば、人間だけじゃなく異人だってタダじゃ済まないんじゃないの?」
 聖刻。
 それは、モルドレッドの開発した細菌兵器だ。セージ以外の種族を死に至らしめる白い粉末である。
 時計盤の騎士は、死の粉末をメトロポリスに撒き散らすため、アーサーの館の屋上に大砲を設置し、聖刻の爆弾を込めた。砲口は人間やストレンジャーが暮らす第12地区の一角に向けられている。
「アンタたちがやろうとしてる行為は、人間と異人双方に対する、無差別殺戮よ。あたし達ストレンジャーにとって、アンタたちは種族差別を行っている人間以下の非道な集団でしかないわ!」
「……致し方ない。君たちは、人に似すぎたのだ」
 ケイが、哀れむような声で言った。
「人に似た罪は、死をもって贖うしかあるまい。だが、心配することはない。聖刻により死んだ者は、現世での罪が赦され、誰しもが楽園へとたどり着ける。安心して死ぬがいい」
「勝手なことを言わないで」
 ひかりは【戦場の匂い】を発動させた。彼女のパートナーたちも戦いに備える。
 紅蘭麻はベディヴィアに、亜衣はトリスタンに向かい合うかたちで対峙し、後衛では麻衣がカスタマイズされたライフルを構える。
 張り詰めた雰囲気のなか。
 ケイは、理解できないというふうに肩をすくめた。
「人間が流させた異民族の血は、幸福の涙よりも遥かに多い――。それだけで殺すには充分ではないか」
「どうやら、話し合いで解決できる相手じゃなさそうだな」
 リュウキもまた、黒装銃・Chaos Blastを取り出して、叫ぶ。
「ここまで言われても止まれねぇってなら仕方ない。その恨み、受け止めてやろうじゃねぇか!」


 黒杉 優は敵と味方の位置を意識しつつ、トリスタンに近づいていった。防御の要であるベディヴィアとの連携を断ち切るように、両者の間に立ちはだかる。
 防御力の低いトリスタンを孤立させてしまえば、攻め落とすのは楽になるだろう。もっとも、下手をすれば挟み撃ちにされかねない危険な位置取りでもあるが、他の特異者がベディヴィアを取り囲むように動いてからの、慎重なポジション取りだった。
「人間に不信を持ち、人と違う姿を選ぶですか――。それは構いませんけど、無関係の人を巻き込むテロは良くありません」
 優が語りかける。トリスタンは応える代わりに、両手に付けた鉤爪を向けた。
「相手は変幻自在、そして強い一撃を持つ剣の役割ですか――。でしたら私は鎧となりましょう。鎧の方が、好きな人と密着できますしね。肌と肌を重ねるように――なんて、私ったらダ・イ・タ・ン♪ きゃっ♪」
 優はテロリストの計画だけでなく、シリアスになったこの場の空気も壊そうとしていた。
 一方、同じくトリスタンと対峙する亜衣は、事前にバリアアップデートを用い、防具やギアの防御力を高めた状態で前衛に立った。ギアを介したシールドも展開している。高い攻撃力を誇るトリスタンの対策に、抜かりはない。
「反逆者どもめ! 蹴散らしてくれるわ!」
 トリスタンは身をかがめると、その場で回転するように足技を繰り出した。硬い蹄に覆われた両足が空気を切り裂く。
 しなるような相手の蹴りを、亜衣はすんでのところで受け流していく。
「……くっ」
 かまいたちのような空気が、シールドを破り、亜衣の清らかな肌に浅い傷をつくった。それでも亜衣はコールドリーディングを崩さず、相手の動きを注意深く観察する。
「ふふっ、その程度の爪では私を倒せませんよ」
 優が、からかうようにささやいた。挑発に乗ったトリスタンは、すぐさま標的を優に変え、鉤爪を振り下ろす。
「残念。そちらは幻ですっ♪」
 モーメントイリュージョンで惑わせつつ、軽やかに身をひるがえす優。素早さを上げる白狐のチョーカーが、胸元で楽しげに揺れた。
 もちろん優とて、ただおちょくっているわけではない。トリスタンに攻撃させることで、その動きを見極めるための、材料を集めているのだ。
(――見えましたわ)
 亜衣の瞳が、トリスタンの致命的な隙を捕らえた。
 トリスタンは攻撃に特化するあまり、いちど攻撃を外してしまうと、体勢を整えるのに時間がかかる。
 それはわずかな間ではあるが、勝負を決めるには充分だと亜衣は確信する。目で合図を送ると、優は承知したとばかりにニヤリと笑った。
(あとはもう一度、騙せればいいのですが)
 モーメントイリュージョンが見せる幻は刹那だ。何回も発動すれば目が慣れて、惑わすのが難しくなる。
「ご自慢の爪も、当たらなければ意味ないですわ」
「調子に――乗るなよ!」
 トリスタンが狙いすました一撃を放つ。その軌道はモーメントイリュージョンを見切って、優の本体に届くかに思えた。
 しかし、優は月光刀をちらつかせた。刀の瞬きがトリスタンの目測を狂わせる。鋭い鉤爪が、優の顔面すれすれを通り過ぎていく。
「これで終わりよ」
 亜衣が汽籠手【月虹】を構えた。
 篭手の中に収納された刃が、光のマナで射出され、トリスタンを貫いていく。
「が……はっ……」
 驚愕に目を見開いたまま、穿たれた胸を抑えて。
 トリスタンはその場に崩れ落ちた。

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